6
無事に部屋に辿り着いたのは奇跡だと原田は思った。
君島は殆ど寝ていたからだ。
何度も落ちそうになる体を原田が片腕で支えた。
落ちて君島が死んだら原田の責任になるからだ。
過失傷害、あるいは過失致死。
こんなやつにそんな罪を負わされて一生を台無しにされたくない。
またガードレールの横にバイクを停止させ、君島に降りるように怒鳴った。
君島はよれよれしながら降りて、そのままガードレールにもたれて座り込んだ。
その間に原田はバイクを歩道に停め、すっかり行き倒れ風に転がる君島の元に嫌々向った。
「おい」
とまた足を蹴ってみる。
「……ったいよ……」
君島の高い声が聞こえた。
そうだろうな。思いっきり蹴ってるからな。と原田は見下ろす。
「立てよ。お前の部屋二階だろ。あ、……ここなら置いていってもいいか」
そう呟く原田の足を掴み、君島が呻きながら立ち上がった。
不用意に触るなよ、と原田は顔を顰めた。
君島の部屋の鍵をキャメルのコートから探り出し、ドアを開けて電気をつけて、部屋が明るくなると原田は思わず右腕で支えていた君島を落とした。
……汚い。
君島の部屋は一般的なワンルームだ。
入ってすぐキッチン、向かいにバス・トイレ。奥に6畳。
何故玄関先に靴下?シンクに雑誌?廊下にトレーナー?冷蔵庫の上に帽子?そして全体に紙くずとポリ袋?
土足で上がりたい、と思いながら落とした君島を拾い、爪先立ちで進んで奥の扉を開き、
また君島を落とした。
落ち着く言葉を一つ思いついた。
ここは、大きいゴミ箱なんだ。
そう考えたら気が楽だ。
君島は大きなゴミ箱に住んでいる。
そう考えよう。
納得しよう。
原田はそう自分に言い聞かせた。