10
硬直の取れた「浅井さん」と原田は二三会話をして、まだ驚いている「浅井さん」にまた本を渡そうとした。
しかしその「浅井さん」は急に吹き出し、原田が顔を顰めていると、君島の所に連れて行けと言い出した。
もちろん原田は速攻で断った。
しかし、
「五千円出す」
「いや……」
破格だな……
「一万円」
「……」
大金だな……
またしてもこのパターンで押し切られる。
嫌だなぁと思いながら、一万円か。
当分ガソリン代に困らない。
などと計算する。
しかし初めて乗せる相手でしかも女。
横座りなんかしたらどうしよう。
と思っていたらちゃんと跨いだ。
なんにしても、振り落とす可能性もある。
原田は安全対策にヘルメットを渡した。
「私が被るの?」
「飛ばしますから」
ほぼ初対面の「浅井さん」に俺の人生を台無しにされたくもない。
君島のアパートに着き、「浅井さん」を部屋に追いやり、原田はタバコを吸おうと思った。
そういえば今日一本目だ。
と、火をつける前に返されたヘルメットを見て、咥えたタバコを落としそうになった。
……内層のスポンジガードに、ファンデーションが付いている……。
手で顔を覆い、タバコを箱に戻し、君島の部屋に向った。
ドアを開けたところで、あ、ここには洗剤がないんだったと思い出す。
何から何まで腹が立つ。
そこに君島の泣き言が聞こえた。
「好きでこんな顔なんじゃないのに……」
むかつく。
「顔だけで僕は、差別されるんだ……」
「まだ言ってんのか。いい加減正気に戻れ。鬱陶しい」
まったく鬱陶しい。
お前のせいで俺のヘルメットが汚れたんだぞ。
なにか仕返しをしてやりたい。
……あ。そうだ。