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君が校舎から私に手を振ったあの瞬間を何故か今でも
忘れられないでいる。あの日、君の横に彼女が居たにも関わらず、私に視線を向けてくれたこと、手を振ってくれたこと。その事実が私の中で今でも生きている。
人間よりも機械の方がずっと良い文章が書けるこんな世界で、私が何かを書くことはないと思っていた。けれど、書かなくてはいけなくなった。君のせいだ。綴らなければいけなくなった。君のこと。そして私のことを。
私が君を知ったのは、夏が過ぎて日の沈みが少し早くなったそんな時期だった。季節は秋に差し掛かっていて、私達は長袖の制服に身を包んでいた。もうすぐ文化祭。私は文化祭で飾る垂れ幕に色を塗らなければいけなかった。教室での絵の具の使用が許可されていなかったため、絵の具と垂れ幕の画用紙とブルーシートを持って校舎の外でやらなければいけなかった。なぜか、その日はたまたま、私ともう1人しかいなかった。私は話しかけたこともない男子に話しかけに行った。「垂れ幕の係の子だよね?色塗らないとだから塗りに行こう…」その時、初めてその人の顔を見た気がする。今となっては、顔も表情も上手く思い出せない。覚えているのは目にかかるか、かからないかくらいに伸びた黒い前髪だけだった。髪型のせいか少し暗い印象はあったものの、話してみると案外話しやすいタイプだった。その日から私達はクラスメイトになった。




