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第2話 運命の出会い

 目を開けると見慣れた天井を背景に、

 イレモス、ニトス、オモルフィアが僕の顔を覗き込んでいた。


「フォティにい、だいじょうぶ?」

「痛いところない?」

「よかった、フォティにいが目を覚ましてくれて……」


 涙目になりながら心配をしてくれる3人。


 申し訳のないことをしてしまった。

 支えるどころか心配させてしまうなんて。


 仕事に向かっていた途中で倒れたところまでは記憶がある。


 どうやって家に帰ってきたんだろう?


「パテミラスお姉ちゃん! フォティにい起きたー!」


 知らない名前を部屋の奥に向かって呼びかけるニトス。


 パ、パテ、ミラスお姉ちゃん?

 誰だろう。


「あら、目が覚めたのね。よかった」


 奥から出てきたのは、僕が倒れた直後に見た青髪の女性だった。


 なんで僕らの家にいるんだ?


「あ、あの、すみません。どなたですか?」

「パテミラスお姉ちゃんが、倒れたフォティにいを家まで運んできてくれたんだよ」

「あなたが倒れているところに、たまたま居合わしてね」

「え、あ、パテミラスさん助けてくれてありがとうございます」


 人通りが少ない場所で倒れたから、

 仮にずっとあのままだったと考えると、正直ゾっとする。

 助けてもらえたことに感謝しかない。


「栄養失調と過労が原因みたい。熱もあるし酷い汗。体拭くの手伝うわ」

「いや、自分で出来ますよ」

「こういう時は頼っていいのよ、ほら服脱いで」

「本当に大丈夫ですからッ!」


 僕の服を脱がそうとするパテミラスさんの手を反射的に抑えて、

 大きな声で拒否する。

 こんな声出したことがないからか、全員が驚いた顔で見てくる。


「す、すみません、大きい声出して。でも、本当に大丈夫ですから」

「私もごめんなさい。嫌がることをしてしまって」


 見ず知らずの自分を助けてくれた恩人にひどい対応をしてしまった。

 罪悪感が僕を襲う。


 最低だ。


 だけど弟妹たちに僕の体を見せるわけにはいかない……。


「イレモスくん、ニトスくん、オモルフィアちゃん、少しだけフォティノス君と大事な話をしていい?」

「フォティにいをよろしくお願いします、イレモス、ニトス、お姉ちゃんとお外であそぼう」

「「フォティにい、はやく元気になってね」」

「「「いってきます」」」


 パテミラスさんの明るい声で、重くなった空気が少し軽くなる。

 空気を察したオモルフィアがイレモスとニトスを連れて遊びにいった。


 大事な話とはなんだろう。

 見当もつかない。


「本当に、よくできた子たちね」

「は、はい、本当に自慢の家族です」


 家族が褒められるのは自分のことのように嬉しい。


「あなたのことも言っているのよ」

「え?」


 思いもしない言葉に驚く僕を両腕で引き寄せ、

 抱きしめながら優しく頭を撫でる。


 柔らかくていい匂いがする。

 ってそんな場合じゃない。

 離れないと、こんなところを弟妹たちに見られるわけにはいかない。

 ……でも、抗えない。

 なんだろう、安心する。

 心がポカポカと温かい。

 初対面のはずなのに。

 初めてだこんな感覚。

 守られてるみたい。


「あの子たちのために頑張って働いて、余計な心配をかけないように、いつも笑顔で振舞っていたんでしょう? 凄いわ、誰にでもできることじゃない。でも、たまには泣いたっていいのよ?」


 パテミラスさんの言葉で、閉じ込めていた感情が込み上げてくる。

 頭を撫でるパテミラスさんの優しい手が僕の感情をより加速させた。

 もう止められなかった。

 僕は出し切るまで泣いた。


***


「ごめんなさい、お恥ずかしいところをお見せして……」


 泣き方なんて忘れていた。

 それくらい久しぶりのことだった。


 落ち着きを取り戻し、濡れた目元を拭きながら謝る。

 同時にお腹がぐぅーっと情けない音を発する。


「こ、これはっ……」

「ふふ、あれだけ泣けばお腹も減るわよね。食事にしましょうか」

「な、なら昨日買ってきたパンが」


 昨日残していたパンの入った紙袋を取り出す。

 いつもは僕が仕事にいった後の弟妹たちの朝食用だが、

 また買えばいいし、これを食べよう。


「じゃあ、私はあの子たちを呼んでくるわね」

「お、お願いします」


 何でここまでしてくれるんだ。

 パテミラスさんとは初対面という感じがしない。

 まるでずっと暮らしてきた家族みたいだ。

 弟妹たちともすでに打ち解けていたし、

 不思議な魅力を持つ女性だ。

 弟妹たちの前でも泣いたことないのに、

 彼女の言葉で色々と溢れて溢れてしまった。

 思い返すと恥ずかしい……。


「「「「「いただきます」」」」」


 香ばしい匂いを微かに放つパンを一口食べる。


「「「「ごちそうさまでした」」」」


 そして食べ終わる。


「え、これだけ?」


 信じられないというような声を上げたのはパテミラスさんだった。


「えっと、はい、これだけです」

「あなたたち、何歳?」

「僕は17歳です」

「ぼくは10歳です」

「おれも10歳!」

「わたしは12歳です」


 鋭い眼光を向けるパテミラスさんに少し気圧されながら答える。


 こんな空気感でも元気よく答えるニトス。

 素直に凄いと思ってしまった。


「パン1つを5等分にして……1人一口の量……まさかこれで足りるだなんて言わないわよね?」

「た、足りないですけど、お金もないですし……」


 口を開けたまま呆然としているパテミラスさん。


 1日の稼ぎが200ケルマの僕だとパン2個でもギリギリだ。

 やっぱり仕事を増やしたほうがいいのかな。


「ちょっと待っててね、少し用事を思い出したわ」


 と言い残し家を出て行ってしまった。

 後をすぐに追ったが、呼び止めようと思ったときには背中が遥か遠くにあった。

 いくらなんでも足速すぎない?

 待っててと言っていたし帰ってきてくれると信じよう。


 それにしても用事とはなんだろう。

 怒らせてしまったのかな。

 それともパンが美味しくなかったのかな。

 客人であるパテミラスさんに、

 残りのパンを食べさせるのは確かに失礼だったかも。


 自分の行動を振り返り反省する。


***


 パテミラスさんが家を出て2時間ほど経ったころ、

 ボロボロの扉が勢いよく開いた。


「皆ッ! ただいまッ!」


 両手に大きな袋を抱え、笑顔で帰ってきたパテミラスさん。

 買い物でも行ってたのだろうか。


 怒ってはなさそうでよかった。


 使い古された机に2つの袋をドサリと置き、中身を見せてくれた。


「お肉とか野菜とか、たくさん買ってきたわよー!」

「「「お肉!? 野菜!?」」」

「食べ盛りなのにパンだけじゃダメ。しっかり栄養を摂らなきゃ大きくなれないわよ!」

「いや、でも僕たち、お金払えません……」


 いつぶりだろう、分厚い肉に色とりどりの野菜を見たのは。

 イレモス、ニトス、オモルフィアも、よだれを垂らしながら食い入るように見つめている。


 僕だって食べれらるのなら食べたい。


 しかし全部合わしたら10,000ケルマはしそうな質と量。

 1日で500ケルマを稼ぐのが限界の僕には、到底手を出せる代物ではない。


「あなた達にプ、レ、ゼ、ン、ト!」

「パン以外、ひさしぶり」

「やったー!」

「どんな料理にして食べようかな!」


 イレモス、ニトス、オモルフィアはお祭り騒ぎ。


 弟妹たちが喜んでいるのは嬉しいけど、ここまで甘えて本当にいいのだろうか。


「フォティノス君」

「はっ、はい!」


 真剣な声で名前を呼ばれ背筋が伸びる。


「甘えていいのよ」


 優しい目で暖かい言葉をくれるパテミラスさん。


 僕の考えていることなんてお見通しらしい。

 ここまでしてもらって、僕だけ食べないのは失礼だ。 


 正直、食べたいし……。

 ありがたくご厚意に甘えよう。


「僕もいただいていいですか?」

「もちろん! さあ皆で料理するわよ。フォティノス君は休んでてね」

「「「おいしいの作るから待っててね!」」」

「うん、楽しみにしてるね」


 パテミラスさんと弟妹たちは楽しそうに台所に向かった。

 心の底から笑っている弟妹たちを久しぶりに見た。

 体に倦怠感は残っているが、笑顔で元気をもらえた。


 しばらくすると、先ほどまで食材だったものが、

 食欲をそそるいい匂いを醸しだす料理となって出てきた。

 久々のしっかりとした料理に心が躍る。


「「「「「いただきます」」」」」


 弟妹たちは、食卓のど真ん中に置かれた一番目立つステーキにかぶりつく。

 脂で口のまわりを脂で輝かせながら幸せそうに食べる弟妹たち。

 この光景が見たかった。

 僕の力だけでは弟妹たちを満足させてあげられなかった。

 パテミラスさんには感謝しなければ。


 食べる姿を見てよりお腹が減ってきた。

 僕もステーキに手を伸ばそうとしたとき。


「フォティノス君、あ~ん」


 横に座るパテミラスさんの甘い声とともに、

 フォークに刺さった照り輝く肉が口元に運ばれてくる。

 17歳にもなって食べさせてもらうなんて、

 弟妹たちもいるのに恥ずかしい。


「え、いや、そんな年じゃないですし……」

「あーん!」


 負けじとフォークを突き出してくる。


「いや、は、恥ずかしいですし……」


 そんな悲しい顔で見ないで。

 根負けして肉を口いっぱいに頬張る。


「おいしっ?」


 悲しい顔から一瞬で笑顔になったパテミラスさん。


 恥ずかしさで味なんてわからない。


「ぼくもあーん」

「おれも! おれも!」

「フォティにい、あ~ん」


 皆もパテミラスさんの真似をしてか僕の口元に肉を運ぶ。

 

 目の前に並ぶ肉たち。

 すべて口に入れてリスのように頬が膨らむ。

 胃と心が満たされた。

 悪かった体調もいつのまにか回復していた。

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