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山の声に耳をかたむけて  作者: 苔藻丸
エリオ 10歳の夏篇
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第5章 夏の訪問②

 朝日が山々を黄金色に染める頃、クレルヴァ村では静かなざわめきが広がっていた。ロナード・グリセヴァ、陽気な行商人が村に滞在して2日目。彼の荷馬の周りには、すでに子供たちの興味津々な声が飛び交っていた。


「おじさん、今日は何を見せてくれるの?」


「おじさんじゃない、『おにいさん』だって言っただろう!」


 ロナードは苦笑しながら、荷馬からカラフルなビーズの首飾りを取り出し、子どもたちに見せた。子供たちは目を輝かせながらそれを覗き込む。


「これ、キラキラしてる!」


「僕、これが欲しい!」


「ねえ、どうやったらこれもらえるの?」


「まあまあ、落ち着けって! これはただの飾りじゃなくて、幸運を呼ぶお守りだ。持ってると山道で迷わないとか、怪我しないとか言われてるんだぞ。」


「ほんとに? 僕、昨日転んで膝すりむいたから、やっぱり必要だと思う!」


 ロナードは「商売繁盛だな」と内心ほくそ笑みつつも、子供たちの熱気に少しタジタジになりながら対応していた。


 エリオはその様子を少し離れた場所から眺めていた。彼は朝の涼しい空気を深く吸い込み、自分の相棒である山岳馬ヴァルステッド星勇アストラ」の背を軽く撫でた。


「さて、星勇アストラ。今日はロナードさんに君を紹介しようか?」


 星勇アストラは誇らしげに首を上げ、大きな瞳をきらめかせた。普通の山岳馬ヴァルステッドとは一線を画すその姿――灰銀の毛並みとやや大きな体格――は、村の中でも一際目を引く存在だった。


 エリオが星勇アストラを連れて広場に向かうと、子どもたちの目が一瞬で彼の方に向いた。


「うわぁ! エリオの星勇アストラだ!」


「本当にかっこいいなあ! 僕もこんな山岳馬ヴァルステッドが欲しい!」


 その声に気づいたロナードは、ふと星勇アストラに目を留めた。その瞬間、彼の表情が驚きに変わる。


「エリオ……これは一体?」


「僕の相棒です、星勇アストラ。」


 ロナードは荷馬から離れ、アストラに近づいてじっくりと観察し始めた。


「この毛並み……普通の山岳馬ヴァルステッドとは全然違う。この体格、まるで山神の祝福を受けたようだな。」


 エリオは微笑みながら頷いた。


「村のはずれで、星勇アストラと出会ったんです。それ以来、どんな険しい山道でも一緒に越えられるようになりました。」


 ロナードは感心しながら手を伸ばし、星勇アストラの首を軽く撫でた。星勇アストラは嬉しそうに鼻を鳴らし、その目がロナードの山岳馬ヴァルステッドへと向けられる。


「おっと、これは僕の相棒の出番かな?」


 ロナードは笑いながら、自分の山岳馬ヴァルステッドの群れの長である「咲誇チルナ」に声をかけた。


 咲誇チルナは栗毛で、しっかりとした足腰と落ち着いた表情が印象的な山岳馬ヴァルステッドだ。星勇アストラ咲誇チルナの方へ近づくと、二頭の馬はお互いを確認するように鼻を寄せ合い、次の瞬間、まるで子犬のようにじゃれ始めた。


挿絵(By みてみん)


「こらこら、お前たち! 暴れすぎると荷物がひっくり返るぞ!」ロナードが声を上げるが、馬たちは気にする様子もなく駆け回る。


 広場は相変わらず賑やかだった。ロナードと子供たち、そしてエリオと馬たちの光景が混ざり合い、平和そのものだ。


「エリオ! 星勇アストラ、ほんとにすごいね! 僕も乗ってみたい!」


「いやいや、星勇アストラは僕の相棒だからね。」


 エリオは笑いながら子どもたちの願望をかわす。


「ロナードおじさん、星勇アストラはどうして外の馬とこんなに違うの?」


 一人の少年が質問した。


 ロナードは腕を組みながら、少し考える仕草をした後、にやりと笑った。


「それはね、きっとエリオが特別だからだよ。この馬は彼を選んだんだ。山神の声が聞こえるエリオにふさわしい相棒なんだろう。あと、『おにいさん』な!」


「えぇー! ずるい! 僕も山神の声聞いてみたい!」


「そう簡単に聞けるものじゃないけどな。エリオが特訓したからこそ、こうなったんだ。」


 ロナードはそう言いながら、エリオにウインクした。


「いやいや、そんな大げさなものじゃないですよ!」


 エリオは照れくさそうに笑いながら手を振った。


 太陽が少しずつ西に傾き始める頃、広場では山の影がゆっくりと伸びてきた。それでも子どもたちの笑い声と馬たちの軽快な足音は絶えなかった。ロナードはふとその光景を眺めながら、静かに呟いた。


「こういう時間があるから、この村に来るのはやめられないんだよな……。」


 エリオもその言葉を聞き、星勇アストラの首を撫でながら小さく頷いた。山の風が二人と二頭の間を静かに抜け、平和な空気を一層際立たせていた。


 そして、また新たな一日が、ゆっくりと終わりに近づいていった――。

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