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ちょっとした問題発生2

ようやく書きたい部分に近づいてきたけど、もう少しだけ野営が続きます

「ひぇぇぇぇぇ!!!」

 思わず大声を出さずにいられるか。

 そう悪態をついているわたしは現在フクロウ姿のアル様の背中にいる。

 午前中の獣道をよたよたと進むわたしの姿に呆れ果てたアル様が、この調子ではいつまで経っても結界石巡りが終わらないと気づいたのだろう。「日が暮れる前にこのあたりにある結界石全てに神力を注ぎ込みたいから背に乗せてやる」と言い出したのだ。

 楽にまわれるのならいいか、と深く考えずに乗せてもらうことにしたのだが、いまはそれを深く後悔している。


 そもそも私は子供の頃に脚立から落ちて以来、高いところが苦手だった。

 こっちの世界に文字通り落とされたことも決定的にダメになった理由だろう。

 あれは本当に怖かった。滞空時間が長かった分、恐怖も長かったのだ。

 風切り音が落下したあの時の恐怖を思い起こさせる。

「ぎゃー、もうちょっとゆっくり飛んでぇ!落ちちゃう!死んじゃう!」

 巨大なフクロウの姿のアル様の羽毛を鷲掴みにして、ギャーギャーと騒いでいたらアル様に怒られた。

「痛い、引っ張るな。僕が落とすわけないでしょ。それにリーナの周りには空気の膜が張ってあるから寒くもないでしょ」

 初めて会ったバスラ様の時の砕けた口調で言われて、少しだけ我に返る。

「でもやっぱり高いところは怖いんだからしょうがないじゃない」

「じゃ、目を閉じててよ」

「目をつむったら余計に怖いじゃないの」

「あー、もうちょっとだから黙って我慢して」


 よけいにスピードアップしたアル様。嫌がらせか。

 ギャーギャー文句を言い合っているうちに、木々がひしめき合う森の中に低木に囲まれた円錐状の巨石が見えてきた。

 どうやらそこが目的地の結界石のようだ。思っていたよりもずっと大きな、石と言うよりは岩と言ったほうがいいんじゃないかという大きさ。大人が3、4人で輪になって囲めるぐらいの大きさで高さは2、3メートルぐらいかな。

 ふわりと地上に舞い降りたアル様の背中で、私はすっかりヨレヨレである。

 背を滑り地上に降り立つとひざに力が入らず、前のめりにぺしゃりと地面に倒れ込んでしまった。

着なれないマントを羽織っているせいか力が入りすぎていたのか。肩は凝るし、むくんだ気がするのは気のせいか。

「なんで乗ってただけでそんなにヨレヨレなんだよ」

「高いとこから落ちる恐怖を昨日も味わって今日もだもん。怖いに決まってるでしょ!」

 金色の丸い目をさらに丸くして不思議そうに首を傾げるアル様はかわいいけど、愛でる元気もありゃしない。

 そのまま地面に寝そべっていると、白銀の光があたりを覆った。

 眩しさに思わず目を閉じ、ゆっくりと目を開くと目の前にはバスラ様の姿でアル様が立っていた。


 ただし、小さい。

 お地蔵様くらいの大きさ。

 びっくりして起き上がると、バスラ様姿のアル様が仏頂面をしていた。

「地上ではこの姿になりたくないんだからね。消耗も激しいし人に見られると面倒なんだから。そのために地上用の名前もつけてもらったんだから、この姿の時も絶対にアルジェントと呼んでよ」

「その姿のときでもアル様ね、わかった。話し方変えてるのも、もしかして?」

「威厳がないとダメでしょ。パフォーマンスは必要だよ」

「で、今その姿になったのは」

「結界石に君の情報を登録するためだ。登録しておけば転移ゲートとしても使えるようになる」

 転移ゲートという言葉にちょっとだけワクワクしてしまう。

「え、じゃあさっきみたいに連れてきてもらわなくても良くなるの?」

「そうだよ、悪用されるといけないから大っぴらには知られたくない。だから他の者は置いてきた。さっさと登録するぞ」

 アル様はそう言うと巨石の前に立ち、何やら文字が刻まれた部分に小さな紅葉のような手を触れた。

 ぽわっと光ったその部分に手を重ねるように言われ、その部分にそっと手を触れた。その上にアル様の小さな手を重ねられる。

 うわ、これ小さいサイズの人型アル様でよかった。

 等身大アル様だったら恥ずかしさで悶える。

 この小さな手を重ねられただけでもドキドキするのに。


 不埒なことを考えている間にアル様は不思議な歌のような言語のような音の羅列を続け、金色の粒子が舞う光をそこへ集める。

 すぅっと光が吸い込まれると同時に、私の手からも身体中の何かが引っ張られてそこへ伝っていくのを感じた。


「うん、成功だ。いまそこに体内の魔力が流れていっただろう。厳密に言うと君の場合は姉上の神力が君を媒介にしてそこへ流れ込んだことになる」

「これで結界石にエネルギーを注げたんだね」

「いや、まだ使用者の登録しただけ。もう一度そこに手を触れて、いまみたいに魔力を石に注ぎ入れるイメージをしてごらん」

 言われたとおりに力を流し込むイメージをする。

 先ほどと同じように体の中から何かが吸い出されている感触がある。

「ゆっくり手を離しながらその石に魔力が流れていくイメージをしてみて」

 アル様に言われたように石に何かを流し込むイメージをしながらゆっくり手を離していく。

「そのままゆっくり石から離れてみて」

 ゆっくり後退りをしながら離れても、細い糸のような白銀の光でつながったままだ。

「よし、そのイメージ忘れるなよ。いったん切って」

 魔力の注入を切り、小さく息をつく。

「簡単でしょ?次は『神力の枝』出して」

 アル様に言われるがままに、サコッシュから榊の枝を取り出す。

「3メルテくらい下がって」

 はい、3メルテって3メートルぐらいだったっけなと思いながら適当に後ろ向きに下がったら、木の根か何かにつまづいて尻もちをついてしまった。おもわずついてしまった手が痛い。

 アル様が呆れたような顔をして「どんくさいな」と言い放つ。

 なんか小さいアル様に言われると、イラッとするわぁ。

 トコトコと近寄ってきたアル様が手を見せてみろ、と言うから両手を出すとちょっぴり血が出ていた。

 アル様が小さな手を傷口に載せると同時にふんわりと暖かな光が私の手を覆い、次の瞬間には痛みも傷も消えていたから思わず自分の手を二度見してしまった。

「ねぇアル様、私もそれできるようになる?」

「ん?あぁ、リーナだったら少し練習すればできるようになるよ」

 できるんだ。

「あ、でも他人には効くけどリーナ自身には効かないし、他者からかけられても効きが悪いよ」

 なんですと?いまあっさり治してくれたじゃないですか。

「こっちの人間とはちょっと体の作りが違うからね、大怪我とかしないでね。僕ら神族なら簡単に治癒できるけど、神官の魔法じゃあまり効かないからね」

 念押しされてしまったからには気をつけよう。

 でも、そんなに大怪我することってなくない?

 そう思ったけれど昨日の時点で空の高いとこから落とされたり、大きな魔獣にやられそうになったりしてたわ。

 気をつけよう。


「それよりもさ、さっさと離れてそこから『神力の枝』を通して魔力を結界石にたたき込むイメージしながら枝を振ってみて」

 治癒魔法が使えるという、いかにもな設定に感動していたらアル様の呆れた声で現実に引き戻された。

 離れた場所からうちわで風を送るイメージで、手元に集めた魔力を枝を横に振りながら放出するとキラキラと光る魔力がふわりと広がりながら結界石に向かって飛んでいく。

 我ながらうまくいったんじゃない?とアル様を見ると、小さくため息をつきながら首を振った。

「叩きつけるようにって言ったでしょ。もっと力いっぱい、広がらないように一点集中結界石に注入しないと魔力の無駄遣いになる」

 そうか、結界石に魔力を集中しなきゃいけないのか。

 気を取り直し、今度はバットでボールを打ち返すイメージで結界石に当たるように念じながら枝を振る。

 ボール状に丸まった魔力が一直線に結界石に向かって飛んでいく。そしてその魔力はちゃんと結界石に当たるとスッと吸い込まれていった。

「よしその調子だ。これを毎日自分がいる場所から5カ所の結界石に向かって飛ばせばこの森の結界が維持される」

「遠隔操作で注入するってこと?移動したら場所が分からなくなるじゃない」

「リーナにあげたりんご板?あるだろ。あれに地図がでるから、注ぎたい結界石を指定して方角を確認したらそっちの方向に飛ばせばいい」

「りんご板、そんな機能もついてるんだ」

「この世界を維持するためにはリーナの力を借りなければいけないことがたくさんある。それぐらいのサポート機能はついてるよ」

 そういえば、まだよく見てないからあとで機能を確認しなきゃ。


 そのあと、またしてもフクロウアル様の背中でギャアギャアと騒ぎながら残りの結界石を巡り、周囲の浄化と結界石に情報を登録して魔力を注入してといった作業を繰り返す。アル様の背中で大騒ぎして、枝をブンブン振って、りんご板で地図を開いて登録できた結界石の地点を確認して、ついでに毎日結界石に注入するのを忘れないようにリマインダー登録して、ぐったりしたところでようやく拠点に戻ることになった。


 拠点に戻るとカイルさんがニコニコ笑顔で迎えてくれた。癒される笑顔だ。

「リーナ様、お疲れ様でした。まだブルーノ様たちもソラス様もお戻りにはなっておりませんが、領の方からリーナ様の身の回り品と侍女役が到着したので先に顔合わせをしておきましょう」

「ありがとうございます。アル様も一緒にいきましょう」

「む、我もか。リーナが世話になるのだから会っておくとするか」

 あー、アル様尊大バージョンに戻ってるわ。

 おもわず笑いをこらえたところで肩にアル様がつかまった。肩に食い込んだ爪が痛いよー。


「はじめまして。これより神子様にお仕えすることになりました、ルイーゼ・タリア・シライシでございます」

「同じくマルゴ・エラ・ファルクでございます。アルマリーナ様にお仕えできることになり光栄です」

新しくわたし用に張られた天幕の中には、すでに木箱がいくつか積まれていて、そこで歳が近そうな二人の女性を紹介された。

なんとなく馴染みのあるお名前のルイーゼさん。長身で黒というより紺色に近い髪をポニーテールにしたキリッとかっこいい感じの女性で、髪色に近いサファイアのような瞳も意志が強そう。

マルゴさんはルイーゼさんより少し小柄で柔らかそうな紅茶色の癖毛に鳶色の瞳で仕草もかわいらしい感じの女性だ。

「あと一人、イサベル・クレステアがお仕えしますが、領城のほうでお支度を整えながら待機しております」マルゴさんが柔らかく微笑んで、ルイーゼさんと二人でスカートをつまみ腰を折る。

「二人ともはじめまして、アルマリーナです。そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ。わたしのことはリーナって呼んでくださいね。こっちは神獣のアルジェント様。よろしくね」

紹介するとアル様はひとつ羽ばたきすると姿を変え、大型のリス(ちょっと怖い)に変身した。

目をまん丸にして驚いているふたりにアル様は「よろしく頼む」とだけ言った。ちょっとドヤ顔で。

びっくりするよね〜、わたしも初めて見たときはびっくりしたもん。早く見慣れてくださいね。

「あの、アルジェント様はいろいろなお姿に変化することができるのでしょうか」

目をキラキラさせてマルゴさんが尋ねると、アル様はさらにふんぞりかえった。

「姿だけでなく大きさも変えられるが、今のところフクロウかリスの姿だな」

シュシュシュッと音もなく小さく手乗りサイズになると、スルスルとわたしによじ登り肩に落ち着いた。

マルゴさんをちらりと横目でみたルイーゼさんがわたしの方を向くと、にっこり笑って「それではリーナ様とお呼びさせていただくとして、さっそくですがお着替えをしましょう。お湯もご用意しております」とテキパキと用意をはじめた。

カイルさんは「僕は天幕の前で待機しています。ルイーゼさんもマルゴさんも護衛を兼ねていますのでご安心ください」とにっこり笑ってアル様を連れて出て行った。


簡易ベッドの上に広げられていたのは、シンプルだけど金色のつた模様で縁取られた丈の長い白いドレス。

そしてカボチャパンツと布製ノンワイヤーのブラ。

「え?これ着るの」と思っている間にマルゴさんが背後に忍び寄り、「お手伝いいたしますね」と声をかけられた。

慌てて一人で着替えられます、体も自分で拭けます、と断ったけれど、笑顔の圧力で有無を言わさず脱がされる。

そして脱がせた服を興味津々で眺めるふたり。

この隙に桶のお湯に鞄の中から取り出したタオルを浸して体を拭いておこう。初対面の人に裸を見られるのも恥ずかしいし。

そう思っていたのに、ささっと駆け寄ってきて「まぁ!」と感嘆の声を上げている。

「この下着のレースも刺繍も素敵ですわ。それにこんなにぴったりしているのに伸縮性があるなんて」

「あら、でも少しサイズがあっていらっしゃらないような。豊かなお胸がこぼれそうですわ」

え?とわたしの胸なんかささやかなもののはず、と思って見ればなんとなく胸が大きくなっている気がする。いや見慣れない大きさになってる。

どういうこと?


うっかりあり得ない状況に困惑している間にあっさりひん剥かれ、手足を拭かれながら下着や服について質問を受けたり、この世界では体のラインがはっきりわかる服や肌の露出が多い服を着るのははしたないこと、女性はズボンを履かないことなどを教えてもらう。

どうしよう、わたし制服以外でスカート履いたことってあんまりないかも。

髪はマルゴさんが魔法でお湯を出しながら洗ってくれた。ちょっと何その便利なの。いざとなったらどこでもシャワー浴びられるってこと?災害時に欲しい能力じゃん、と思っちゃうのは災害大国に生まれたからだろうか。こっちにも地震とか台風とかあるのかな。

石鹸で洗ってパサパサになったところに香油をつけて、魔法でしっとり艶々に乾かされる。


魔法、便利だねぇ。わたしもできるように頑張って練習しようかな。







うっかり前書き後書き書かずに投稿しちゃった

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