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140字小説まとめ19

作者:

シートの背にもたれかかりながら、目を瞑る。タクシー、乗っていいよね。残業、頑張ったし、限界だし。たまには奮発し、て、……


「着きました」

運転手さんの声に驚いて、慌てて降りる。あ、会計……。

「……お疲れ様です」

財布を探す手が、止まる。温もりのこもった言葉に、自然と涙が溢れた。


『沁みる一言』







玄関から、大きな音がした。何? こんな夜遅くに誰も来ないし、そもそも一人暮らし……おたまを持ちながら、恐々玄関に向かう。……特に何もない。気のせいか? びっくりしたぁ、戸締り……は、多分きちんとしたから尚更。安堵しながら、リビングに戻った。こっちも、知らない男性がいる以外何も……


『油断大敵』






赤ちゃんがお母さんの肩越しから、後ろを歩く私を見ている。散歩して、良かった。手を振ると、赤ちゃんが笑う。調子に乗って顔を隠し、数秒経った後変顔を晒す。……笑い声が、しない?

どうやら、角で曲がったらしい。通りすがりのおばさんが、その様子に微笑んでいた……喜んでくれて、何より……。


『ま、いいか……』







キッチンカーが、駅前にあった。何か売ってるのかな。気になって見てみたが、何にもやっていない。すると、人が中に入っていこうとしたので、思わず問いかけた。

「レンタルキッチンカーだよ。キッチンだけ提供してるんだ。料理練習するんだけど、食べる?」

折角なので、お言葉に甘えた。まずかった。


『レンタル』







「あの、すみません。銀行強盗というものなんですけれど……」

「……はい?」

「そちらの銀行店の開店は、何時でしょうか?」

『午前九時、です』

「ありがとうございます。では、その時間に明日伺います」


翌日、スーツに黒の目出し帽を被った銀行強盗が来た。待機していた警察に、当然逮捕された。


『丁寧すぎる犯行予告』







恋人は、押し花の栞を作るのが趣味だ。綺麗なモノを、いつまでも取っておきたいかららしい。

「僕が亡くなったら、君が綺麗といったこの瞳も、栞にできる?」

恋人は笑顔で頷いた。余命幾許もない病人に、同情心が湧いたのだろう。


不正解、私の意思よ。

あの人の日記を、綺麗な瞳の栞で閉じた。


『きれいな、瞳』







彼氏に三股されてフラれた……もうヤダ、無理。男友達に、バーで延々と愚痴を溢す。お前は、壁打ち要員だ。吐き出す私をただただ受け止めてろ。悲しいことにお前ぐらいしかいないから。すると、男友達は私の手を取った。


「そんな奴やめて、俺にしない?」


「いや、お前女遊び激しいだろうが」


『いい人はいない』







クラスメイトが、席に座っている……私のとこに。トイレ行く為に席を外したら……。私の友達と談笑し合っていたけれど、こちらに気づいて手を振った。

「あ、来た!」

待ってたよ〜、と、クラスメイトは自身の膝に私を座らせる。友達は仲良いね、と笑顔で言った。


ただ、付き纏われているだけなのに。


『なかよし、じゃない』







深夜に、カップ麺を食べた。いわゆる夜食だ。今日の仕事を頑張った、ご褒美である……妻には内緒だが。

「何してるの?」

妻の声に、肩が跳ね上がる。不味い、怒られる。焦っていると、妻が不敵に笑った。

「私の分も、作ってくれたら……ね?」

この後、カップ麺を急いで作ったのは言うまでもない。


『罰逃れ』







くまちゃんが、ベランダで日向ぼっこをしている。気持ちよさそうだから、僕も隣に寝転んだ。お日さまが、僕たちをポカポカ照らす。きもちぃなぁ。


「あら、こんなところで……」

クマのぬいぐるみを天日干ししていたら、息子がベランダで寝てしまった。私は両方抱き上げ、布団の上に優しく寝かせた。


『日向ぼっこ』







庭に、何かの芽が土から出てきた。大事に、育てなきゃ。ぼくは朝昼晩欠かさず、水やりをした。けれど、いつの間にか芽があったところに、小さな穴が空いていた。どうして……? お母さんが、僕を見て言った。


「取ったわよ。他の植物の栄養を吸い取る、雑草だから」

僕の胸にも、小さな穴が空いた。


『ぽっかり』







悪魔の研修、人間達を観察するのダルいな。えーっと、アレは……ガキどもか。ふん、辛気クセェじゃねぇか……。まあ、夏休み明けだからなぁ。憂鬱だよなぁ、学校が始まって、辛い事がするよな。いじめとか……。


……悪魔の人数増えるかねぇ。


俺みたいに、夏休み明けに絶望して……みたいにさ。


『悪魔の哀愁』








「こんにちは」

パパと公園で遊んでいたら、綺麗なお姉さんが挨拶してきた。こんにちは。挨拶を返す前に、パパが怒鳴った。

「何でここにいるんだ!」

パパは僕の手を乱暴に引く。ふと振り返ると、お姉さんは笑顔を浮かべていた。


その後、パパとママは離れ離れになった。パパはフリン?したらしい。


『知らない人』







「一人でお使い?……こんな小さな肉屋に来てくれて、ありがとうね」

「父さんは?」

「……ん?」

「父さんが貴女と頻繁に会ってるの、見たの……父さんの、不倫相手でしょ」

「……こっちにいらっしゃい」

可愛い娘さんを、中へ案内する……肉切り包丁を持って。


「食事が増えてくれて、嬉しいわ」


『新たな捕獲』







……今、何時……? って、もう家出る時間過ぎてるじゃん! 寝坊した! 早く準備しないと……いや、いいか……。私はしっかり身支度を整えて、家を出た。今から急いだって、授業に間に合わない事は確定だし。駅までの道のりを、のんびり歩く。


普段乗っていた電車が大事故に、遭った事も知らずに。


『知らず知らずの危機一髪』







何にもできない、あのコが可愛い。毎日学校に遅刻して、赤点で、それを改善する努力をしないくせに、いつも気弱そうに振る舞う。ダメ人間好きな私は、とても興奮するわ。ずっと、一緒にいましょうね……私が貴女の全部、面倒見てあげるから。


……って、貴女はそう思うから、私はダメ人間を演じるよ。


『互いの思惑』







「お姉、さん」

また、ナンパか。溜め息を吐いて振り返ると、可愛い女子高生が立っていた。声、野太かったような……気のせいか。

「俺、男だよ。女装して、遊んでんの」

「俺も、です。えっと、仲間見つけたみたいで嬉しくて、つい……」

あまりにも可愛かったので、この後ショッピングデートをした。


『カワイイ二人』







「あの人、枕営業したらしい」

皆が、私の大好きな人をそう噂した。同じ女優である、先輩だ。……あの人が、そんな事するわけない! そう意気込んで確認したところ……した、らしい……。

「私の実家で売ってる枕、凄い寝心地良いの。事務所の社長さん、不眠症落ち着いて、御礼に枕のCMの仕事貰った」


『枕』







「新人か、お前」

強面な風貌の上司に、肩を震わせた。入社日から、波乱かもしれない。

「……猫、好きか」

……一応頷いた。すると、上司はスマホを見せてくる。

「ウチで飼っている、みゃ……ミイちゃんだ、可愛いだろう」

貴方が噛んだ姿が可愛いです。


そんな思い出話を肴に、今日も上司と飲む。


『仲良くなりたくて』







不意に手を繋いだ。相手はきょとんとして、僕を見る。

「なあに?」

「……水溜まり。そのまま入ったら濡れる」

「あ、ほんとだ。ありがとう!」

純粋な輝きを放つ笑顔は、雨上がりの空によく馴染む。

……繋ぎたかったから繋いだら、その笑顔はもっと輝くのだろうか。

それを知る立場に、僕はいない。


『恋人未満』








とても気分が悪い……こんな日はさっさと寝たいのに、まだ仕事が……。

「おい、仕事の邪魔だ。休め」

厳格な上司がそう言ってくれたので、大人しく帰ることにした。家でゆっくり寝ていると、慌てて恋人が帰って来た。

「おい、大丈夫か? 生きてるか?」

……厳格さは、仕事場に置いて行ったらしい。


『二面性』







私の好きな人がいた…楽しそうに笑っている。いつ見ても、綺麗だな。私はその笑顔、見れないけれど。隣には、私より何倍も可愛い女の子がいる。足早に、去った。もう、幸せそうな笑顔はいらない。私以外で笑っている笑顔なんて、いらない。あの人に抱いた甘くて淡い思いを、足を動かして踏み躙った。


『さよなら』







何かに躓いて、転ぶ。見てみると、女性が倒れていた。しかも、足をガッツリ掴まれている。

「いきマしょウ? ジゴク、へ」

目が窪み、不気味な笑顔を浮かべて引きずられる。だから、顔面めがけて蹴った。戸惑う声を掻き消すように、グシャグシャと。


百年早い、同じ悪霊の俺を引き摺り込もうなんざ。


『同じにすんな』








友達と、手を繋いだ。

「なに、どうしたの~?」

おどけたように笑いながら、友達は手を握り返してくる。これがもし、異性だったら振り払われている。私は同性で、かつ全く下心がないと認識されているから、貴女は私と仲良くしてくれる。握った手に力を込める。今日も穢れた下心を握り潰した。


『綺麗な友情』







今日も、依頼が来ていた……死体埋め代行の。詐欺の受け子を抜けようとしたから、組織に殺されたらしい。世も末だな。まあ、金を稼ぐためにこの仕事をしている、俺が言えた事ではない。中を見る為、死体袋を開けた。


弟……? 何で……兄ちゃんは、お前が行く大学の為に一生懸命、働いてたのに……。


『誰が為の仕事』







和室にある押し入れの中は、開けてはダメだ。母親に、小さい頃から何度も言われた。だけど、成人した僕は気になって、中を見てしまった……ボロボロの服が、山積みだった。驚いていると、母親が僕の肩に手を置いた。


「やっと貴方も、仲間入りになるのね」

殺し屋の。

母は、様々な武器を僕に授けた。


『一員』







人型の剥製が立ち並び、途轍もなく不気味だ。恐々足を進めた……が、なんと剥製が動いたのだ。怖くなり、外に出ようと、入り口まで走った。だが、扉は固く閉ざされている。慌てていると、肩を叩かれた。振り向くと、剥製が立っている。

「お化け屋敷、途中離脱なさいますか?」

全力で首を縦に振った。


『リタイア』





鶯の鳴き声が、聞きたい。でも、聞けないよね。お外は、まだ寒いし。これじゃ、鶯さんも冬眠してるよ……。


ホー、ホケキョ


「……何で口笛吹くの」

 病室の中で立っている、親を見る。

「貴女に、幸せを届けたくて」

 私は、唇を噛み締めた。

 嬉しいけど……私の病気が治るのは、叶わないね。


『鶯じゃないから』






「我が妹よ」

勝手に入んないで。そう溢したいが、涙が出てきそうだから何も言わない。

「母さんが大切にしていた化粧品、勝手に使ったんでしょ~? 一緒に謝りに……」

「黙れ」

 あんたが、使ったくせに。姉は……悪魔は、柔らかく微笑んだ。

「出来の悪いって言われてるアンタとは、違うもんで」


『悪魔な姉』








昨日買った新卒スーツを着て、初の面接に赴く。緊張するけれど、頑張りたい。でも、さっきから変なおじさんが、こっちを見てくる。な、何で?

「フレッシュさんですか?」

 え、話しかけてきた? こわい……。でも、おじさんは、構わず話し続けた。

「タグ、ついてますよ。就活、がんばって」


『ただの優しい人』







裸足で、原っぱを駆け巡っていた頃が懐かしい。チクチクした感触が、足を包み込んでも平気だった。でも、大人になった今は、靴を履くようになってしまった。それでも、生えている植物は変わらず踏んでいる。あの頃よりは覇気がなく、目的がはっきり決まって歩んでいるが……あの頃の私は、まだいる。


『こどもごころ』








妻の元気がない原因は、何なんだ。ため息ばかり吐いて、重苦しい空気を漂わせる。家事を珍しく俺からしてやっても、何も変わらなかった。ただ、休む事を促されるだけだ。悶々としていた、ある夜中、妻が電話していた。とても、楽しげに。

「貴方は私の夫と違って、亭主関白じゃないし、優しいわね」


『現場』







母が、大好きな紫色の、液体になった。母は病気で蝕まれ、治療に脅かされる前の綺麗な身で、生まれ変わりたかったらしい。掌に掬っても、サラサラと流れ出て、地へと落ちる。色々考えたけれど、瓶に詰めて、保管することにした。加工も治療も施されてない、原液の母が、どうしようもなく愛おしいから。


『保管』







布団に縮こまり、寒さが過ぎるのを待つ。クーラーの暖房も、石油ストーブも、つけたとて、何の意味もなさない。その内全身が悴んで、動けなくなる……というか、もう動けなくなっている。


枕元を、見上げた。

髪の長い、男とも女とも似つかない「何か」が立っている。

……除霊、頼むしかないか……。


『寒さの覚悟』








……そろそろ、閉めるか。そう考えていると、誰かが滑り込んで来た。

「金を出せ」

簡潔な脅迫を告げられ、銃口を向けられる。

「何故、しがない骨董屋に?」

「沢山稼いでるって、噂で聞いてな」

「そうですね……骨董に隠した、武器類で稼いでますが」


カウンター越しから、強盗に銃口を向けた。


『稼げる骨董屋』







毎日、電話が鳴り止まない。今日も、会社から急な呼び出しだ。これで休日が潰れるなんて、もう嫌だ……。泣いていると、電話が鳴り止んだ。え? いつも俺が出るまで、鳴っているのに……? 思わずスマホを手に取る。


『ゆっくり、休んで』


ホーム画面に、身に覚えのない文字が書かれていた。


『気遣いスマホ』








一つの苗を植えた。スクスク育つ事を願って世話したけど、あまり大きくならず、飽きて放置した。その後、大層立派に育ち、綺麗な花を咲かせたらしい。人伝に聞いて、他人事に受け取った。今頃枯れて、育てた当初と同じ大きさになっているのか。そしたら、一番愛した頃と似てるから、会いに行きたい。


『自分だけだと思うから』







「今日さ、お前が好きな漫画の発売日だって」

「煩い」

「あと、今日の給食、お前の好きなカレーだよ」

「黙れ」

「……なぁ、本気なの?」


屋上のフェンス越しにいる、友人を見遣る。もう、これ以上俺は……。


「迷惑だよ」

友人は、生気のない瞳で見つめ、飛んだ。あの目は、一生忘れられないな。


『失敗』







「頑張ってるんだけど、頑張れないの……」

 涙を流した娘は、勉強机に広げられたノートを握る。ああ、私が、きちんと管理していなかったからね。反省……。

「少し休んで落ち着いたら、また勉強しましょう……弁護士になる道は、逃げないわ」

 私の夢を叶える為に、お互い頑張りましょうね。


『夢を叶えるコ』







貴方の愛は、一方的だった。無理矢理水をやったり、肥料を植えたり……おかげで、私がいる鉢植えはボロボロだった。でも、枯れかけた私を捨てて、通りすがりの花屋さんが、拾って育ててくれた。綺麗って言ってくれて、沢山幸せな思いをした。だから、貴方の事を恨んでないわ。愛す事も、ない、はず……


『愛、なんて』


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