お部屋
リリーちゃんのとっておきの場所、というところに連れて行ってもらいました。ここからデュークお兄様のいらっしゃった部屋まで……たぶん戻れませんねぇ。なんだか左右に曲がったり階段を上ったり忙しかったですから!
「アリーシャ、この扉の向こうがとっておきの場所なの! 準備はいいかしら?」
リリーちゃんが仰るには、扉を開けた一瞬の風が少し強いらしく……装飾品が飛ばないように気を付けてほしいんですって。
「はい、大丈夫ですよ」
「じゃあ開けるわね―――――――っと危ない危ない。アリーシャは大丈夫?」
「だい……じょうぶです!」
扉が開いた瞬間に、目を開けていられないほどの風が吹きました! さすがにふらつきはしませんでしたが、装飾品類は簡単に飛んでいきそうなほどの風でしたよ!
ちなみに私の後ろにはヘンリが立ってくれていたので、転んでしまう心配はもとからありませんでした! さすがヘンリです。おじさまの服の裾もしっかりと掴んでいました。もちろんシワにならないよう丁寧に、かつおじさまが転ばないように……くらいならヘンリは余裕で出来てしまうんですよ!
「……さあアリーシャ、もう入っても大丈夫よ。ここだけ造るのを失敗しちゃったんですって。何か食べたりする分には大丈夫だから安心してちょうだい」
「……造るのを失敗……? ……はい、では改めて失礼しますね」
入るようにと促された扉の向こうには、なぜか青空が広がっていました―――――――。
「驚いているようだね、アリーシャ。ここは僕がリリーのために造らせた部屋なんだ」
「造らせた、ですか……?」
身に付けているドレスの色よりもさらに美しい空やふかふかとした芝生、時折吹くこの穏やかな風が……作り物、だというのでしょうか?
……信じられません。軽く息を吸うだけで薫る土や草花の匂いが偽物だなんて!
「精巧な造りですね。ルリリアが造った物でしょうか」
「ああ、よく気づいたね。さすがラングー家に仕えているだけのことはあるみたいだ」
「……これをお姉様が?」
「そう。一人でやった訳じゃないけどね」
お姉様が……でも、お姉様なら納得です。お姉様はいつも素晴らしい何かを作っていて、でもそれは私には全く理解のできない何かで……だけど親しみを覚えるような、そんな何かなんです。
「扉の設計だけミスして風が強く吹いちゃうことだけが残念ね。ね、アリーシャ。そんなことより早く準備しましょ!」
「あ、はい! そうですね、早く準備しましょうか」
でも……どうしておじさまはリリーちゃんのためにこの部屋を造ったんでしょうか……?




