アリーシャの急変
私なんてずっと一緒にいるのに、怒られたことがないんです。むしろあまり関わったこともないような気が……いえ、そんなことはない、はずです。
「リーちゃん、もうお話しは終わった? 戻ってらっしゃい。国王様があなたに相談したいことがあるんですって」
「あ、はい、お姉様!」
どうやらお姉様をお待たせしてしまったみたいです。国王様もですね!
「お待たせしてしまってごめんなさい、お姉様。お隣失礼しますね」
「いいのよ、リーちゃん。さあ、お話しを聞いてあげて」
「はい。……国王様、私に何か御用ですか?」
国王様はお姉様だけに用があるのだと思っていました。さっきの話しからすると、私は国王様の婚約者になってしまったようですが……まあ、驚きはしません。一応、公爵家ですからね。実はラングー家は王家の次に偉い地位にあったりするんです。だから、この家の誰かが王家の方と婚約してもおかしくないんですよね……。
あ、でも可能性の話しならお姉様が婚約者となる線が有力でした。それか、もう一つの公爵家のご令嬢の……ええっと、どなたでしたっけ。忘れてしまいました。
っとまあ、私にも婚約の話しは出ていたので驚きはしないんですよ。……ずいぶん昔の話しですがね。
「まず、謝らせてほしいんだ。……ごめんね、アリーシャ。昨日僕が自分勝手な理由で君に無理をさせて。しかも、それが原因で僕と婚約させられて……いやだよね。……でも。でももし君がいやじゃないって言ってくれるなら……なら、このまま僕の婚約者になってもらってもいいかな……?」
国王様はじっと私を見て、そう告げました。顔を少し赤らめて、不安そうに声を震わせて。こんな自信なさげな国王様、はじめて見ました。……国王様らしくありません。
「国王様、そんなお顔をなさらないで。国王様は、国王様なんですよ? この国で一番偉いんです。だからどうか、自信を持って。臣下である私に、そんな風に頼んではいけません。あなたはいつだって前を見て、自身の発言に誇りを持つべきです」
少し、厳しいことを言っているのかもしれません。だって、国王様は私のことを思って言葉を紡いでくださっています。私が嫌なら断れるように。でもそれは……きっと、無理なんですよね。
「……国王様、あなたが望むのなら、私に断ることはできません。でも今、あなたは私に答えを求めた。それは、私に対する優しさですか? ……本当に、それは正しいですか? あなたは、上に立つものです。弱味を見せることは、時に必要で、時に下のものに不安を与えます。そんな自信なさげに言われて、相手は気持ちよく了承できるのでしょうか」
そう……国王様が言ったことは簡単には断れないんです。例え私が、ラングー公爵家だとしても、です。なんとも不思議な世の中ですよねぇ。相手は断ってもいいと言ってくれているのに、位のせいで断れないなんて。これが婚約という重いものでないなら話しも違ったのでしょうけど……。
やはり、少し厳しく言い過ぎたでしょうか……?




