優しいお兄様
大変です、お兄様が固まってしまいました。表情のないデュークお兄様なんて久々に見ます、今日は色んなお兄様が見られる貴重な日ですね。
こうなったデュークお兄様はいろいろ勘違いした上私の話しを聞いてくれないのです、なんてめんどくさい。
あ、デュークお兄様が動き出しました。でも傾いでます。ロボットみたいな動きになっていますし表情も戻っていません!
「ふふふ…可哀想にリーシャ、アルベルトに脅されたんだね。僕があいつをやっつけてきてあげるよ」
嫌な笑みを浮かべたお兄様、ああ怖い。今のデュークお兄様は危険です。少し刺激を与えれば爆発するんですよ、経験済みの私が言うのですから間違いありません。
「デュークお兄様。私、自分でパートナーになると決めたんです。デュークお兄様は優しいから心配してくれているんでしょう? でも大丈夫ですよ、それに…今のデュークお兄様は嫌いだわ」
「えっ」
「…私はいつものニコニコしたかわいいデュークお兄様が好きなんです!」
嫌いだわ、と伝えたところで、デュークお兄様がすごい顔をしていました。ものすごくショックを受けた表情です、泣きそうな顔です。
さすがに可哀想なので急いで次の台詞を言いましたが、言ってよかったです。顔が徐々に笑顔になっていきました、一安心ですね…だってここで慰めないと結局めんどうなことになるんですよ。
実はお兄様、以前にもこんなことがありました。大きなことが起きたわけではなかったのですが、私を過剰に心配したお兄様が1週間ずっと隣にいるという悲劇が…とても困りました、もう二度とあんなことが起こらないように願っています。だってちょっと気持ち悪いんですもの。あ、これはお兄様に絶対内緒ですからね?
「…うん、そうだよね、リーシャは僕が大好きだもんね。僕だってリーシャのことが大好きだもん、リーシャが喜んでくれるならいつだって笑顔でいるよ! …今回の夜会のパートナーはヒューだから、きちんと言うんだよ? 国王様に頼まれたからって」
「デュークお兄様…許してくださるの?」
やはりデュークお兄様は優しいです。いつも最後は折れてくれて、私のお願いを叶えてくれるんですよ。たまにはお返しがしたいですね。
でも、ヒューお兄様は許してくれるかしら…? いえ、ヒューお兄様も優しいから大丈夫ね。
「僕はいつでもリーシャの味方だから。ヒューに言うときはフォローしてあげるよ…でも、僕がパートナーだった時は絶対譲らないからね」
あ…お兄様やっぱりまだちょっと怒っているんですね。でも私はお兄様のことよぉくわかっていますよ! お兄様、私のお願いに少し弱いでしょう? 本気でお願いすれば、お兄様はいつだって私のためにって行動してくれるの、私知ってるんですからね!
「まぁ、今回は僕じゃないし覚えておくだけでいいよ。じゃあ、帰ろうか」
「はい…! デュークお兄様、ありがとうございます。大好きです!」
「ぐっ…」
胸に手を当てて腰を曲げたお兄様。ぐってなんですか、ぐって。
お兄様が歩くのがとても早かったおかげでもうお城の外に出てしまいました。ドレスは軽くありませんし、靴のかかとだってそれなりに高いので、次からはゆっくり歩いてもらえるととても助かります。
馬車に乗る際にそれはそれは大切に扱ってくれましたが、ぜひこれからは歩く時に生かしてくださいませ。
そういえば今日のガーデンパーティー、お友達作りのはずだったのに、誰一人できませんでした。私、夜会で大丈夫でしょうか、ひとりぼっちは寂しいです…。
耳をすますと、誰かが談笑している声が聞こえます。まだガーデンパーティーは続いているんですね…帰ろうとおっしゃったお兄様に異論はありませんが、きっと今日の目的を忘れていらっしゃるんでしょうねぇ、もう。