人形化がいいか、それとも空気
「ごきげんよう、国王様。私マナリス侯爵家のナスタシアと申します。この度はこのような素晴らしいパーティーをありがとうございます。私、今日を楽しみにしていましたの。今後ともよろしくお願いしますね」
ま、まあ……。動きは丁寧ですし、話し方も悪くありませんが、まくしたてすぎです……。
びっくりしました。
えっと、マナリス侯爵家は確か派手好きで有名でした。
マナリス侯爵家の方々は金の目と髪をもっているので、あまりに金が好きすぎて目も髪も金になった……という噂もありましたね。
その噂の通り、このご令嬢も金の目と髪をしていますね。それに、派手です。
色とりどりの宝石は目に毒ですし、レースたっぷりの塗りたくったようなピンクのドレスは痛々しいです。もう少し宝石を減らして、ドレスの色も抑えれば上品になるはずですのに……。
「はじめまして、マナリス嬢。楽しんでいただけてよかったです。……来ていただいた所申し訳ないのですが」
「まあ! マナリスなんて。どうぞナスタシアと呼んでくださいな。……ところで、そちらのビスクドールはなんですの?」
……国王様の言葉を遮るなんて。
さすがは侯爵家ですね。わがままです。
きちんとした教養は持っているはずなのに、若さゆえか、それとも人格なのか、発揮できないのは残念ですね。
それに、名前を呼んでもらおうなど厚かましいにもほどがあります。自分から頼むのはルール違反です。身分の高い相手から呼ばれるのは大丈夫ですが……。
私も国王様にアリーシャと呼ばれていますからね。
「いえ、ビスクドールではありませんよ。私の婚約者です。ね、アリーシャ」
……ね、アリーシャ? な、何を言っているの?! 私、国王様の婚約者なんかじゃないですよ。そう、私は人形、私は人形……私は空気、私は空気……
「あ、アリーシャ?」
「……」
空気です。空気なんですよ! あきらめてください。人形を婚約者だと思っている変な人だと誤解されてください!
「……お、おほほほ。国王様はビスクドールが好きなのですね。確かに、美しいビスクドールですもの。……わ、私は失礼させていただきます」
……ほっ。ご令嬢は出て行かれました。よかった。空気化(人形化)は成功ですね。
さて……国王様になんと聞けばいいでしょうか?
私の、婚約者説について!




