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第9話:至高の和栗モンブラン

 都心を襲った未曾有の災害から数日。

 瓦礫の山だった新宿の街並みは、現代魔法を用いた驚異的な速度で復興が進んでいた。

 街を包む空気は沈痛なものではない。むしろ、湧き上がるような熱狂に満ちていた。

 駅前の大型ビジョンでは、魔法省の大臣が誇らしげに会見を行っている。

『——先日の時空亀裂、その先には未知の広大な世界が存在することが判明しました! 我々はこの新領域を「ダンジョン」と呼称し……』

 人々の喧騒と、未知の世界への期待。

 僕はその熱狂を他人事のように聞き流しながら、銀座中央通りにある超高級パティスリーの前に立っていた。


『……ねえ蓮、まだなの? 私のモンブランが、待ちくたびれて凍りついているわよ』

 隣で不満そうに僕の袖を引くのは、絶世の美少女。

 ……といっても、今の彼女はレイ本来の姿ではない。

 銀髪を魔法具の帽子に隠し、眼鏡をかけ、魔力で少しだけ顔の印象を変えた『変装モード』だ。

「わかってるよ。……はい、予約してた『至高の和栗モンブラン』。これ、一つで僕の一ヶ月の食費より高いんだけど……」

『ふん。葵としての報酬が余っているのでしょう? 有効に使ってあげなさい。この「科学」というやつ、お菓子作りに関しては認めてあげてもいいわね』

 テラス席に座るなり、レイは上機嫌でフォークを動かした。

 葵としての給料は、国家最高戦力だけあって一般人の想像を絶する額だ。

 内気な高校生には使い道のない大金が、今、銀髪の精霊の胃袋へと消えていく。

『……美味しいわ。この滑らかな舌触り、魔素の練り込みに近い芸術性を感じるわね』

「それはよかった。……さあ、食べ終わったら帰ろう。あんまり長居すると——」


「——あ、一ノ瀬くん?」


 その声を聞いた瞬間、僕の背筋に氷魔法を叩き込まれたような戦慄が走った。

 ゆっくりと振り返ると、そこには買い物袋を下げた雪城ゆきしろかりんさんが、驚いた顔で立っていた。

「やっぱり。一ノ瀬くんだ、こんな高いお店で何を……。あ……」

 かりんの視線が、幸せそうに口の端にクリームをつけているレイへと注がれる。

 僕はパニックになり、気づけば口が勝手に動いていた。

「あ、雪城さん! 奇遇だね。えっと、彼女は遠い親戚で……。あ、そうだ、もしよければ、これから二軒目に行くんだけど、一緒にどうかな!?」

(……何を言ってるんだ僕は!)

 自分の墓穴を掘るような提案にレイが眉を動かした。かりんは「……行く」と即答した。



 移動したのは、銀座の端にある老舗の茶屋。

 お洒落な洋菓子店とは一変し、落ち着いた畳の香りが漂う空間だ。

 運ばれてきたのは、漆黒に輝く羊羹ようかんと、季節の上生菓子、大福など。

『……あら。これはまた、先ほどの「洋」とは異なる静謐せいひつな美しさね』

 レイは興味深そうに、今度は黒文字を手に取った。

 羊羹を一口運び、目を細める。

『……面白いわ。甘さが押し寄せるのではなく、深い淵からじわじわと染み出してくるよう。蓮、これは「和」の真髄ね。私はこちらの方が好みかもしれないわ』

「そうか。………って、感心してる場合じゃないよ。……雪城さん、どうしたの? 全然食べてないじゃないか」

 かりんは、目の前の大福に一切手をつけず、じっと僕とレイを交互に見つめていた。

 その瞳は、逃げ道を塞ぐ捕食者のそれだ。

「……隠しても無駄だよ、一ノ瀬くん。銀色の髪、隠してるけど……あの時、学園で私を助けてくれた女の子だよね? 一ノ瀬くん。君、本当は何者なの? 葵様と、どういう関係なの?」

 喉が鳴る。僕は必死に脳内計算を加速させた。

「いや、だから親戚で、彼女は魔法なんて全然使えないし、学園にいたのは——」


『――極秘任務よ』


 茶を啜り終えたレイが、事もなげに言い放った。

「「……え?」」

 僕とかりんの声が重なる。レイは口元の餡を指で拭い、冷徹な美貌(変装中だが)でかりんを見据えた。

『これ以上の追求は、貴方の身の安全を保証できないわ。……そうね、蓮?』

「……あ、ああ。……そうなんだ。国家レベルの、ね」

 レイの無茶苦茶なパスに、僕は震える声で乗っかるしかなかった。レイにまた借りを作ることとなる。


 かりんは呆然として、目の前の「羊羹を食べる極秘エージェント(仮)」を見つめている。

 もちろん、そんなわけがないとは分かっているはずだ。だが、レイの放つ圧倒的な「格」と、説明のつかない実力が、その荒唐無稽な言葉に妙な説得力を与えてしまっていた。

 銀座の静かな茶屋に、気まずい沈黙が流れる。

 僕の平穏な日常が、羊羹の甘さとともに溶けて消えていくのを感じた。

こんばんは!よつばです!

今回お話を書くに当たって和菓子について調べたのですが、あの羊羹とかを食べるのに使う棒って黒文字って言うらしいです。初めて知りました!


追記 ここまで読んでくれて本当にありがとうございます!構想等を練り直したため、新しいお話として新連載することとなりました。ロスト・マジック・リバイバルです。基本的には同じですが、より良くなっています。次回作からはそちらでの更新となりますので何卒よろしくお願いします。

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