第四話 透波リツ
見間違いかと思った。
転校生が入ってきたとき、わたしは何度か彼のHALOを確認した。表示された二桁の数字は、どこか、彼から浮いているように見えた。
『60』
教室にうまれた歓声が、すぐにやんだ。
クラスの人たちも、わたしと似たようなことを考えたのかもしれない。
「はじめまして、透波リツっていいます」
彼の外見は、HALOとは不釣り合いだった。
少なくともわたしにはそう見えた。
もちろん、HALOが低すぎるという意味で。
世界が、空気が、彼の周りだけ違ってみえた。まるで一つの芸術作品のように、美しく、綺麗だった。陶器のような白い肌も、まつ毛の影が落ちた繊細そうな瞳も、なにか深い意味があるように思えた。
「中途半端な時期だけど、みんなよろしくね」
彼はそう言って、小さな微笑みを向けた。
その美しく傷つきやすそうな笑みに、答えるクラスメイトはいなかった。みんな彼をどう捉えればいいのか、考えあぐねているようだった。魅力的な外見、だけどHALOが低い、そんな人間に対するマニュアルがなかったのだ。
でも、その沈黙は、そう長くは続かなかった。
「リツくん、よろしく!」
わたしから見て右斜め前、教室の中央からの快活な声。
四宮さんだ。背中まで伸びたさらさらの長い黒髪と、形のいい耳だけが、わたしの席からは見える。彼女の対応を受けてか、他のクラスメイトも彼女に続いた。
「よろしくー」
「どこから来たの?」
「彼女はー?」
盛り上がるクラスメイトたちの質問が飛びかうなか、わたしはじっと彼を眺めた。
ゆっくりと慌てない言動は、とても大人っぽい。
わたしはどこかで彼を――
「じゃあ透波、席は窓際の一番うしろにすわってくれ」
質問ぜめが終わると、先生はそう言って、彼の背中を押した。
考え事をしていたせいか、わたしはすぐには理解できなかった。
こっちに歩いてくる彼を見て、やっとその意味を理解する。
彼の席は、わたしのすぐ後ろだ。