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お見舞い

「3日……?」

「そうよ? ユリちゃんが事故に遭ってからね……あの人ったらもう怒り心頭だったわ」


ユーリアに遺伝した少し濃い色の金髪と、エリーナへと遺伝した全てを見透かすような青色の瞳

そして優しい笑みを携えながら私の額にかかる髪を払い除けるお母様。

ヒロインがここを去った後、目を覚ましたことを聞いたお母様が駆けつけてくれたのである。

どうやら、私がこん睡状態に陥ったことを知らされてからとてつもなく高価な機械仕掛けの魔導具を使って飛んできたのだとか。

本気になったお父様を止められるのはお母様と私達姉妹くらいしかいないから、今は妹のエリーナがお父様の傍にいてくれているそうだ。

エリーナなら私がアリア嬢に対して極刑なんて望んでいないことを良く分かっているだろうし、親心で何が何でも。といった考えには至らないだろうから安心できる。けど。


「それで……グラディウス男爵令嬢は本当に牢に?」

「ええ」

「本当に極刑になるの?」

「このままだとそうなるわ」

「けどっ……あれはどう考えたって――」

「事故とは限らない。というのが検証官の判断よ」


お母様もその判断には思うところがありそうな面持ちで息をつく。

検証官とは何かしらの事故事件が発生した際にその調査検証を担う役職のことで、その判断が裁定に大きく影響を及ぼすことになる。

公平性の観点から貴族平民の区別なく就くことが可能な珍しい仕事の一方で、振り落とすための試験レベルは王国一とも言われるほどの難関だ。

そんな優秀な文官の言葉なら簡単には揺らがない。

お母様には私達姉妹というアリア嬢と同じ娘がいるからか情状酌量の余地がないのかと悩んでくれている様子だけれど、

お母様は私のお母様というだけで今回の一件の被害者ではなく、目撃者でも何でもない。

そしてそういった事故事件の調査を担い判断を行う検証官という役職に就いているわけでもない為、ほとんど部外者同然である。つまり、この件について発言権がないに等しい。


魔導術式。

それも授業で使い古され安全が保障されていたはずの小規模術式で怪我を負わせるほどの暴発が起きた。

使われた術式は地面に描かれていたのと、それを発現の起点としていたために吹き飛んでしまったため完全に再現することは出来なかったらしくあくまで推察することしかできないが術式にほころびがあった可能性は低いという判断となったようで、暫定的には事故ではなく事件。つまりは私に対する殺意があったのではないか。という判断に至ったらしい。

節穴も良いところだと当事者でありヒロインを知っている私は思ってしまうものの、客観的に見れば下位貴族による高位貴族の暗殺行為であり、その高位貴族が国境の要所を担う辺境伯家の娘であれば、裏がないはずがないと懸念するのは至極真っ当な気がする。


だとしても……極刑は行き過ぎている。

そもそもまだ学生相当の娘が自分の意思で暗殺を目論む可能性……は、あるかもしれないけど、

あるとすればその親である男爵による謀略ではと疑いを持つのが道理ではないだろうか。

いや、その流れにお父様は持って行こうとしたに違いない。

お父様は親ばかだし、そこそこ脳筋な人ではあるものの決して勢いだけですべてを葬ろうと考えるような人ではないから。

だとすれば。


「お母様。グラディウス男爵家に調査が入っているのですね?」

「そうね……もし、男爵家に問題がなければひとまず極刑までは行かないと思うの。ご令嬢も素行不良ではないと証言が上がっているし、ユリちゃんと一緒に授業を行うことになったのはあくまでもユリちゃんから誘ったからでしょう?」

「そうなんです。グラディウス男爵令嬢はそう……自分から誰かを誘うような性格ではないようで、とても暗いんです。だからその……私が……」


見逃せなかったのね。とお母様はちょっぴり呆れたように言う。

それでこんなことになったのなら考えを改めて欲しいとお母様は思ったのかもしれないけれどこの性分は変えられないし変えたくない。

もちろん、ちゃんと弁えるつもりであるけれど、ヒロインについては私の責任だから。


「そうだ。グラディウス男爵家について調査するならアリア嬢についても当然調査しますよね?」

「気になることがあるならアルくんに聞いておくけれど何かあるの?」

「確証はないけど……普通じゃない育て方をされているような気がして心配なんです。もっとこう、彼女は明るい子の様な……」

「みんながみんな、ユリちゃんエリちゃんみたいなになれるわけではないのよ? 人には向き不向きがあるのだから。教育に関わらず、その子の個性として」

「それは分かってる。でもっ――」


囃し立ててしまいそうになった私の頬をお母様の手が撫でる。

落ち着きなさいと諭すように。


「分かったわ」

「本当……? 本当に?」

「貴女が目の色を変えてまで語るのなら、お母さんも真剣に向き合うわ」


真剣というよりも神妙な面持ちのお母様はすぐに破顔して。


「手始めに賠償請求、しましょうか!」


そう高らかに宣言した。

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