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まずは練習から

繁忙期もあってちょっと期間が空いてしまい、反省中

 支度を終えたリーナを迎えに来たソラスたちと共に集合地点に向かうと、すでに騎士達は集合して打ち合わせを始めていた。

 知っている馬のサイズじゃない、大きな馬がいっぱいいる。

 この国は人も大きければ馬も大きいの?


「あれ?アル様がいない」

 アル様に聞こうと振り返ったが姿が見当たらない。

「先ほどまで一緒に歩いていらしたんですが。早朝も森の確認に出ていらしたようですし、また見回りをされているのかもしれません」

 神出鬼没なアルジェントはいつの間にか現れ、いつの間にか消えている。

 神様も忙しいのねとは思うが、まだこの世界に来て2日目で右も左も分からないリーナとしては、頼れるとまではいかなくても知っている誰かにそばにいて欲しい。

 アルジェントが頼れるかというと、初対面のバスラとしての姿を思い返せば正直不安ではある。

 それでも周りを大柄な男達に囲まれている今、少しでも安心材料が欲しいのだ。


 不安が顔に出てしまったのだろうか、ソラスとともに迎えに来てくれていたバックスが小さく笑いながらリーナの肩を叩いた。

「今日は俺たちも同行するから心配しなくていい」

「えぇ、全くわからない状況で知らない人だらけというのは不安でしょうが、私たちがお守りしますので」

 ソラスさんの穏やかな笑顔に少しだけ癒される。


「そろそろ出発しようと思うが」

 そう声をかけてきたのはブルーノさんだった。

 森の中の道は獣道に近く、馬車が通れないため馬で移動するという。

 ということは、自転車も無理か。


「リーナ様は俺が乗せて行きます」

 そうブルーノさんが申し出てくれたが、ちょっと待ってなんか恥ずかしい。

 金属の鎧を纏っているから密着するってわけでもないし、向こうは荷物かなんかと思ってるだろうし。

 それでも自意識過剰だとは思うけど、男の人とくっついたら緊張しちゃうじゃない。


 どう返事を返すべきか。

 自転車で行ける場所か聞いた方がいいかなと悩んでいたら。

「お嬢ちゃん、ブルーノ様が怖いなら俺が乗っけてってやるよ」

 クスクス笑いながらバックスさんが申し出てくれた。

 顔に出てしまっていたのだろうか。

 迷っていたら眉間にシワを寄せたブルーノさんが問答無用で「失礼」と一言だけ言って、わたしを荷物のように抱えてそのままひらりと馬の背に飛び乗った。

 そして横抱きに抱き直してホールドしてしまったのだ。

 えー!馬ってまたがって乗るもんじゃないの?

 やだ、怖いし、この体勢はちょっと恥ずかしすぎる。

 そんなわたしの心の絶叫など聞かせられるわけもなく、ギュッと目をつむり身を縮こまらせることしかできない。


「そんなに怖がらないでくれ。落としはしないし、かならず守るから」

 一向に気にしていなさそうにしているブルーノさん相手になすすべもなく、うなずくことしかできない。

 周りもザワザワしているし馬達のいななきも聞こえているが、周りを見渡す心の余裕はもはやなかった。


 薄目を開けると蜂蜜色のクセのある金髪をなびかせたヴィクターさんと目があった。

 白い靴下を履いたような黒っぽい馬と一緒にこっちを見ていて、驚いたような顔をしているがどうしたのだろう。

「準備完了しました」

 大きな盾を背負ったテリルさんが近づいてきて報告する。


「ではいくぞ」


 ブルーノさんの一声とともに、馬は駆け出した。


 10分ほどゆっくり走っただろうか。

 森の奥に大きな滝と泉のある開けた場所に到着した。

 ここから宿営地のほうに川が流れていたんだね。

 抱えられたまま地面に降りたわたしのライフはもはやゼロに等しい。

 いろんな意味で全身ガクガクである。

 あんなに男性と密着したの、子供の時に抱っこされて以来じゃない?


 ゆっくりと地面に下ろしてもらったわたしは、10分ものあいだ重たいわたしを抱えて馬を操っていたブルーノさんが涼しい顔をしているのを見て感心した。

 不躾にもじっと横顔を見ていたわたしに気づいたのか、ハーフアップにした長い髪を手で流しながら少し屈んで小声で「どうした、疲れたのか」と聞いてきた。

 ブンブンと首を横に振りながら「大丈夫です」と答えたけれど、急に顔を近づけられたら焦るよね。

 身長が40センチ近く違うから、小声で話すと聞き取れないからだねと勝手に理由づけをして心の安定を図る。

 そうじゃないと心臓がもたない。


 少し顔が火照りそうだと思っていたら、背後からバックスさんが現れた。

「顔が赤いが、大丈夫か」

 全然大丈夫じゃないけど、大丈夫ですと答える。

 ニヤリと笑ったバックスさんに嫌な予感がするんだけど。

「もしかして、昨日運ばれた時は気を失ってたけど馬に抱っこで乗るの初めてか」

 うわぁ、どこの世界のおじさんもすぐからかってくる。

 ちょっとムッとしながら言い返す。

()()()()()()()()初めてです」

「なんだ乗れるのか」

「人に引いてもらえばですけどね」


「ふふふ、リーナ様は思ったより馴染むのが早いのですね」

 ソラスさんが微笑ましいものを見るような目をしてこちらを見ていた。

 いえ、全然ですけど。

 バックスさんはちょっと雰囲気が叔父に似てるから、なんとなく平気なだけです。

「リーナ様、アルジェント様がお待ちです。さぁ、まいりましょう」

 そう言って差し出されたソラスさんの手を思わず見つめて、ハッとする。

 これがエスコートってやつか。

 慣れないことだらけだ。

 慣れる時はくるのかな。


 少し山を登った先にある滝の近くまで行くと、滝壺の真ん中に大きな岩が突き出ているのが見えた。

 その上にアル様がフクロウ姿で立っていた。

「ようやくきたか。他の連中は周囲の警戒に出ている。今のうちに浄化と結界について教えよう」


 ひと息つく間も無くすぐにアル様と護衛役のソラスさん、バックスさんと一緒に浄化と結界張りをすることになった。

 ブルーノさん率いる騎士団のみなさんは馬を降りてさらに上のほうに向かって進んでいった。

 大きなお馬さん達は滝つぼから流れていく川の浅いところでお水を飲み始めた。


「リーナ、『神力(しんりょく)の枝』をだせ。そして目をこらして瘴気を感じ取り、強くこの地の浄化を願いながら瘴気を打ち砕くイメージで振れ」

「『神力の枝』って榊のことよね。これを神主さんみたいに振ればいいのね」

「カンヌシはよくわからないが、まぁやってみろ」


 斜めがけにしていたサコッシュから枝を取り出し、滝壺から下流の方を見渡す。

 気合を入れてよく見ると、黒いような灰色のようなモヤがうっすらと漂っているのが見えて驚きの声をあげそうになった。

 ソラスさんがその様子を見てうなずく。

「ご覧になりましたか。その黒く漂うのが瘴気です」

「これを払うのね」


 枝をじっと見つめ、心の中で「このモヤを払い、浄化できますように」と祈りながら、横一文字に枝を振る。

 振ったと同時に白く眩い光がひろがった。


「ん、まぁ初回にしては上出来だな。範囲は50メルテぐらいか」

「え、どれどれ?どのぐらいなの」

 周りを見渡すと枝をふった方向の黒いモヤが消えている。

 ざっと見て50メートルプールぐらいの距離。

 ということは、50メルテは50メートルと同じぐらいってことか。

「これってもっともっと強く祈れば範囲広がるのかな」

「そうだな、神に祈りながら力いっぱい振れ」

「神様ってどの神様?アル様?」

「いやそこは姉上、じゃなくってメルナダ様じゃないと怒られる」

 急に小声になったアル様。

 お姉さんが怖いのか。

 うん、まぁ見た感じそうだろうね。

「信仰は神々の力の源だからな、リーナの頑張りを見て信者が増えればさらに大きな力を振るえるようになる」

「つまりは広告塔、わかりやすく芝居がかった感じでメルナダ様に感謝を捧げたほうがいい、と」

「うむ、理解が早くて助かる。そういうことだ」

 ソラスさん達に聞こえないようにコソコソと話す。

 聞こえていないのか、ソラスさん達はニコニコしながらこちらを見守っている。

 なんか、ごめんなさい。

 純粋さのかけらもないゲスい取引みたいなことしてて。

「それにな、信仰心が高まり神の力が増幅すれば、神の力を借りて魔法を使うリーナの力も大きくなる」

「私の力が?」

「そうだ。リーナはこの世界の人間と体の構造が違うから体内に魔力を貯めることができない。だから後付けで姉上の神力を借りてきてこの世界の魔法のように使える細工が施されているのだ。だから姉上への信仰心が大きくなればなっただけリーナが使える力も大きくなる」

「え、私もしかして改造されてたの?」

「そこまで大袈裟なことをする時間がなかったから、神力を受け取るための器として『神力の枝』やおまえが『りんご板』と呼んでいる巻物がある」

「うーん、とりあえず、見た人がメルナダ様のおかげだ、と思って祈ってくれるようになればいいのね」

「そういうこと」


 それでは気を取り直して。


「メルナダ様のお力をここに。浄化!」

 そう唱えながら力いっぱい枝を振る。


 今度は白く眩い光に金色の粒子がきらめき、枝を振るった先へぶわりと広がった。

 キラキラと陽の光に輝く金の粒子が広がる様はとても美しく、神聖に見える。

 後ろでソラスさんが感嘆の声をあげたのが聞こえた。


「素晴らしいです、リーナ様!振るった方向の広範囲で瘴気が消滅しています」

「慈悲深きメルナダ様のお力のおかげです。私は代行者に過ぎませんから」

 ニッコリ笑って答えると、アル様も満足げに頷いた。

「もう少し訓練すれば一度に浄化できる範囲ももっと広がる。しばらくは鍛錬だな」

「鍛錬て、何をすればいいの」

「もっと祈って、消し飛ばす勢いで力強く神力の枝を振り回す」

「勢いで吹っ飛ばせばいいの?」

「うん、そんな感じ」


 なんかゆるいなぁ。

 訓練したら一度にどれぐらいの範囲を浄化できるようになるんだろう。

 ちょっと考え込んでいたところにバックスさんが声をかけてきた。


「お嬢ちゃんすげーな、川の方角確認してきたけどかなり広範囲で瘴気が浄化されてるし、小型の魔物の気配もしねぇ」

「本当ですか。もっと範囲を広げられるように頑張ります」

「あぁ、ありがてぇ。バスフェルドに光が差し込んだ気分だ」

「大袈裟ですねぇ」

「いいえ、リーナ様。大袈裟でもなんでも無く、ここまで完璧な浄化ができれば結界を張りやすくなりますし、そうすれば魔獣に脅かされることもなくなり人々は安心して生活できるようになります」

「ソラス様の浄化も威力はあるが、ここまで広範囲で完璧なのは無理だからな」

「そうなんですね。メルナダ様のお力のおかげですよ」

「えぇ、本当に。お遣わしくださった大神ハーベイ様と慈愛の神メルナダ様に感謝の祈りを」


 そこからは滝の四方を浄化して、滝壺の岩を支点にした結界を張り方を教わる。

 その間、ソラスさんとバックスさんは周辺の浄化の確認と古い結界石の確認をしてくれていた。

 もともとこの森には古い時代からの結界があり、小型の魔獣ぐらいしか出なかったそうなのだ。

 結界の支点となる結界石に定期的に魔力を注ぎ、神々への祈りを捧げることで400年以上結界を維持してきたらしい。

 それがここ数年爆発的に瘴気の濃度が濃くなり、綻び始めたという。

 原因はわかっていないそうだ。


「アル様、原因てわかります?」

「んー、今はまだ言えない」

「心当たりはあるんですね?そういえばバスラ様のときに怒られてましたっけ」

「あーまぁな。あれとはまた別な理由かな」

 棒読みのアル様が怪しい。


 アル様と話していたら滝の上の方から爆発音と得体の知れない咆哮が聞こえた。

 思わず身構えると、アル様が舌打ちした。

「チッ、大型の魔獣が出たか」

「え、他の人たち大丈夫かな。ブルーノさんたち山の上のほうに向かっていきましたよね」

「大丈夫だろ。ブルーノは強いぞ」


 ドォンとまた大きく重い音が響き、空気が揺れた気がした。

 本当に騎士団の人たち、大丈夫かな。浄化した場所の確認に行ったソラスさんとバックスさんも無事かな。

 心配していたら茂みの方からガサガサという音が近づいてきた。


「あ、リーナに言うの忘れてたけど浄化のスキルはあっても攻撃力弱いからな、君は誰かに守ってもらったほうがいい」

「いま言う?大ピンチかもしれないじゃない」

「我がいるだろ」


 身構えているいると木の上からガサリと音がして、何かが降ってきた。

 思わず頭を抱えてしゃがみ込む。

 アル様が動いた様子がないのを不思議に思って目を開けると、アル様の横にはお耳とふわふわの尻尾がついた獣人が立っていた。


「あー、驚かせてすみません神子様」

 困ったような顔をして立っていたのは、今朝会った獣人さんだった。

「トルドさん、でしたっけ」

「名前、覚えてくださったのですね。ありがとうございます」

 覚えますとも、モフモフふさふさなその尻尾が特徴的だもの。

「大猫族のトルドとやら、何があったのか」

「はい、滝の上で魔獣化した大熊が複数発生して交戦中。上には登ってこないようにとのこと、あとオレが神子様の護衛兼伝令としてこちらに加わります」

「みなさん大丈夫なのですか」

「昨日ほどは数もいませんし、瘴気も薄まって弱っているので大丈夫でしょう。すぐに終わると思います。今のところ重傷者は出ていませんし」

「それならば支援はソラスとバックスが戻ってからでもよいな」

「治癒魔法持ちが回復に回ってるので大丈夫でしょう」


 トルドさんが来てからすぐにソラスさん達も戻ってきた。

 それと入れ替わりにアル様が飛んでいく。

 そんな頃にはもう地鳴りのような轟音も怒声も聞こえなくなっていて、片付いたのかどうかが気になってそわそわしてしまった。


 岩の上に立って滝上のほうを睨んでいたトルドさんの耳がぴくりと動く。

「終わったみたいだな」

 トルドさんは呟くとおもむろに指笛を鳴らした。

 遠くから返事をするかのように指笛が返ってきて、同時に複数の遠吠えも聞こえてくる。

 まだ魔獣がいるのかと身構えた私を見て、トルドさんは不思議そうな顔をした。


「終わったから昼飯にしようって」



途中で保存に失敗したら違うお話になって書き直したら違うお話になったうえにモフモフ味投入

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