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問題提起

ヒロインの実質処刑宣告を聞かされるという衝撃的な経験をした翌朝、3日間も寝込んでいたのが嘘のように私は回復した。


普通にしていて痛むことはなく、剣を振るうような動作をしても骨が軋む感覚も覚えない。

異様に治りが早いように思うけれどむしろ、私としては3日間も意識がなかったことの方が異常とさえ思うくらいに、ユーリアになってからの体は頑丈だった。

もちろん刃が通らない岩の様な肌質とかではなくて、怪我をすることはあるけれど治りが人一倍早い。

馬鹿……ではないけど風邪をひいたことがないし病気にかかったこともない。

健康な体とはこういうものなのかと最初の頃は思っていたけれど、やんちゃし過ぎて怪我の多かった私はお医者様のお世話になることも多く「お嬢様の自然治癒能力は高い」とお墨付きまで頂いては秀逸だと認めざるを得ない。


なのに、お母様の賠償請求にお供しようとしたら「腹芸は大人に任せておきなさい」と断られたし、私の体の異質さを知らない学園のお医者様はもう一日は絶対安静するべきだと治療院から出ることを許してくれないしで手持ち無沙汰になってしまった。


――せっかくだからこれから起こり得ることを整理しよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


まず、この乙女ゲーム『聖女の円舞曲』は今私達が通っている『ロメリア王立学園』がメインの舞台となっていて、学園での学生生活と、聖女という役割を与えられたことで発生した公務のそれぞれでイベントが存在する。

どちらのイベントを優先するかで攻略対象が変わったりもするけど……この際、攻略対象はどうでもいい。

本来、ユーリアの婚約者になるはずだった第三王子は私が領主代理とならなかったことで縁が切れて顔合わせすらデビュタントなどの場でしかしたことないくらいに接点がないし、

ヒロインであるアリアは平民にすらならず男爵令嬢のままで、誰かと懇意になるような人ではなくなってしまっているからだ。


ゲームは学園への入学から始まって初日をチュートリアルで消費し、2日目に第二王子、ミリアルダ公爵子息、サルクル侯爵子息、フィッツバーン卿という攻略対象が居る生徒会の役員に勧誘されるイベントが発生する。

これは、ヒロインが平民であることと聖女であることがキーとなって王家の庇護下であることを示すために行われるという設定だから、現実世界でそのイベントが起きることはなかっただろう。


――となると、学園でのイベントの大半が吹き飛ぶ。


ヒロインは身分不相応にも生徒会役員に抜擢されたことをきっかけに学園内で孤立してしまうし、様々な迫害を受けることになる。

そうして攻略対象である男性陣……所謂ヒーローに救われて交流を重ねていくし、それが原因でサンビタリア公爵令嬢を筆頭に、令嬢たちが『悪役』という役割を与えられてしまう。

それ以外にも役員として行事を開催するうえでの役割が存在し、それに対する妨害とその苦難を乗り越えることもまたイベントとして作られていた。


「だから……プリムラ様が善人なんだ……」


サンビタリア公爵令嬢は、あくまでも公爵令嬢である決して理由なく品性を損なうような人ではない。

自分の方が身分が上だから下位貴族はすべからく傅くべきであるという思想ではなく、粗相をしない限りはどの身分であれ公平に扱ってくれるような人である。

平民が不相応にも生徒会役員になり、第一王子と懇意になるという過程を経て『悪役』へと転化してしまうというだけで、

今のただの男爵令嬢でしかないヒロインは、高位貴族として救いの手を差し伸べてあげるべき弱者でしかないのだ。


他の貴族たちも同様に、虐げる理由がない。

むしろ、気にかけてあげるべき存在として認知しているからゲーム本編でのイベントが何一つ発生しえないのが現実となっている。

そして攻略対象達だって、下手に手を出すと危うそうな異性にわざわざ自分から触れに来るようなことをするはずがない。

だから何もない。


……でも、だとしたら聖女がいない場合の公務はどうなるのだろう。

ヒロインを起点として発生する校内イベントと違い、公務イベントはいようがいまいが発生してしまう設定だ。

一つは、南西にあるルプレ川下流に位置するアルハ村での疫病、鉱山での崩落事故、同盟国であるアルヴレッジ皇国での魔獣の氾濫……ほかにもいくつか起こるイベントは、

聖女を聖女たらしめんとするイベントの数々であるがゆえに、どれも聖女がいなければ生存者の方が少なかったと作中で言われており、皇国のイベントでは第一王子が瀕死の重傷を負うことにもなってしまう。

そして皇国での魔物の氾濫は皇国が原因だったため、第一王子が亡くなっていたら最悪の場合戦争に発展していたかもしれないと作中で語られていた。


「最初のイベント発生まではまだ時間がある……」


一番初めの公務であるアルハ村での疫病は今から3ヶ月後にある試験の後、その実力を本番で試すかのように発生するイベントで、ヒロインはそれによって自信をつけ、聖女であることにより強い誇りをもって強くなる精神的強化イベントも兼ねている。


「何とかする……? 私が? でも、どうやって……」


ゲームで出てきた選択肢が出てくるわけじゃない。

失敗したらロードしてやり直しできるわけでもない。

予言するような魔術や魔法は存在していない為、私の発言が事実になればそれは私によるマッチポンプを疑われかねない。

だって分かるはずもないことを言い当てるのだから、自作自演を疑われたって仕方がない。私だって疑う。

かといって女神様の神託だなんて言って、聖女にさえ与えられたという伝承がないものを誰が信じてくれるのか。

そして聖女を騙ったところで癒しの力を持っていない私はすぐに詐称がバレて、国外追放などの罰を受けることになってしまう。


「……」


つまり、ヒロインが治らない=聖女がいない=誰も救えない=第一王子が死ぬ=戦争が起こる

つまり、ヒロインが処刑される=世界の終わり


「私の責任が重大すぎるッ!」


叫ぶように悶えて、枕に頭を叩きこんで身を丸める。

けれど、私は多くを語れない。

少なくとも、予言の様な事をすれば()()扱いで極刑もあり得る。


一つずつだ。

一つずつやれることをやって、お母さんに相談した時のように問題に少しでも近そうで話しても私の素性を疑われなさそうな話をして手助けして貰う。

一人じゃ絶対に無理だけど、そうやっていけばきっと必ず何とかなる。

そう信じて進めていくしかない。


まずはやっぱり、ヒロインを救うこと……とりあえず、処刑から!

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