第3章 光苺(ラルゴ)狩り
夏の青空が山々を優しく包み込み、清らかな風が谷を渡る。そんな中、エリオとエレナは村の子どもたちを連れ、山道を登っていた。目的は「光苺」――山でしか採れない小さな赤い果実だ。その甘さとみずみずしさは貴重な自然の贈り物で、村では特別な甘味として珍重されている。
「ねえエリオ先生、光苺ってほんとに甘いの?」
一番前を歩くリナが振り返り、大きな目を輝かせた。
「うん、食べたらきっとびっくりするよ。お砂糖みたいに甘いけど、少し酸っぱくてね。」
エリオは笑顔で答えた。
「へぇ、本当にそんなに美味しいのかよ?」
後ろからニヤニヤしながら声をかけてきたのはルルキ。村一番の悪ガキとして有名で、いつも誰かをからかっている。
「リナはきっと見つけられないよ。だって、探し方がヘタクソだもん!」
ルルキが口を尖らせると、リナはぷくっと頬を膨らませた。
「ルルキ!やめなさい。」
エレナが鋭い声で一喝する。淡いブラウスにスカートという軽やかな姿のエレナだが、その態度は毅然としている。子どもたちは彼女を少し怖がりつつも尊敬していた。
「わ、悪かったよ……。」
ルルキはシュンとして小石を蹴飛ばした。
山の中腹に差しかかった頃、一行は目的地の小さな花畑に到着した。朝露がまだ残る葉に陽光が反射し、光苺の茂みがキラキラと輝いている。
「すごい!綺麗!」
リナが歓声を上げた。
「これが光苺。みんな、足元に気をつけて採るんだよ。」
エリオが注意を促す。光苺は茂みの中に隠れていて、摘み取るには根気が必要だ。
「ほら、リナ。ここに小さいのがあるぞ。」
ルルキが少しだけ反省した様子で教えてあげる。リナは「ありがとう」と嬉しそうに返した。
「エリオ、こっちはどう?」
エレナがしゃがみこんで光苺を探している。彼女は釣りに参加できなかった鬱憤を晴らすように、意気込みが違っていた。
「おっと、これは大物かも。」
エレナが摘み取った光苺を見せると、真っ赤で完璧な形をしていた。
「すごい!さすがエレナだね!」
エリオが感心すると、エレナは得意げに鼻を鳴らした。
夕暮れ時、村に帰った子どもたちは、早速採れたての光苺を広場に並べた。エリオとエレナが中心となって、光苺を使った料理を準備する。
「まずはこれ、光苺のソースね。」
エレナが鍋に苺を入れて木べらで丁寧に潰しながら、砂糖を少しずつ加える。砂糖は村では貴重なので、取り扱いに注意だ。
「次は……光苺のケーキだ!」
エリオが生地を混ぜながら、苺を細かく刻んで混ぜ込む。子どもたちは興味津々でその様子を眺めていた。
「おい、俺にもやらせろよ!」
ルルキが張り切って木べらを奪おうとするが、エレナに睨まれ、大人しく引き下がる。
料理が進むにつれ、甘酸っぱい香りが広場全体に広がり、村人たちも次々と集まってきた。
出来上がった料理が広場のテーブルに並べられる。
光苺のソースをかけたふわふわのケーキ、光苺をそのまま使った素朴なジャム――どれも絶品だ。
「いただきまーす!」
一斉に手を伸ばす子どもたち。ルルキが大口を開けてケーキを頬張ると、「うめぇ!」と叫んだ。
「おい、そんなに食べると他の人の分がなくなるわよ!」
エレナが注意すると、ルルキは口をモゴモゴさせながら慌てて手を止めた。
「本当に美味しいね。」
リナがジャムを舐めながらニコニコと笑う。
「そうだろ?」
エリオも満足げに微笑んだ。
食事が終わり、日が沈むと、子どもたちは満足げにそれぞれの家へ帰っていった。エリオとエレナは残った光苺を整理しながら、今日一日の出来事を振り返った。
「楽しかったね。」
エレナが静かに呟いた。
「うん。またみんなで来よう。」
エリオは穏やかに頷いた。
二人は夕焼けに染まる山々を眺めながら、光苺が織りなす優しい思い出を胸に刻んだ。




