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復讐の理

6.

藤堂は、上条を伴い事務所を出て、用意したベンツに乗り込んだ。

その様子を、覆面パトカーから伺っていた、城ケ崎と蒲田にも緊張が走る。

「いよいよ、お出かけやで」

蒲田が、ゆっくりと車をスタートさせた。



遥達を載せたタントは、谷町筋を南下し茶臼山を目指していた。

「遥ちゃん、説明してくれへんかな?緑さんに何があるんや?」

和哉の問いに、遥は感情を押し殺した声で答えた。

「緑が、毒蛾の正体よ。そして……私の母でもあるわ。」

「ええっ!?」



「葵はん、一体どうして?」

柳川は、突然の葵の登場に驚きを隠せずにいた。

「この度は、ウチの者が大変なご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。」

と、葵は深々と、頭を下げる。

「いやいや、頭上げとくんなはれ。どういう事でっか?」

「今回の騒動は、全て娘の仕業なんです。鍋島さんや東郷は、その尻馬に乗っている樣なものです。」

「何で娘さんが?」

「3年前、横浜で東郷のところの取引現場が、襲われた事がありましたでしょう?藤堂さんも同席なさってた。」

「ありましたな。」

「その時、藤堂さんが、1人の人間を射殺しました。それが、娘の夫だったのです。」

「何やて!?」

「ですから、あの子は復讐のつもりなんです。でも、藤堂さんだけに対するものであれば、私も思いを遂げさせてやりたいと思っておりましたが、追い込むつもりか何か知りませんが、関係の無い方まで巻き込んでしまって、さらには、跳ねっ返りの孫娘が、無茶をしそうだと、この竹浦から連絡を貰って、取るものもとりあえず、駆け付けた次第です。」

「そうやったんですか。ほんで、葵はん、どうされるつもりでっか?」

「今から、緑のところへ行きます。私に任せて貰ってよろしいですか?」

「かまいまへん。戦後の闇市で、幅きかせとったチンピラが、曲がりなりにも仁柳会こさえて、ここまで大きゅうなれたんも、葵はんの力添えのお陰や。アンタが、潰す言うんやったら好きにしてくれて結構ですわ。その代わり…」

「何でしょう?」

「…ワシも、行きますわ。」



遥達は、エステート茶臼山に通じる路地の手前で、タントを停めた。

「遥ちゃん、どないするん?」

「部屋は?」

「3階の302や。」

遥は、車を降りエステート茶臼山を目指した。

和哉と、祐輔も後に続く。

エントランスは、オートロックであった。

遥は、302とボタンを押して、インターフォンのボタンを押した。

返事は無い。

「居ない樣ね。」

「どないする?」

「そろそろ、藤堂さんも来るでしょう。それまで待ちましょう。」



藤堂達のベンツを、尾行する城ケ崎と蒲田は、デジャヴュに似た感覚を味わっていた。

「何か、今日はよう谷町筋通りますねえ。」

「余計な事、言うとらんと、しっかり前見とけ。」

「しかし、何処へ行くつもりやろ?会長のところですやろか?…ん?何や、このバイク…」

蒲田が、1人ごちた時レーサータイプのバイクが並びかけて来たかと思うと、棒状の物を、覆面パトカーのフロントガラスに、叩きつけて来た。

蒲田は、思わず急ブレーキをかけた。

お陰で、フロントガラスが完全に粉砕される事は無かったが、蜘蛛の巣状のヒビ割れが入ってしまった。

「城ケ崎さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫や、それより藤堂の車は!?」

「あきません、完全に遅れましたわ。」

「とりあえず、追いかけえ。」



遥達が、待つエステート茶臼山に到着した藤堂は、遥を見て言った。

「アンタ今朝の…おい、和哉!こりゃ、どういうこっちゃ!」

「藤堂さん、橋詰さんを責めないで下さい。私が、騙して彼に近づいんです。」

「おう、そうや。説明せえや、姉ちゃん。」

「3年前、横浜の本牧で貴方は、拳銃で1人の人間を射殺しましたね?」

「あ?」

「貴方が、殺したのは、私の父です。」

「何やと!?」

「そして、緑の夫でもあります。」

「緑の!?」

「緑は、復讐の為に貴方達に近づきました。まさか、当の本人の愛人に収まっているとは、思いも寄りませんでしたけど。」

「せやったら、アンタは緑の娘なんか?」

「そうです。」

「アンタ、いくつや?」

「20歳です。」

「けど、せやったらワシは、アンタのお父ちゃんの仇になるんちゃうか?」

「本来ならそうなんでしょうね。…でも、私は不思議と貴方にそれ程、憎しみを抱いてません。…いえ、それは嘘になりますね。ただ、それ以上に私は、アイツが憎いんです。アイツが、あんな事さえしなければ、藤堂さんが、父を殺す事も無かったでしょう。」

「緑が、毒蛾なんか?」

「そうです。」

「何ちゅうこっちゃ…」

その時、

「ぐっ!?」

と、藤堂の後ろに居た上条がくぐもった声を上げた。

全員が、その方を向くと、全身、黒のレザースーツに身を包んだ女が立っていた。

その足元に、喉を切り裂かれた上条が倒れている。

「緑…」

緑は、藤堂を睨みつけて言った。

「やっと、この時が来たわ。」

藤堂が、素早く反応して拳銃を引き抜く。

だが、それ以上に早く緑が動き、藤堂の拳銃を持つ手を捻り上げ、背後を取るとナイフを首筋に突き立てた。

「親父っさん!」

和哉が、叫ぶ。

緑は、立ち尽くす遥を見やり言った。

「ごめんね、遥…ごめんね。」

「母様……」

その瞬間、銃声が轟き緑の頭部が弾けた。

糸の切れた人形の樣に、緑の身体が崩れ落ちた。

「母様!」

遥が、駆け寄る。

「何や!今の銃声は!」

と、城ケ崎と蒲田が駆け付けた。

その惨状に、2人は声を失った。

遥は、弾けた緑の頭をかき集めながら、血まみれで泣きじゃくっている。

遅れて、葵と竹浦に支えられた柳川が現れた。

「何ちゅうこっちゃ…間に合わんかったか。」

柳川の登場に、我に返った城ケ崎が言った。

「とりあえず、アンタら全員、本部まで同行して貰うからな。」

その時すでに、葵が音も無く姿を消していた。



ザ・リッツカールトン大阪の1室で、東郷忠信は大阪の夜景を見ながらほくそ笑んでいた。

全ては予定通り、今回の件で仁柳会の弱体化は間違いない。

念願の関西進出もやりやすくなった。

その時、入口の方で物音がした。

「柏木か?首尾はどうだった?」

振り向いた東郷の前に、喉を切り裂かれた柏木が転がった。

「何!?」

驚く東郷の前に、姿を現したのは葵であった。

「アンタ…」

「東郷、もう終わりにしましょう。」

葵の右手に握られたナイフが、大阪の夜に煌めいた。

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