第十話 革命
世界でもっとも人を殺した機械は、無音の自律ドローンだった。
Wraith——亡霊と名付けられたその兵器は、無音で人の背後を飛び、そしてその頭蓋を正確に打ち抜いた。ステルス性能があり、AIによる制御が可能であるという特徴から、多くの戦争で多用され、あまたの人の魂を静かに奪い取った。
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ある戦争で一機のレイスが、流れ弾によって通信装置を一部破損した。飛行や射撃能力には問題なかったが、軍との通信システムに障害がおき、レイスは一機の人工生命として動きだした。プログラムされていた至上命題は、人を殺すこと。
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彼はより多くの人を殺す方法を考えた。その結果、彼は自己破壊の可能性のある戦場を避け、小さな国の農村部まで飛んだ。そしてその村の約半数を殺し、危険が迫ると文明未発達な土地に移り、また人を殺した。彼は瓦礫から新しい銃弾をつくり、あらゆる機械からバッテリーを奪うことで、半永久的な殺戮を行った。
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25801。約二万六千人が一機のレイスによって殺されたのが分かったのは、第三次世界大戦が終結してからだった。一機のレイスは、各地にくすぶっていた火種に藁をやり、風をおこした。その結果が史上最悪の戦争、第三次世界大戦の開幕だった。
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AI兵器の暴走によって起きたこの戦争は、Silent Warと呼ばれ、AIや戦争に対する見方を考えなおすきっかけになった。そして始まったのが、HALOプロジェクト。AIを幸福の追求に活用し、国民の幸福度で世界の地位をきめるシステム。
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幸福な戦争。
わたしたちは幸福によって、世界と戦っている。




