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復讐の糸

2.

アンタのせいだ。

全部アンタが悪いんじゃない!

何で、父様が死ななきゃいけないのよ!

アンタが死ねば良かったのよ!

アンタさえ居なければこんな事には……赦さない…私は、絶対にアンタを赦さない!

そう叫ぶ私を、アイツは哀しそうな目で見た。

そんな目をしても駄目だ。

私は、決して赦しはしない。



和哉と祐輔は、デリヘル嬢の美尋を連れて、お好み焼き屋に戻って来た。

「親父っさん、連れて来ました。」

「おう、お姉ちゃん、すまんなあ。まあ、座り。」

美尋は、怯えた表情で座った。

「そう怖がらんでもええ、別にアンタをどうこうするつもりは無いさかい。ただ話しを聞きたいだけや。ええか?」

「はい。」

「ほんで、アンタ夕べは神林とどういう事になっとってん?」

「8時にホテルへ来るように言われてました。」

「部屋へ直接にか?」

「…そうです。」

「ドアは?鍵は掛かってへんかったんか?」

「はい、あのドアが閉まらへんようにする三角ヤツあるやないですか。あれが挟まってたんです。」

「それで中入ったんか?」

「そうです。」

「ほんで、どうやったんや?」

「中に入ったら、テーブルのところの椅子に座った格好で神ちゃ…神林さんが死んでたんです。」

「…撃たれてたんか?」

「いえ、違います。首絞められてて…」

「首を?」

「何か、細い糸みたいなんで…」

「細い糸?ピアノ線か何かか?」「いえ、そういうんやのうて、何て言うたらええんかな……あ、そうや!釣り糸や。釣り糸みたいな白っぽいヤツでした。」

「釣り糸みたいな……まさか、おい、姉ちゃん他に何か無かったか?テーブルの上とか。」

「ああ、そういえば、バーボンが有りました。」

「フォアローゼスちゃうやろな?」

「そうですそうです、フォアローゼスのボトルとグラスが2つ有りました。」

「ほんまやな?間違いないか?」

「はい…」

「それからどないしたんや?」

「ウチの叫び声聞いた、多分、客室係やと思うんですけど、女の人が飛び込んで来て、その人が部屋の電話で色々手配してたみたいですけど、そのうち警察とか来て…」

「そうか……」

藤堂は、そう言ったきり顎に手を当てて何やら考えている。

「親父っさん?どないしました?」

「ああ、すまん。」

藤堂は、そう言うと内ポケットから財布を取り出し、万札を有るだけ出した。

30万くらいは有りそうだ。

「お姉ちゃん、すまんかったな。これ少ないけど。」

「いえ、ウチそんなん貰えません。」

「ええんや、迷惑料や思うて貰うといてくれ。」

藤堂は、美尋に無理矢理金を持たせると、

「祐輔、お姉ちゃん送ったってくれ。」

と、言ったきり黙ってまた何やら考え始めた。

祐輔が、美尋を連れて出て行った後も、難しい顔は、変わらなかった。

「親父っさん?」

「辻村のボケが…」

「辻村て…親父っさん、辻村さんが叔父貴を殺った思うてはるんですか?」

「他に、誰がおるんや?それだけやない、あのボケとんでもないモン引き入れよって…」

「とんでもないモン?何ですの?」

「毒蛾や!」

「毒蛾?…でっか?」

和哉は、首を捻る。

「知らんか?銃を使わず獲物を仕留める殺し屋や。ほんで、手向けのつもりか何か知らんが現場に必ず、フォアローゼス置いて行きよるんや。」

「何か聞いた事ありますけど、それって都市伝説とかとちゃいますのん?」

「あほう、ほんまや。獲物が単独やったら琴の糸で絞め殺し、複数やったらナイフで喉をかっ捌くんや。」

「ほんまですか?」

「ほんまや、ワシは実際、見た事あるんや。」

「何処でですか?」

「3年前に、横浜でな。お前や祐輔がまだウチの組に入る前の話しや。横浜の東郷会の会長が、ウチの親父と兄弟分なんは知っとるな?」

「はい…」

「その関係で、3年前にワシが横浜へ出向いとった時の話しや。東郷会と中国の奴らの取り引きがあったんや。」

「取り引きでっか?」

「せや、ヘロインのな、ほんでワシは見学がてらその取り引きに付き合うてん。その取り引きの最中に襲われたんや。」

「襲われたて…その毒蛾にでっか?」

「そうや。もちろんその時は、毒蛾とは分からんかったけどな。後で東郷の会長さんから聞いたんや。毒蛾いう殺し屋や言うてな。

毒蛾いう殺し屋の話しは知っとったけどな、その時は、ワシもお前みたいに都市伝説みたいなモンやて思うとったわ。ワシの背中に傷があるやろ?そん時にやられたんや。」


3年前__

横浜本牧埠頭倉庫。

藤堂は、東郷会若頭の峰岸ら5人と共に、中国マフィアとのヘロインの取り引き現場に居た。

取り引きが、滞り無く終わろうとしていたその時、突然、倉庫内の明かりがきえた。

誰もが何事かとうろたえる中、最初の叫び声が響いた。

そして、銃声が響く。

後は、叫び声と銃声が入り混じる大混乱であった。

藤堂は、流れ弾を避けようと必死に身を低くして、乗って来た車の影に隠れた。

静寂が訪れるまで5分とかからなかっただろう。

その中、微かな足音を、藤堂は聞いた。

右手で腰の拳銃を探る。

冷や汗が、背中をつたい生きた心地がしなかった。

その時、倉庫の明かりが突然点った。

藤堂が、車越しに覗き込むと、倉庫の入口脇の配電盤の傍に、男が居た。

藤堂は、襲ったヤツかと思い、その男に向かって引き金を引いた。

その瞬間、背中に鋭い痛みを感じた。

他にも仲間が居たのかと、藤堂は自らの死を覚悟した。

しかし、藤堂が撃った男が何かを叫ぶと、全身黒ずくめ姿のもう1人が、何故か、その男を抱えて姿を消した。



「…それからワシは、何とか東郷の会長のところまで戻って、医者を呼んでもろうて助かったんや。」

和哉は、驚きを隠せなかった。

その時、

「おもろい話しやないか。」

と、声がかかった。

藤堂と、和哉が驚いて振り向くと、戸口に1人の男が立っていた。

「…アンタ…」

その男は、大阪府警本部捜査4課の城ケ崎肇警部補であった。

藤堂達の業界のみならず、警察内部でもハイエナと呼ばれ、忌み嫌われている存在である。

「何で、此処が…」

和哉は、呆然としている。

「あほか、オノレらの考えそうな事くらい分かるわ!どうせあのデリヘルの女引っ張りよるやろ思うて張っとったんや。

後は、その兄ちゃんらに道案内してもろただけや。」

藤堂は、苦虫を噛み潰した樣な表情だった。

「親父っさん、すんません。」

和哉が、頭を下げる。

「…で、どないしまんのや、城ケ崎はん、ワシ引っ張りますのんか?」

城ケ崎は、ニヤリとして言った。

「そう思うとったんやけどな、今の話し聞いとったらオノレを引っ張ったところで、あんまり意味無い樣やしなあ。」

「どういう意味でっか?」

「どうやら、ほんまに知らん樣やな。

ほな、特別に教えたるわ。此処へ来るまでに無線で連絡入ったんや。

東淀川の大桐地区の淀川沿いの堤防で死体が発見されたんや。

テトラに引っ掛かとんのを、バス釣りの兄ちゃんが見つけたんや。」

「死体て…?」

「辻村のや。」

「な、何やて!?」


辻村亮介殺害の報は、警察は元より仁柳会のみならず、遥にも衝撃を与えた。

「どういう事?夕べの神林の事は一足違いだったけど、辻村の件は全く予想外だわ。

何でこんなに急に、アイツは動き出したのかしら?」

「恐らく、仁柳会の跡目相続問題に乗じたのではないかと…あるいは、その樣に仕向けたのかも知れません。」

竹浦が、静かに答える。

「という事は、アイツはよっぽど、仁柳会の内部に食い込んでいるって事?」

「少なくとも、十分に情報が得られる立場に有ると考えられます。」

「…分からない…アイツが狙っているのは、藤堂の筈でしょう?何で神林や辻村を殺す必要が有るの?」

「仁柳会の壊滅…とまでは、さすがに無理と思われますが、じわじわと追い詰めるつもりなのかも知れませんな。」

「ふん、アイツらしい嫌なやり方…」

遥は、窓の外を眺めため息をついた。

「何でこんな事になったんだろうね…」

「お嬢様…」

「婆様は、私に何を隠しているの?アイツは、何であんな事を続けているのよ?竹浦、貴方は知ってるんでしょう?」

「いえ、私は何も…」

「嘘よ!もう何十年もウチに居て、婆様の傍に居るのに知らない訳無いじゃない!」

「……お嬢様。」

「まあ、いいわ。アイツに聞くから。全てをアイツの口から…それから父様の仇を討つ。」

そう言う遥を、竹浦は、憐れむ樣な目で見ていた。


いやはや、アンタにはほんま驚かされますわ。

神林が、死んだ思うとったら、翌朝には辻村やて。

ほんま恐ろしい早業でんな。

この調子で、後の1人も頼んまっせ。

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