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山の声に耳をかたむけて  作者: 苔藻丸
エリオ 10歳の春篇
23/43

第22章 休むために多忙。これいかに?

「い、忙しい……。」


 エリオ・ヴァルカスは、額に滲む汗を拭いながら、息も絶え絶えに呟いた。祠での出来事から数日。彼の頭の中には祠で感じた不思議な感覚が今も残っていた。


「山神は語らぬ。でも、確信があるんだ……」


 あの祠で瞑想による山神さまとの対話を試みる修行をすれば、何かが起こる――そんな直感に突き動かされるように、エリオは少なくとも3日間の修行を計画していた。しかし、それにはまず準備が必要だ。いや、むしろ休みを取るための準備が、予想以上に彼を忙しくさせることになった。


「エリオ先生!リナが井戸に落ちそうになってる!」


「エリオ兄ちゃん!鶏が小屋から逃げた!」


「実の手様、明日の天気は!!?」


 朝から鳴り響く村人たちの声に、エリオは目を覚ます間もなく振り回されていた。


「ちょっと待って!順番!まずリナ!その次に鶏!明日は晴れ!!」


 井戸に駆けつけたエリオは、危うくバランスを崩しそうになったリナを抱きかかえて救出した。涙目のリナが呟く。


「ありがとう、エリオ先生。でも、もっとしっかり見ててよね!」


「いや、それは君の問題じゃないかな……?」


 エリオは苦笑するしかない。


 その足で鶏小屋に向かうと、逃げ出した鶏を捕まえようと村の子どもたちが右往左往している。


「ルルキ、そっちを塞いで!こっちに追い込むんだ!」


「わかった、エリオ!任せろ!!」


 数分後、無事に鶏を捕まえたエリオは泥だらけで立ち上がった。


「……これは俺の仕事か…?」


 祠での修行のためには、最低限の準備が必要だ。食料、水、薬草、そして何より村の人々への説明だ。


「休み……?エリオが?」


 村長宅で告げた瞬間、周囲の村人たちの顔が一斉に曇った。


「エリオがいなくなったら、村はどうするんだ?」


「そうだ、エリオがいなけりゃ、誰が天気を読んでくれる?」


「それにリナを井戸から救ったのだってエリオだろ!」


 エリオは深々とため息をつき、村人たちを説得する。


「俺だって、少しくらい休ませてくださいよ!たった3日間だけですから!」


「3日だと?山神に祈りを捧げるんだろ?どうせなら5日間にして、ついでに山神様の気持ちも聞いてきてくれ!」


「そんな延長されるほど楽じゃないんですよ!」


 エリオが荷物を整えている最中にも、次々と問題が舞い込む。


「エリオ、畑の端で奇妙なキノコが生えてるんだが、あれ、食べられるか?」


「……無理です。それ毒キノコです。」


「エリオ先生、子どもたちが川で遊びすぎて風邪を引きそうなんですけど!」


「それは……早く家に戻してあげてください!あああ、もう、恵みの息吹めぐみのいぶきィィぃい!!!」


 夜遅くまで、村人たちの要望に応え続けたエリオは、ようやく自室に戻った。そして床に倒れ込むようにして、呟いた。


「休むために、こんなに忙しいなんて……。これが山神様の試練か……?」


挿絵(By みてみん)


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 準備が整い、ようやく祠へ向かう日がやってきた。村人たちが見送る中、ケベル・ホルギンガンドが声をかけた。今日もまた、祠までの案内役は彼だ。


「準備万端か?」


「はい、これ以上引き延ばせないので。」


 ケベルはふと微笑み、エリオの肩を叩いた。


「無理はするなよ。山神様も、頑張りすぎる奴は嫌いかもしれないからな。」


 その言葉に、ベノの言葉を思い出しながら、エリオも思わず笑みを浮かべた。


「そうですね……まずは、自分のペースでやってみます。」


 青空の下、祠へと続く山道を歩き出すエリオの背中に、村人たちの励ましの声が届いた。


「エリオ、がんばれよ!」


「山神様によろしくな!」


 祠への道のりは険しいが、彼の心には山神への強い信念があった。


「さあ、いよいよ修行だ!」

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