第9章 もえる山② 山の叫び
村の静けさが、赤い月の夜に打ち破られる。
動物たちの鳴き声が不穏に響き渡り、村人たちはざわめき始めていた。普段はおとなしい家畜たちが小屋の中で暴れ、外の野生動物が村に近づいているという報せが次々に飛び交う。
「ラルカおばさん、大変だよ! 家畜が暴れて……!」
広場に駆け込んできたのはリナだった。小さな体を精一杯使って、大人たちに状況を伝えようとする必死さが滲んでいる。
「リナ、落ち着いて! ここにいなさい!」
リナの母であるレミナが駆け寄り、娘を抱きしめた。その隣で、アリシア・ガンチャカが鋭い目を向けて口を開いた。
「私も行きます! 家畜たち、怖がっているはずだから。」
「助かるわ。じゃあ、一緒に来て!」
レミナはアリシアを連れて家畜小屋へ走り出す。
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「落ち着いて行動するのよ!」
ラルカ・ホルギンガンドは冷静な声で次々と指示を出し、混乱する村人たちを落ち着かせた。その目には恐れよりも、何としてでも村を守るという意志が宿っている。
「ゴルギ、ケベル、あんたたちは小屋の点検! ほかの人たちは子どもたちを安全な場所に集めるのよ!」
「了解だ!」
ゴルギが頷き、ケベルと共に家畜小屋へ急いだ。
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山の気配は明らかに乱れている。エリオは「山智」を発動すると、大地の脈動が足元を通じて体に伝わってきた。それは、山の悲鳴とも取れるような異常な振動だった。
「やっぱり、何かがおかしい……」
呟きながら、エリオはさらに山の奥へと歩を進めた。しかし、時間が惜しい。彼は『星勇』のもとへ駆け寄り、手綱を取るとその背に飛び乗った。星勇の背に乗ると、冷たい風が全身を包むが、その風の中に漂う穢れた匂いに顔をしかめた。
「風見の導……頼む!」
エリオは星勇を走らせながら風を読み取る。冷たく、不吉な風の流れが祠の方向へと向かっているのを感じ取る。
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「ケベル! こっちの扉が開きそうだ!」
ゴルギが家畜小屋の扉を押さえながら叫んだ。
「アリシア、手伝ってくれ!」
ケベルが呼びかけると、アリシアはすぐさま駆け寄った。
「動物たち、怖がってる……これじゃ収まらない!」
アリシアが声を上げる。
「リナ、落ち着いて!」
レミナが家畜をなだめながらリナを振り返った。
「ここは任せて、あなたは他の人を手伝いなさい!」
その時、山の奥から低い唸り声のような音が聞こえてきた。それは遠くからだが、まるで人の叫び声と動物の鳴き声が混ざり合ったような、不気味な響きだった。
「今の音……何だ?」
ゴルギが険しい表情で山を見上げた。
「山が……叫んでいるみたい。」
アリシアが小さく呟いた。
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星勇を駆って山奥に到達すると、エリオは一帯に漂う黒い影を目にした。それはただの影ではなく、形を持たない煙のような存在だった。黒い影はエリオの目の前で一瞬、人の形のような輪郭を成し、次の瞬間には煙のように広がった。
「これが……山の異常の元凶なのか?」
エリオは星勇から降り、息を整えた。「山智」で地面の力の流れを探り、黒い影が山そのものの調和を崩していることを感じ取った。
「風見の導、山智、頼むぞ……」
エリオは集中し、両方の能力を同時に発動した。風と地中の力を合わせて感じ取ると、黒い影がただの自然現象ではなく、意志を持つ存在であることが分かった。
『逃げるな……』
突然、黒い影が低く囁くような声を発した。エリオは驚きながらも動じず、その場に立ち向かう。
「お前は……何だ? この山をどうしようとしている?」
問いかけても返事はない。ただ、影は形を変えながらゆっくりと祠の奥へと向かって消えていった。
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「ケベル! そっちが危ない!」
ラルカが叫び、ケベルがぎりぎりのところで暴れる家畜を避ける。動物たちは明らかに恐怖に駆られているようだった。
「なんてこった……まるで何かに追い立てられてるみたいだ。」
ゴルギが呟き、周囲を見回す。
その時、山の奥から赤い光が微かに揺らめきながら漏れ出ていた。それはただの光ではなく、まるで山が呼吸をしているかのように一定のリズムで明滅していた。
「山が……どうなるんだ?」
ラルカが小さく呟いた。
エリオが山の奥で黒い影と対峙する中、村の広場では混乱が広がり続けている。
赤い月の下、山の叫びはますます強くなり、次の試練が迫っていた。




