trois
文化祭当日になった。「穏やかに過ごせますように」そんなことを考えながら私は家を出た。
教室に入ると私よりも先に来ている生徒がちらほらいた。みんな文化祭のクラスTシャツを纏っている。「おはよう美紗!髪の毛結びに行こ〜」自分の席に荷物を置いていると由希子が話しかけてきた。由希子はこのクラスで1番仲良くしている子だ。「うん、行こっか」私は微笑みながら由希子に言った。今日の由希子はいつもより気合いが入っていた。綺麗な肌には薄く化粧が施されていた。まつ毛はナチュラルに、でもしっかりと上がっていて、頬にはピンクのチークがのせられていた。唇も艶のあるピンクに色づけられていた。きっと他校の彼氏と今日一緒に文化祭を回るからなのだろう。付き合って3年目になるというのに、話を聞けば聞くほど仲が良さそうなカップルだった。由希子が彼氏の話をする時、目がいつもより輝いているのを私は知っていた。きっと本当に相手の事が好きなのだろう。「うちのクラスは女子はツインテールって決まったんだもんね、あんまり似合わないからどうしようかな」由希子はそんなことを言いながらも少しうきうきしていた。私たちは化粧室の鏡の前で髪をとかし、結んだ。高めのツインテールは子供っぽくなってしまうから下の方で控えめに結ぶことにした。「美紗、写真撮りたい子とかいないの?」急に由希子に聞かれた。その瞬間、思い浮かんだのはあの時手を振ってくれた君だった。私は鏡から目を逸らしながら「ううん、特にいないんだよね」と無難に答えてしまった。「そっか、美紗モテるのになー、でも美紗が一緒に撮りたい子がいないならしょうがないよね」由希子は少し悔しそうに言った。「でも、撮りたい子ができたら撮らなきゃダメだよ?人生最後の高2の文化祭だもん」由希子は私の背中を軽く一度叩いて言った。「そうだよね、なんかありがとね」私はそう言う事しかできなかった。まだ、自分の気持ちも君のことも分からなかった。知らずにいた。君ともっと話がしてみたい。ただそれだけだった。




