4
君島だけタクシーで帰そうと手を上げて車を止めたが、原田が指差した後ろに君島がいず、あれ?と下を見ると、君島は道路で寝ていた。
ドライバーは手と首を振りながらドアを閉め走り去った。
原田は右手で目を覆い、再び君島の足を蹴った。
「おい。ここで寝るのか。置いていくぞ」
君島がククッと笑った。
「いいよ。明日には死んでるかなぁ?」
気の抜けた声で言った。
そして原田を見上げた。
「いいなぁ浩一は。絶対女に間違われないもんね。」
しばらく沈黙した後、原田が一応言った。
「あのオヤジはお前を女だと思ってたわけじゃない。あそこは男風呂だ」
君島は笑ったまま上体を起こし、俯いたまま小さい声で言った。
「あそこにいたのは僕だけじゃない。それなのに、何人いてもターゲットは僕になる」
そして笑うのを止めた。
「だから強くなったのに。どんな相手でも殺せるくらい強くなったのに」
そしてボロボロ泣き出した。
原田は右手で目を覆ったまま夜空を、いやもう朝空を仰いだ。
鬱陶しい……。
そう考えながらももう最悪の事態の想定は済んでいる。
このまま放置した際に自分に要請される行き倒れ遺体の身元確認だ。
そんなことになるなら連れ帰って自室で死んでもらうほうがいい。
問題はその方法だ。
と考えているうちに泣きながら歩道に大の字で転がっている君島の息がそろそろ規則的になってきた。
「寝るなよバカ!」
と慌てて蹴るが、もう手遅れだ。
寝た。
原田は頭を抱えた。
通報するか。警察に。パトカーで運んでもらって交番に一泊しろ。
と、一瞬考えたが、原田は警察が嫌いだった。電話するのも嫌だった。
かなり嫌だが、君島とタンデムする方がマシだった。
ハブに噛まれるならマングースに噛まれた方がマシだと言う比較に似ているかも知れない。
ちょっと違うかも知れない。
バカなことを考えながら原田は君島の腕を引き上げ、半分意識を取り戻させて歩かせた。
引きずられる君島はきちんと直立していないので原田と比較して頭一つ小さい。
ちいせぇなあこいつ……と思いながら原田はさっきの君島の言葉を反芻した。
『いいなぁ浩一は』
……うらやましいのはこっちだけどな。
と原田は君島に冷たい視線を送った。