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第5話 晴れた心

 スクピディアの件が終わり、パテミラスと帰路に就く。


 重圧から解放され、お金の余裕もできて、

 こんな晴れ晴れとした気分で通いなれたこの道を歩けるなんて、

 夢にも思っていなかった。


 パテミラスと出会ってまだ1日とは思えないほど、

 嵐のように色々なことが起きた。


 スクピディアの元に向かう途中で栄養失調と過労で倒れたところを、

 偶然居合わせたパテミラスに助けられ、

 領主であるスクピディアの支配から、僕とカコケリアの町を救ってくれた。 

 

 しかし彼女はたくさんの人々を救ったことをひけらかすことなく、

 今も僕の横を歩いている。


「なんてお花かしら。綺麗ね」


 道脇にひっそりと咲く花を眺めるこの艶麗な女性が、

 大男を簡単に倒し強大な権力を持ったスクピディアから、

 大勢の人々を救ったなんて、直接見た僕も未だに実感が湧かない。


 彼女は何者なんだろう。


 単純な疑問が頭に浮かぶ。


 見ず知らずの僕たちを助け、見返りも求めない。


 仲はかなり深まっていると思うが、

 パテミラスのことを僕はあまり知らない。

 そして彼女は今後どうするのだろうか。

 ずっと僕たちと一緒にいる理由もない。

 だけど僕は彼女とまだまだ一緒にいたい。

 話したいことも山ほどある。

 見たい景色もたくさんある。

 

 彼女の今後を聞きたい気持ちと、

 僕にとって悲しい結果を聞きたくないという気持ちがせめぎ合っている。

 

「あ……あの……」

「どうしたの?」

「パテミラスはどこかに行っちゃうの?」

「んふふ、フォティは私がどこかに行くのはイヤ?」

「へっ!?」


 僕の問いにいたずらっぽい笑顔を浮かべると、

 互いの鼻が当たる距離まで顔を近づけ、

 愛嬌のある声で逆に問いかけてくる。


「僕は……まだパテミラスと一緒にいたい……」

「んふ、私もフォティと一緒にいたい」

「ほんと!? 嘘じゃない!?」


 喜びのあまりパテミラスを抱きしめてしまった。

 僕よりも少し背が高い彼女の顔を下から覗きこむように見ると、

 夕陽の様に赤面させ鼻血を垂らしている。


「鼻血出てるよ!? 早く拭かなきゃ!」

「フォティ……天然たらしにもほどがあるわ……」


 すぐに離れ血が滴る鼻を抑えた。

 出来る限りの処置は施したが、

 パテミラスは恍惚とした表情を浮かべ、

 鼻血を垂らしながら立ち尽くしている。


 声をかけたり顔の前に手をかざしたりしたが、

 何をしても反応がなく、

 元の状態に戻るまで体感5分ほどかかった。

 心配だったのでお医者さんに診せようとしたが。


「ダイジョウブ」


 の一点張りだったので様子を見ながら家に帰った。

 テンネンタラシの意味を聞いてみたところ、

 なぜか話をはぐらかされてしまい、

 結局わからずじまいだった。


 花の名前とかなのかな。


「みんな、ただい――」

「「「――フォティにいおかえり!」」」


 無事家に到着し扉を開けると、

 イレモス、ニトス、オモルフィアが倒れてしまう勢いで飛び着いてきた。


 3人の満面の笑みを見て、

 家族の元に帰って来られた嬉しさと、

 家族の暖かさを肌で感じ、

 心から湧き立つ気持ちを抑えきれず、涙がぽろぽろと流れでる。


 初めて家族の前で泣いた。


 そんな僕を見て、なにも言わずにより強く抱きしめる3人。


「ごめんね。急に泣き出したりして……もう大丈夫だから、中に入ろうか」


 濡れた目元を拭い皆で家に入る。

 家の香り。

 見慣れた家具。

 虫食い程の穴が開く壁。

 少し前に死にかけた僕にはすべてが感慨深い。


 皆には詳しい金額は控えたが、

 お金の余裕が少しできたことも伝えた。


「みんなは、何かやりたいことある?」


 お金が手に入ったとはいえ、無駄遣いをする気はない。

 しかし遊びたい盛りの弟妹たちだ。

 これまでたくさんの我慢をさせてきた。

 だから可能な限り願いを叶えてあげたい。


「なんでもいいの?」

「もちろん! 僕に出来ることならなんでもやるよ!」


 不安そうに聞いてきたオモルフィア。

 弟たちのまとめ役として頑張っている彼女。

 12歳とは思えないほどしっかりしていて、

 僕としても本当に助かっている。


 しかし僕の経済状況を理解しているからか、

 喜びよりも心配が勝っているのかもしれない。


「フォ、フォティにいともっとあそびたい……」


 可愛い服が欲しいとかだと勝手に推測していたが、

 予想外すぎる願いに驚いた。


「ぼくはフォティにいと本読みたい」

「おれフォティにいとかけっこしたい!」


 次々と飛んでくるお願い。

 すべて僕となにかをしたいという内容。

 思い返せばここ1年は長い労働時間の代償として、家族との時間を捧げてきた。

 年端もいかない弟妹たちが寂しがるのも十分に理解できる。

 おそらく僕に余計な心配をかけまいと、本心を隠してきたのだろう。


「よし! いっぱい遊ぼう!」


 なにをするのか話し合い、

 後日、皆で中心街まで行くことになった。


***


 家から徒歩で、1時間ほどかけて中心街に到着した。

 弟妹たちは高い建物や人の賑わいに興奮している。

 この子たちにとっては初めての街でのお買い物。

 

 正直僕は、この街並みが好きではない。

 どうしてもスクピディアのことを思いだしてしまう。

 しかし今回の主役は弟妹たちだ。

 この子たちが楽しんでくれるのならそれでいい。

 それに僕たちにはパテミラスがいる。


「とりあえず、皆の服を買わない?」


 パテミラスの言葉を聞いて自分たちの服を見ると、

 たしかにクタクタにくたびれている。

 洗濯をしているとはいえ、お世辞にも清潔には見えない。


 弟たちはあまり服に興味を示していない。

 年頃のオモルフィアは、

 パテミラスの提案に目をキラキラと宝石のように輝かせている。


「そうだね、皆で服見に行こうか」

「やったー!」


 いつになくテンションが高いオモルフィア。

 こんなにも喜んでくれるなら、

 片道1時間かけて来た甲斐がある。


 パテミラスに良さそうな服屋を選んでもらい入店する。

 店内には至るところに服が飾られており少し圧倒される。

 子供サイズから大人サイズまであり、服の雰囲気も様々で、

 ここならオモルフィアが気に入る服もありそうだ。


 値札を見ると最安値で1枚1000ケルマ。

 1番高いもので30,000ケルマだった。


 僕が値札を見ていると、横からのぞき込んできたオモルフィア。


「たっ、高い……!? やっぱりお洋服いらない……」


 この間まで1日の食事を200ケルマのパン1個で過ごしてきた金銭感覚の僕たちからすると、一般的な値段でも高級に感じる。

 しかしせっかくお金もあるし、心から楽しんでほしい。

 

「お金のことなんて気にしなくていいんだよ。それよりも僕は、お洒落した可愛いオモルフィアを見たいな」

「ほんと? フォティにいは可愛い私を見たいの?」

「フォティってほんと悪い男の子ね」

「僕なにか悪いことした!?」


 オモルフィアは耳を赤くし俯いている。

 パテミラスの言う通りなにか気に障ることを言ってしまったのか。

 

 女の子って難しい。


「オモルフィアちゃんは私と一緒にお洋服選ぼうね」


 パテミラスとオモルフィアが店内を見てまわっているあいだ、

 店前に設置されたベンチでイレモス、ニトスに、

 暇つぶし用に持参した絵本の読み聞かせをすることにした。

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