秋の歴史2024『分水嶺ー人生を大きく変える選択肢』
「はあ...」
その長い黒髪のその少女、久遠朱音は自分の部屋でその紙を見てため息をついた。そこには「不合格」と書かれていたからだ。
朱音はアイドル志望で何度もオーディションを受けているのだが、なかなかうまくいかないのだ。
「はあ..一体どうすれば...」
「僕に任せて!!」
その時部屋からそんな声がした。だが見回してみてもその声の主は誰もいない。幻聴かと視線を前に戻すと、そこには黄色い何かがいた。朱音は驚いて「うわっ!!」と言いながら後ろに下がる。
「やあ。僕は時の精霊」
「時の...精霊?」
その時の精霊と名乗る黄色いのはそんなようには見えなかった。丸い見た目に大きさは500円ほどか。丸くて黄色い体に棒人間のような手と足がついていて手には白い腕、足にはスニーカーを履いている奇妙な生物だ。
「ええと?その時の精霊さんが何か...?」
「君にチャンスを与えよう」
「はあ...」
「これから君は何回か選択肢を選ぶことになる。それで正しい方を何回も選べたら君にはとてつもない幸運を授かるでしょう」
話が飲み込めずに何も言えなくなる。どうすればいいのかわからずに「はあ...」と返事するするしかなかった。
「朱音ーちょっと来てー!!」
その時母親の声がした。朱音はその声にベッドから起きあがろうとした瞬間、目の前に文字が現れた。
A.行く
B.行かない
A、Bというアルファベットと共に行くか行かないかという2択を迫る質問かのような文字が空中に表示される。
「何これ?」
「これがさっき言ったやつだよ」
「妖精さん」
「さっき言ったでしょ?『君は何回か選択肢を選ぶことになる。それで正しい方を何回も選べたら君にはとてつもない幸運を授かる』って」
「はあ...」
「ちなみに、この状況は時が止まってるから 安心してね」
「じゃあこれを選べば...」
朱音は空中に浮いているAの方の文字を選ぶと選択肢は消え去った。
「今行くー!」
そう言って階段を降りていった。そしてしばらくして朱音は部屋に戻ってくる。
「おかえり、君は正解を選んだんだ」
「はあ」
「この調子で正解を選び続ければ、アイドルだって夢じゃないよ」
「アイドル...!」
その言葉に朱音は反応する。何度も落ち続けてもう無理なのではないかと諦めかけていた
「じゃあ.」
「うん、これからも頑張ってねえー」
そういうと妖精は消えていった。
「でねー?」
「うん」
次の日、朱音は休み時間で学校で友人の橋本瑞稀と話をしていた。向こうから教卓で何かをやっている先生の呼ぶ声が聞こえてくる。それに対して瑞稀は「いいよー放っておけばー?」と軽く言っている。その時、目の前にまたあの選択肢が現れる。
A.行く
B.行かない
「また...うーん、でもここは行ったほうがいいかなあ」
そう言いながらAを選ぶ。朱音が先生のところに行くと、教卓にはたくさんの色のノートが山積みにされていた。
「これを半分職員室に運んで欲しいんだ」
「わかりました」
ノートを半分持つとそこそこの重さだ。ノートを持ったせいで目の前が見辛くなっていて少し危険だったが、そのまま教室を出て階段に差し掛かった。視界をすこしばかりノートに遮られていて、階段を登るのは一苦労だ。そして、その時だった。
「あっ!」
朱音は階段に躓いて転んでしまった。その拍子にノートがバラバラと床に飛び散った。
「おい!保健室!」
「大丈夫か?久遠!」
そんな声が聞こえながら朱音は保健室に運ばれていく。幸いなことに足を挫いたぐらいでそれ以外の支障はとくになかった。
「はあ...アイドル目指してるのに足の怪我なんて...」
「それは君が選択肢を間違えたからだよ」
そこにまたあの精霊が現れた。
「もちろん1回間違えたぐらいでは完全に道が絶たれるわけじゃないけど、ミスを続けると完全にアイドルへの道はなくなるから気をつけてね?」
「そんな!!」
「その代わり、正しい道を選べばアイドルとしての道が確定するからね」
その言葉に朱音は何も言えなかった。
「それと、今からしばらく経った後に君の人生にとっての分岐点が現れるからね。それをミスったら...まあうん」
「その分岐点って...」
その朱音の言葉に妖精は「それは言えないなあ」とだけ言った。人生をおおきくを大きく変える分岐点...それは一体何なのか気になったが教えてくれない以上考えても無駄だとその時を待つことにした。
「あー遅れちゃう!!」
翌る日の朱音はそう言いながらその場所に向かっていた。足も治り、今日はアイドルの面接の日なのだ。交差点を急ぎ足で急いでわたると、向こうかには老婆の姿があった。そのスピードは遅く。明らかに信号を渡り切れるスピードではない。
A.助ける
B.助けない
「選択肢!?」
その時目の前に現れる選択肢。朱音は急がなければならないが、ここで見捨てるわけには行かない。
「お婆さん大丈夫ですか?」
「ああ、すまないねえ」
お婆さんを助けて急いで目的地の面接会場へと向かう。どうやら正解だったようで、特にトラブルなく事を運んだ。面接も間に合って順調に進む。そして面接が終わるとお辞儀をして外に出た。
「ふー」
「どうだい?」
そこに妖精が話しかけてくる。それに対して朱音は「まあ...」となんとも言えないような返答をした。
その面接の帰り道。朱音が歩いていると、向こうから男が話しかけてきた。
「ねえねえ君、アイドルに興味ない?」
突然のその言葉に朱音は惹かれそうになったがこんなところでキャッチーのような事をしているその男に少し警戒した。
「あ、朱音ー!!!」
そしてさらに向こうからそんな声がして、そっちの方を向くと横断歩道を渡りながら瑞稀が手を振ってこちらに走ってくる。
プーッ!!
その時けたたましいクラクションの音がして、信号が青だというのに勢いよく信号無視をしたトラックが突っ込んんで来た。しかもそのトラックはそのままだと瑞稀に激突してしまう。
「あっ...み!」
瑞稀の名前を叫ぼうとした時、時が止まった。そして例の選択肢が目の前に姿を現す。
A. 男の話を聞く
B.瑞稀を助ける
「これは...」
「さあどうするんだい?おそらく瑞稀を助ければ君があのトラックに...。そしてアイドルのせっかくの話も無しのなるだろうね」
精霊がニコニコとしながらそう言ってくる。だが朱音は全くの迷いを見せずにBを選んだ。
「おやおやいいのかい?さっき受けたオーディションだって受かるかどうかなんてわからない。確かにこの男は怪しそうだが。千載一遇のチャンスってやつじゃないのかい?」
「友達が危険な状況なのに、そんな物はいらない!」
「そうかい...それじゃあその後の人生を楽しんでね。どうなるかはわからないけどね」
そう言って妖精が消える。その瞬間時が戻り、朱音は勢いよく走り出した。そして横断歩道の瑞稀の方に行くと勢いよく突き飛ばし、朱音はトラックに勢いよくぶつかった。
その後朱音は病院に運ばれたが意識不明の状態になっていた。
「あーあ、自分で人生を...いや、これでよかったのかもね」
病院で意識が戻らない状態の朱音を見ながら、妖精はそうつぶやいた。
「さてーこれで出番はおしまい!これからあの子の人生はどうなるか...ああ、あれで正解だったみたいだ。大怪我をしながらもアイドルの夢を叶えられるなんて幸運な子だ。んじゃ、もっと欲望のある人にでも現れるかなっと。せいぜいその後の素晴らしい人生を楽しむといい...きっといい人生になる」
意識不明の少女はどうなってしまうのかー。それは去年投稿した作品、冬の童話2024『何にでもなれる「ゆめのなか」の物語ードリーム・ドリーマー』に続きます。