第24章 修行の果てに②
二日目の朝、ひんやりとした空気が祠の内部を包み込む中、エリオは焚き火の小さな炎を見つめていた。焚き火の明かりが揺れるたび、彼の心に決意が湧き上がってくる。今日は断食を試みよう。祠に持ち込んだ食料には一切手をつけず、洞窟の天井から滴り落ちる水を少量だけ口にすることにした。
「これも修行の一環だ。空腹に耐えられないようでは、山神さまの試練を乗り越えられない……!」
エリオは自分にそう言い聞かせると、持ち込んだ食料の包みを袋の奥深くに押し込んだ。腹の音が小さく鳴り響き、彼は苦笑いを浮かべる。
「……静かにしてくれ、俺の腹よ。」
祠の中央に腰を下ろし、エリオは深呼吸を繰り返した。空腹の感覚が徐々に意識を支配してくるが、それを意図的に無視し、瞑想に集中しようとする。洞窟内の静寂に身を委ねながら、彼はゆっくりと意識を沈めていった。
どれくらいの時間が経ったのか、エリオにはわからなかった。微かな風の音や滴る水音が、心の奥深くまで染み込んでくる。次第に彼の意識は現実から離れ、不思議な光景が目の前に浮かび上がった。
まず最初に現れたのは、燃え盛る山火事だった。木々が炎に包まれ、煙が空高く立ち上る。その光景は鮮明で、熱気さえ感じるほどだった。
次に現れたのは、吹き荒れる吹雪。視界は白一色に覆われ、激しい風が全てを押し流していく。
そして最後に、一面の草原が広がる風景が現れた。優しい風が草を揺らし、どこか懐かしさを感じさせる光景だった。
しかし、その草原の中にぽつんと立つ巨大な木がエリオの目を引いた。その木は堂々としており、その根元に黒い影が佇んでいる。影は人の形をしており、じっとエリオを見つめているようだった。
「……山神さま!!?」
エリオは思わず声を上げた。言葉が空間に響いたかのように感じたが、黒い影は何も応えない。ただ彼をじっと見つめ続ける。その無言の存在感に圧倒され、エリオは無意識に手を伸ばした。
その瞬間だった。
激しい頭痛が彼を襲った。額を押さえ、苦悶の声を漏らしながらその場に崩れ落ちる。頭の中で鈍い痛みが何度も波のように押し寄せ、目の前に広がっていた光景が次第にぼやけていく。燃え盛る山火事も、吹雪も、草原もすべてが闇に吸い込まれるように消え去り、やがて完全に暗闇だけが残った。
エリオは荒い息をつきながら、地面に手をついて立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。頭痛の残響がまだ彼を苛んでいた。
「いったい、何だったんだ……。」
額に滲む汗を拭いながら、エリオは崩れ落ちたまま、祠の静けさに包まれる。その静寂が逆に彼の心に重くのしかかり、自分に課された試練の重さを感じずにはいられなかった。
「山神さま……。これは、あなたが示してくださったものですか……?」
エリオは震える声で問いかけるが、当然返答はない。ただ、祠の中に響くのは自分の荒い息遣いだけだった。それでも彼は、この光景が山神の啓示であると信じていた。何か重要な意味があるのだ。それを解き明かすためには、この試練を乗り越えなければならない。
エリオはそっと目を閉じ、静かに呼吸を整え始めた。頭痛が徐々に引いていく中、再び祠の静寂が彼を包み込む。心の中に湧き上がる不安と希望の狭間で、彼は次の瞑想に備える決意を固めていた。
「……まだ終わっていない。続けよう。」
エリオは再び祠の中央に座り直し、深い呼吸を始めた。空腹と疲労に耐えながら、彼は山神の次なる啓示を待ち続けるのだった。




