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そしてまたため息をついて、原田はシジミ汁とスポーツドリンクその他を買って、君島の部屋に戻った。
アパートの階段を登る途中、隣の畑にネギが生えているのが見えて、階段を下り周りを見回してから先っぽを頂いた。
窃盗罪。
でも現行犯じゃない。
食ってしまえば証拠もなくなる。
しかし君島の部屋に戻り、また衝撃を受けた。
ナイフがない。
もちろんまな板もない。
本当に腹が立つ。
目に付いたのはハサミ。
アルミホイルがあれば砥げるのだが、と思いながらハサミを一度流水で流してネギを切った。
ネギを盛った小皿とインスタントのシジミ汁を調理台の上に並べた。
飲み物は冷蔵庫に入れてある。
さて帰ろうと玄関に向った時、大音量の目覚ましが鳴った。
耳を塞いで部屋に入り、やかましくなり続ける目覚まし時計を叩いて止めた。
君島は熟睡したまま。
原田は呆れた。
足は散々蹴ったが、頭も殴ってみようか。
すると何故か君島がうっすら目を開けた。
原田は怒ったまま冷たく見下ろす。
そして君島が眉間にシワを寄せた。
原田は嫌な予感がして、すぐに部屋を出ようとしたが、君島にブルゾンを掴れた。
「こ、いち……」
勘弁してくれ。
俺はもうこれ以上の労働は……。
そう思いながら肩越しに君島を振り返った。
「僕……、本返す……約束……お昼に……」
その片言でも原田の高速回転型頭脳は意図を了解した。
「電話で断れよ」
「……もう……会えな……今日、……でお終……」
「じゃあもうお終いにしとけ」
「……行って」
「やだ」
「500円」
「バカにしてんのか?」
「2000円」
「……」