考え事ー影視点ー
「乗り込むのはさすがに駄目よ、ルリリア。アリーシャが泊まりたいって言っているならそうさせてあげてもいいんじゃないかしら。……アリーシャが悲しい顔をするのは見たくないでしょう?」
「お母様……。でも、国王とリーちゃんなのよ? 危ないわ」
アルベルトと一緒だと危ない……か。うーん、まあそうだよねぇ。とっても大事にしている妹に何かあったら、って思うと不安で仕方ないしね。
話しにはまったく関係ないけど、公爵夫人、アリーシャに全然似てないね。綺麗だよ、でも違う。そもそもあんな青い髪や目になるのは、普通に考えてこの夫人の遺伝子がアリーシャにはない……これが妥当じゃないかなぁ。
それに公爵だってそうだ。あの人の遺伝子もきっとないと思うな。
……そうなるとアリーシャはいったい誰?
こんなこと考えるのあれだけど、もしアリーシャがアルベルトに害をなす存在であるならば……消さなくちゃならない。ラングー公爵家が敵じゃないのは知ってる。公爵は以前、国王の右腕と呼ばれた人物だからね。
でも……アリーシャだけはわからない。親にも、兄弟にも誰にも似ていない、まるで別の誰かの子供のような……不可思議な存在。
それに、もう一つ気になることがある。アリーシャの影であるナスタシアのこと。ナスタシアっていうのはいわゆる苗字で……本名は知らない。どこか『失われた王家』を思い出させる名前と姿────。でも、ナスタシアはいい人だ。信用していいと思う。ならナスタシアが守るアリーシャは……?
「……ちょっとお兄様、この影聞いていないわ。どうにかしてちょうだい」
「えー、面倒くさいなぁ。……おーい」
あ……。しまった、考え事してて気づかなかったよ。目の前にデュークの顔が。
……何考えていたか忘れちゃったよ!
「……あー、ごめんね。で、何?」
「だからね、今日だけはリーちゃんを任せるって言ってるのよ!」
「あれ? いいんだ」
てっきり反対すると思ったのに。まあ、了承してくれなかったら困ってたけどさー。
「でも、リーちゃんに何かしたら……消してやるんだから」
「つ、伝えておくよ」
こ、こわ! 消すなんてこんなお姫様みたいな人から出てくる言葉なんだね……。あー、アリーシャがこうならないよう願うよ。うん、切実に。
「少し雨が弱まりましたよ。今帰った方がいいんじゃないかしら」
「お母様ったら優しいわ。ほら、さっさとお帰りなさい。リーちゃんをしっかり守るのよ」
「あはは……頑張るよ。じゃあ、お邪魔しましたー」
真っ暗な部屋の窓を開ける。風はビュウビュウ吹いているけど、雨は少し止んだみたいだね。
さて、どうやって帰ろうかな……?




