終章 “奴ら”
暗闇が支配する空間。その中心に、ぼんやりとした青白い光が浮かんでいる。光は部屋全体を照らすには足りず、空間の端は闇に溶け込んだままだ。そこに、二つの影が向かい合って座っている。
「また一つ、消えたな。」
冷たい声が空気を切り裂いた。黒いローブを纏った男が机の上に広げられた地図に指を這わせている。その指先は、エリオの村がある山を正確に示していた。
「ふふっ、やっぱり。あれは持たなかったわね。」
女性の軽やかな声が闇を震わせた。金属の何かを弄ぶようなカチャカチャという音が耳障りに響く。彼女の瞳には好奇心が宿り、口元には冷たく歪んだ笑みが浮かんでいた。
「使い物にならない穢れたものなど、遅かれ早かれ消える運命だった。」
男が淡々と答えながら、地図を睨みつける。
「でもさ、あの少年、面白くない?」
女性が身を乗り出し、机に肘をつく。その目はまるで新しい玩具を見つけた子どものように輝いていた。
「少年?」
男が顔を上げる。その声には関心の欠片もなかったが、女性の話を無視することもない。
「そう。エリオとかいう子よ。祠の力を扱えるなんて、普通の人間じゃないわ。」
女性が楽しげに笑いながら金属片を指先で回す。
「特別な存在かもしれないが、重要なのは彼ではない。」
男は再び地図に目を戻す。
「問題は祠だ。山神の力がこちらに流れ込むことを阻止された。これは計画の遅れを意味する。」
「まあまあ、そんなにカリカリしないの。」
女性は椅子に背を預け、大げさに手を振った。
「次の山を狙えばいいだけの話じゃない。」
「次の山……」
男は指先を地図上の別の山に移す。
「ここだ。この山の調和を乱せば、さらに強い力を引き込めるはずだ。」
「楽しみね。」
女性が口元に手を当てて微笑む。
「で、その少年はどうするの?」
「祠を守るつもりならば、排除するまでだ。」
男の声は冷たく響く。
「だが、彼は駒に過ぎない。いずれ消える存在だ。」
「駒、ねぇ。」
女性は金属片を机に置き、静かに立ち上がる。
「駒でも、少し遊んでみたくなるわね。」
「好きにしろ。ただし、計画に遅れが生じることは許されない。」
男が短く答え、女性の方をちらりと見る。
「分かってるわ。」
女性が闇の中へと消えていく。その足音が完全に消えると、部屋は再び静寂に包まれた。
男は一人になった空間で、地図をじっと見つめていた。
「調和など、この世界には不要だ。」
呟いた声が闇に吸い込まれる。
「新しい秩序を創り出す。それが我々の役目だ。」
机の上に置かれた地図には、無数の山が描かれていた。その中のいくつかには黒い印がつけられている。そして、エリオの村がある山には、小さな赤い印が加えられていた。
遠くで風の音が聞こえる。その音が、一瞬だけ山の静寂と混じり合ったかのように錯覚させたが、部屋の闇はすぐにその音すら飲み込んだ。




