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原田は人に身長を訊ねられることがよくある。
自分より長身の人間にそう会うこともないので仕方がないかと諦めてもいるが、それでも訊かれるとなんとなくサバを読む。
「180ちょっとです」
実際は190を越えている。
自分は長身になるはずではなかった。
根拠はないが、ここまで伸びるとは思ってもいなかった。
高校の時にいきなり伸び出したのだ。
それまでは平均より小さかった。
君島より小さかった。
はっきり言って迷惑だった。
毎晩脚がつるのも苦痛だった。
成長が止まると聞いてタバコを始めたのがこの時期だ。
牛乳も止めた。
それでも伸びた。伸びてしまった。
雨後のたけのこの如く。
原田は君島の小ささが羨ましい。
ここまででかくなければ自分は今ほど目立たずに済んだはずだ。
目立つのが嫌だった。
面倒だから。
こっそりそこそこの生活で生きて行くのが原田の目標だ。
それがたった高校の3年間で伸びた30cmのせいで台無しだ。
「おい。立てよ。後ろに乗せるから部屋につくまでは起きてろ」
ほぼ正体のない君島の脇から右腕を入れて、肘でゆする。
「……う~ん……」
君島は夢の中。
夜が明けてからの遺体確認の方が楽かなぁ……と少し計算する。
それも面倒だしな。とすぐ計算を終える。
電柱とガードレールにもたれて眠る君島を置いて、原田はバイクを動かした。
一旦ガードレール横にバイクを停め、君島を引きずってガードレールに座らせた。
バイクに乗ってみてから気付いたのだが、君島を乗せてから原田が乗るという順番は不可能だ。
ここで限界が出来た。
「自力で後ろに乗れないなら置いていく。俺にはこれ以上のことは無理だ」
ここまでしたのだから充分だろう。
精一杯だ。
納得納得。
「新聞配達か早朝ジョギングしている人にでも発見してもらえ」
そう言ってギアを落としたら、君島がガードレールから降りて原田の肩につかまった。
あ~……と原田はヘルメットを被った頭で俯いた。
原田はタンデムが嫌いだ。今まで一人も乗せたことがない。
現実に君島に寄りかかられてから警察に通報した方が良かったと後悔した。
思考の展開は速いが時々机上の空論にすぎないことがある。
エンジンを切って、おい、と頭を押しやるとそのまま後ろに倒れそうになった。
慌てて襟を掴み引き戻し、顔を顰めたままヘルメットを脱いで君島に被せた。
恐らくこのバイクのシートから落ちるだけで脳挫傷だろう。
などと考えている原田の腹に、君島が両腕でぎっちりしがみついた。
原田は、髪の毛が逆立つ気がした。
他人との接触も激しく厭うている。
早く済ませよう。
泣きたい気持ちを抑えて原田はキーを回した。