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穏やかな風が優しく楽し気に桜を躍らせ、新入生を祝う晴れの日。
私は少しだけ浮ついた気持ちで校門をくぐった。
新しい制服に新しいローファー、そして新しい鞄。初めての電車通学に初めての定期。
何もかもが私の胸をいつもより高鳴らせていた。
私は念願だった高校に今日から通う。
特別な何かが芽生えるとかそんな大きなものではないけれど、きっと楽しい3年間になるというキラキラした予感は胸の中で瞬いていた。
あちらこちらで「おめでとう」という言葉と喜びの声が行き交い、写真を撮る姿で賑わっていた。
かくいう私も両親と共に入学式と書かれた看板の前で笑顔を決めてきたところだ。
そんな私の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
「入学おめでとう、美春!」
「入学おめでとう、後輩」
振り返ると親友と1つ上の彼女の兄がいた。
「ふふふ、入学おめでとう璃美」
親友にお祝いの言葉をお返しし、
「ありがとう、勇樹くん。今日からは後輩としてもよろしくお願いします」
親友の兄であり私にとって兄のような存在である彼に普段は使わない敬語を使って挨拶をした。
「ねぇ、クラスを確認しに行こう?」
少しはしゃいで瑠美が私の手を軽く引っ張りながら催促した。
「行っておいで。式を楽しみに会場で待ってるからね」
「いい席を取って待っておかなくちゃね」
「俺も在校生として見守ってるからな!」
両親と勇樹くんの言葉に背中を押されるように掲示板のほうへ歩みを進めた。