2
鳴り続ける電話を無視し、キッチンで冷蔵庫から麦茶を出し一口飲む。
何度も鳴り、切れ、再度鳴り出すこと五回目でしかたなく原田は携帯を取った。
「なんだよぉ~~~~~っ!何ですぐに出ないのさ~~~!!!」
「何時だと思ってるんだ」
携帯に向かって言った。
君島の声がでかいので、耳から離している。
「知らないよ~!僕はもう、死ぬんだからねっ!!」
「あ~」
「なんだよそれっ!どうせ嘘だと思ってるんだなっ!」
「嘘じゃなきゃいいなと思ってるよ」
小声で言った。聞こえるとまたうるさいからだ。
「さいてーだよぅ……。こーいち、一緒に飲もうよ」
「やだ」
「来てよ」
「やだ」
「死ぬぞぉ!本気だからなっ!!」
「お前、どこにいるの?」
「もう死ぬからね!明日僕の死体が大浴場に浮いてるんだ!引き取りに来てよ!!」
あ~……鬱陶しい……
「どこだよ。通報しといてやるよ」
電話の向こうでなにかガタガタという音が聞こえ、しばらくしてから通話が切れた。
しばらく原田も、通話の途切れた携帯を見つめた。
おおかたいつもの大浴場つきカプセルホテルなのだろう。
酒に弱い君島は、飲んだ後自分の部屋にたどり着けないことがしばしばあるらしい。
そういうときに必ず利用するホテルがある。
遺体となって大浴場に浮いた場合、俺に連絡が来るんだろうか?
君島の身内は横浜だ。
身元確認に他の知人が呼ばれるかも知れないし俺の可能性もある。
溺死体。
原田は大変臆病な性格で、常に最悪を想定してそれを回避する道を選んで生きてきた。
今回はとりあえず溺死体の身元確認の回避。
またジーンズをはきブルゾンを着込みヘルメットを持って、君島がいるであろうカプセルホテルに向った。
深夜、というよりもう早朝。カプセルホテルのフロントには誰もいない。
原田はこの手のホテルを利用したことがないのだが、こんな無用心でいいのか?と思った。
簡単に盗みに入れそうだ。
とりあえず、溺死体の有無の確認をしようと大浴場を探し扉を開いた。
ほとんど人がいない。
二人、三人、寝ている。
寝て、……
原田は一度扉を閉めた。見なかったことにしようかと思った。
君島が太ったハゲ親父に、着ているシャツのようなものを脱がされているところだった。
君島は意識がないようだ。