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山の声に耳をかたむけて  作者: 苔藻丸
エリオ 10歳の夏篇
32/43

第4章 夏の訪問①

 高山地帯のクレルヴァ村に夏が訪れた。


 涼しげな風が緑豊かな谷を抜け、陽光は山々を照らしている。そんな穏やかな季節、村に行商人ロナード・グリセヴァがやってきた。


 広場にはすでに村人たちが集まり、彼の到着を待ちわびている。ロナードは、山岳馬ヴァルステッドの背から荷物を次々と降ろしながら、陽気な声で話し始めた。


「さぁ、クレルヴァの皆さん!今日は特別に良い品揃えですよ!珍しい布地から、新鮮な塩漬けの海魚まで、どれも外の世界から持ってきた逸品ばかり!」


 子どもたちが「おじさん、今日は何があるの?」と無邪気な声を上げると、ロナードは笑顔で応じる。


「君たちには特別に、甘い干し果物を見せてあげようか?」


「あと、『おじさん』じゃなくて『おにいさん』な!」


挿絵(By みてみん)


 その言葉に子どもたちは大歓声を上げ、「ありがとう、『おにいさん』!!」とロナードの荷物の周りに群がった。その中には、エリオもいた。


「ロナードさん、今回は長めに滞在するんですか?」


「そのつもりだ。今回は村長宅に泊まらせてもらえることになったからな。助かるよ。」


「えっ、僕の家ですか?」


 エリオは少し驚いた顔をしたが、すぐに納得した様子で頷いた。村長であるタリオの家は、客人を迎えることが多い。


 夕方、村では恒例の宴会が始まった。ロナードの到着は、村にとって一大イベント。外の世界からの贈り物は、日々の暮らしを豊かにするだけでなく、村人たちにとって外の世界を垣間見る貴重な機会でもある。


 広場では、大きな焚き火が燃え、その周りにはテーブルが並べられている。村人たちが持ち寄った料理が次々と並び、山の幸をふんだんに使ったご馳走が広がる。


「これは俺が採った茸で作ったスープだぞ!」


「こっちは私が釣った川魚の塩焼きよ!」


 そんな中、ロナードは荷馬から特製の塩漬けの海魚を取り出し、大きな鉄鍋に投げ入れた。


「さて、皆さん!今日は特別に、外のレシピで煮込む魚料理をお届けしましょう!」


 エリオはその手際をじっと見つめながら、「これって何の魚ですか?」と興味津々で尋ねた。


「これはな、遠洋で捕れた青魚を塩漬けにした後、丁寧に燻製にしたものだ。。柔らかくて旨味が詰まってるぞ!」


 ロナードが鍋を煮込む間、村人たちは次々と料理を持ち寄る。山菜の和え物や、岩角羊ワルぺの燻製、新鮮な野菜――どれも村ならではの風味だ。エリオは、手伝いながら自分の分も確保しようとするが、子どもたちが次々と狙ってくる。


「エリオ、それ僕のだぞ!」


「嘘つけ、そっちこそ僕のだろ!」


 エリオは笑いながら小皿を押さえつつ、「ちゃんと分けるよ!」と子どもたちを宥める。


 その様子を見ていたロナードは、「さぁ、煮込みができたぞ!」と大きな声で宣言した。村人たちは一斉に手を止め、香ばしい匂いに引き寄せられる。


 出来上がった料理がテーブルに並ぶ。

 特製の魚料理、香ばしい茸のスープ、新鮮なサラダ――どれも村人たちの手によるものだ。


「いただきまーす!」


 子どもたちが声を揃え、一斉に手を伸ばす。エリオもその波に乗り、普段食べられない海の魚を頬張った。


「これ、すっごく美味しい!柔らかいし、味が濃い!」


「普段は川魚ばかりの村で、こんな海の魚を食べられるなんて……!」


「だろう?」


 ロナードは得意げに笑いながら、村人たちの感想に耳を傾ける。エリオはふと顔を上げ、「ロナードさん、これってどうやって作ったんですか?」と尋ねた。


「秘密のスパイスがあるんだよ。この山にはないものだけどな。」


「秘密のスパイス?なんですか、それ?」


「ふふ、言ったら秘密じゃなくなるだろう?ただ、ひとつ教えてやる。この香りが引き立つのは、この山の空気があるからだよ。」


「へぇ……いつか外の世界に行ってみたいな。」


 エリオのつぶやきに、ロナードは優しく微笑んだ。


「お前ならきっと行けるさ。でも、まずはこの村を大事にすることだな。」


エリオはその言葉に頷きながら、また一口食べた。


 宴は夜更けまで続いた。焚き火の明かりに照らされた村人たちの笑顔は、どこか神聖で温かい。エリオは、満たされた気持ちで空を見上げた。


 満天の星空が広がり、風がそっと頬を撫でる。遠くから聞こえる山の声に耳を澄ませながら、彼は次第に眠気に襲われていった。


 村の夜は静かに、そして温かく更けていった――。

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