第12章 村の子どもたちと凧揚げ大会
春特有の強い風が、クレルヴァ村の広場を抜けていく。朝から青空が広がり、どこか心地よいざわめきが村全体を包んでいた。エリオ・ヴァルカスは村の集会所(自宅)で子どもたちに授業をしていたが、どうにも落ち着かない様子だった。
「エリオ!外の風すごいぜ!!今日は凧揚げ日和じゃないか!!?」
ルルキが窓から外を覗き込みながら声を上げる。
「はいはい、授業中だから静かにして……」
エリオはため息をつきつつ、薬草を片手に子どもたちに注意する。しかし、リナも負けじと声をあげた。
「先生!私、昨日お母さんに凧作ってもらったんだよ!今日揚げてみたいな~!」
リナがキラキラした目で訴えると、他の子どもたちも一斉に賛同の声を上げる。
「凧揚げ!やりたい!」
「エリオ先生、教えてよ!」
「風が強いから今がチャンスだよ!」
エリオは薬草を置いて頭をかきながら苦笑した。「……授業はどうするんだ?」と呟いたが、子どもたちの無邪気な笑顔に押され、ついに白旗を上げることに。
広場に集まった子どもたちは、それぞれ自分の小さな凧を持ち寄っていた。リナがピンク色の布で作った可愛らしい凧を誇らしげに見せる一方で、ルルキは持ってきた凧がボロボロだったため、ふてくされている。
「そんなの、全然飛ばないよ。」
リナがからかうように言うと、ルルキはムッとした表情を浮かべる。
「うるさい!俺の凧だって、飛ばせば大丈夫なんだ!」
二人は言い合いを始め、エリオは頭を抱えながら仲裁に入った。
「はいはい、二人とも。せっかくだから一緒に新しい凧を作ろう。みんなで力を合わせて大きいのを作ればいいじゃないか。」
エリオの提案に子どもたちは目を輝かせた。「やりたい!」と声をそろえ、大きな凧を作ることに決まった。
エリオの指示のもと、子どもたちは材料を集め始めた。羊皮紙や布切れ、竹の枝を集めて組み合わせ、大きな凧を作り上げる。ルルキが力任せに竹を切りすぎて枠が壊れそうになったり、リナが布に絵を描こうとして時間を無駄にしたりと、トラブルが絶えなかったが、子どもたちは笑い声を響かせながら楽しそうに作業を続けた。
「先生、これでいいかな?」
リナが完成した大きな凧を見せる。凧には子どもたちが描いた花や太陽の絵がカラフルに描かれていた。
「いいじゃないか。これならきっと高く飛ぶよ。」
エリオが微笑むと、子どもたちは「早く飛ばそう!」と広場へ駆け出した。
広場に出ると、春風が心地よく吹き抜けていた。エリオが大きな凧を手に持ち、子どもたちがひもを持って準備を整える。
「いくぞ!風が強くなったら、ひもを緩めるんだ!」
エリオが声を上げると、子どもたちは「了解!」と元気に返事をする。
エリオは「風見の導」で風の流れを感じ取りながら、凧を空へ向かって放った。凧は大きく揺れながらも、徐々に空高く舞い上がっていく。子どもたちは歓声を上げ、ひもを引っ張りながら夢中で凧を操った。
「やったー!見て見て、こんなに高く揚がったよ!」
リナが興奮した声を上げる。
「ほら、俺のひっぱり方が上手かったからだろ!」
ルルキも得意げに笑う。さっきまでの喧嘩はすっかり忘れているようだった。
突然、凧が大きく揺れ始めた。「あっ、糸が絡まった!」と子どもたちが叫ぶ。エリオは「風見の導」ですぐに状況を見極め、風の向きを読んで適切な指示を出す。
「リナ、そっちのひもを緩めて!ルルキはこっちを引っ張れ!」
エリオの的確な指示のもと、子どもたちは息を合わせて凧を操り、見事にバランスを取り戻した。
「すごい!エリオ!やるじゃん!」
ルルキが目を輝かせながら言う。
「まぁな。これくらい朝飯前さ。」
エリオは笑いながら肩をすくめた。
夕方、日が傾き始めると、子どもたちは疲れた様子で地面に座り込んだ。それでも満足そうな笑顔を浮かべている。
「今日は楽しかったね。」
リナが微笑むと、ルルキも「まぁな。」と照れくさそうに答えた。
「エリオ先生、またやろうね!」
子どもたちが声をそろえて言うと、エリオは苦笑しながら頷いた。
「次はもっと簡単なのにしてくれよな。」
春風に乗って、子どもたちの笑い声が村中に響き渡った。