3
私が王宮に行くようになってから、一ヶ月が過ぎた。
ロイエル殿下ともだいぶ、打ち解けてきたように思う。たまに陛下や王妃殿下もいらしてお茶を一緒にいただくようになっている。ちなみに、ロイエル殿下には弟王子がいた。まだ、三歳と幼いが。第二王子は名前をマキシム殿下といった。実母はもちろん、王妃殿下だ。顔立ちは陛下によく似ていて小さいながらに、キリッとした感じの美形に確実になるだろう。
髪は王妃殿下譲りの赤銅色で瞳も陛下譲りの赤紫色だ。かなり、性格も明るいながらにやんちゃなのだが。まあ、男の子だからこれくらい元気があった方がいいだろう。
「……チャロンさま」
「何ですか?マキシム殿下」
「オレのあにうえ、わるさとかしてない?」
私の名前であるシャロンは発音がしにくいらしい。それでも、一生懸命に喋る姿は癒される。厳しい王妃教育でささくれた心が潤うように感じられた。いや、マジで私も弟が欲しくなった。
「……悪さはされていませんよ、良くしていただいています」
「ほんとに?」
「はい」
にっこりと笑いながら、答える。たちまち、真面目な顔から安堵の顔に変わった。余程、気になっていたらしい。ちなみに今、王宮の庭園にてロイエル殿下やマキシム殿下、ちょっと離れた所にはメイドや護衛騎士達と共にピクニックをしていた。と言っても、ロイエル殿下は騎士の内、二人と一緒に奥へと行ってしまった。なので私とマキシム殿下の二人だけだ。
「マキシム殿下、そろそろ中に戻りましょうか」
「うん、あにうえたちはおいてもどろ!」
マキシム殿下はいい笑顔で言い放つ。私は苦笑いしながらも手を繋いだ。さすがに、今は初夏に差しかかっている。日差しも強い。このまま、屋外にいたら日射病や熱中症になる可能性が高いし。そう考えながら、残った護衛騎士に伝言を頼む。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい、どうかなさいましたか?」
「確か、クォーツ卿でしたよね。私とマキシム殿下はもう中に戻りますから。もし、ロイエル殿下がこちらにいらしたら、「シャロンとマキシム殿下は先に戻った」とお伝えください」
「……はっ、言伝ですね。分かりました、しかとお伝えします」
「では」
私は軽く会釈をした。騎士もとい、クォーツ卿はそれに一礼で返してくれる。マキシム殿下とメイド達とで中に入った。
マキシム殿下はお昼寝の時間になったので先に私室に乳母と戻って行く。私も客室にて休憩する。専属メイドのララとイーラが果実水や甘さ控えめのナッツ入りのクッキーを用意してくれた。やっと、一息つける。
「シャロン様、お疲れ様です」
「うん、本当に疲れたわ」
「ララの言う通りです、今日は早めに寝てくださいね」
「そうするわ」
ララやイーラの言葉に相づちを打つ。ふうと息をつく。さすがにマキシム殿下と長い間いたから、気疲れしている。
「……私もちょっとだけ、お昼寝をしようかな」
「そうですね、そうなさいませ」
イーラが頷く。私は果実水を急いで飲む。ララが素早く、寝間着を取りに行った。ちなみに私は時たまに客室にて寝泊まりする事もある。要は王宮から朝帰りすると言うか。言い方が良くないけど。残ったクッキーを口に放り込んだ。果実水で流し込んだのだった。
ララとイーラが寝間着に替えてくれて私はお昼寝を順調にする事が出来た。
「では、夕方になったら起こしに来ますね」
「分かった」
頷くと二人は続き部屋に退出する。ドアが閉まると瞼を閉じたのだった。
夕方になり、ララが本当に起こしに来た。肩を揺さぶられながら、目を覚ます。
「お嬢様、起きてください。もう、夕方ですよ!」
「……うーん、はあい」
眠い目を擦りながら、起き上がる。後からイーラが入って来た。
「シャロン様、今日は「このまま泊まっていきなさい」と殿下からのお言伝です」
「ロイエル殿下はそうおっしゃったのね」
「はい、シャロン様も疲れているだろうからと」
「分かった、「ありがとうございます」と伝えて」
「かしこまりました」
イーラは頷き、寝室を出て行く。ララに手伝われながら、寝間着を脱いだ。部屋着に替えたのだった。