話を聞こうじゃないか
GWからずっとバタバタしてて、ようやく書けました
「いやぁ、言葉が通じないって聞いてたけど、西大陸語を話せるようで助かったよ」
わぁ、目の前の人たちの言葉がわかる。ちゃんと言葉がわかるようになってる!
神様たちが「適応」かけるって言ってたのはこういうことなのかな。
ちょっぴり感動していると、目の前の男の人が顔を覗き込んできた。
蜂蜜色の髪と緑の目をした柔らかい顔立ちは海外のイケメン俳優さんみたいで、ちょっとドキドキする。
「体は大丈夫かな?あれだけの浄化をかけたから疲れたよね?」
そう言いながら膝の上にマントを掛けてくれた。
意外と厚みがあって、綺麗な刺繍がしてあるのを見つめるフリをしてして視線をずらす。
「え、あ、あの、体は大丈夫です。ちょっと驚いてしまって」
「そう?僕らはスプラング王国の第三騎士団。あ、僕はヴィクター・レイ・ファッジオ。男爵家の三男。後ろの灰色の髪をハーフアップにしてるのがブルーノ・ルッツ・バスフェルト小隊長。ここバスフェルト国境伯領の三男。んで、木箱に腰掛けてる厳ついのはテリル・マーレイ。顔は怖いけど優しくていい奴だから安心して」
離れたところで体を丸めていたテリルさんが、微妙に引き攣った笑顔で小さく手を振ってくれた。
やだ、ちょっとかわいい。
でもヴィクターさんの後ろ、エゾリスに似た赤茶色のような灰色のような不思議な髪の色をしたブルーノさんは相変わらず腕組みをしていて、ずっとこっちを見下ろしているからちょっと怖いんですけど。
「わたしは有馬リナです。えっと、こことは違う世界から神様に連れてこられて、なにがなんだかよくわからない状態なんです」
「アルマリーナちゃん?でいいのかな。僕ら第三騎士団が君を保護したから心配しなくていいよ。まぁ、しばらくは王都に帰還できないから国境伯のところでお世話になると思うけど」
やっぱり名前をちゃんと呼んでもらえなかった。
これはもう女神様が言うようにアルマリーナと名乗るしかないのだろう。
でも聞き慣れないから違和感があるのよね。
「リナって呼んでもらっていいですか。ずっとみんなにそう呼ばれてたので」
「おっけー。リーナちゃんね。おっと、神殿の連中が来たみたいだ。彼らも紹介するよ」
うん、ちょっと違うけど、まあいっか。
天幕の入口から小柄で真っ白なローブを纏った男の子と、鎧を身につけたおじさんとひょろっとした男の子が入ってきて、彼らも目の前までくると白ローブの男の子を先頭に膝をついた。
なぜ膝をつくのか。子供に目線を合わせるアレか。
ここにいる人たちから見たら、わたしは小さく見えるよね。
まさか子供と思われているのだろうか。
「神子様、女神さまよりご神託をいただきました。我らハーベイ神教団は今日これよりあなた様にお仕えします。わたしはバスフェルト神殿の神官ソラス、後ろに控えておりますのはハーベイの真愛騎士団所属のバックスとカイル。あなた様をお守りします」
え?神子様って。
お仕えしますって、どういうこと。
混乱しているわたしに鎧の二人組が頭を下げる。
「ちょっと待て、神子様とはどう言うことだ。聖女様ではないのか」
ブルーノさんが前に出てきた。
怒っているのか、お顔が怖い。
「大神ハーベイ様の意向を女神メルナダさまがお伝えくださいました。この地の惨状を嘆いた女神様の願いを聞きいれた大神ハーベイ様が神子アルマリーナ様を遣わしてくださると。召喚される聖女様よりも神子様の方が瘴気で汚された大地を回復させるお力が強いとのこと。神子様の意思を最優先で尊重しこの地に馴染むまでお守りし、瘴気で汚された大地の浄化をなさる手助けをせよと。」
あれ?知らない神様の名前出てきたし、ちょっとお話違うし、バスラ様のことはスルーだ。
「ご神託にあるように、我々の神殿で神子様のお世話をさせていただきます」
「ちょっと待て。我ら第三騎士団が先に保護したのだからこちらで預かる」
「そうは言われましても、後ほど神子様の元へは神獣様も遣わされるそうですし。なによりむさくるしいオオカミの巣に神子様を放り込むわけにはいかないでしょう」
「我々は騎士だ。保護した女性に対して無碍に扱うようなことはしない」
「雑には扱っていたけどな」
言い争いになりそうなソラスさんとブルーノさんにバックスさんが口を挟む。
話が終わりそうにないからか、ヴィクターさんが口を開いた。
「リーナちゃんはどうしたい?」
みんな一斉にこっちを向くところが恐い。
どうしたい、と言われてもわからないことだらけだし。
どうしたらいいんだろう。
「なにもわからない状態だから、どうしたいのかまだわからないです」
答えると同時にお腹がキュルル〜と鳴ってしまった。
うぅぅ、恥ずかしい。
「あはは、お腹すいたよね。僕らも今からお昼ご飯だから、一緒に食べながら話そうか」
「すいません、そういえばわたしのカバンとか自転車ってどこにありますか?あの中に食べるものとか入ってるんです」
「あぁ、あの不思議な乗り物なら天幕の外にあるよ。カバンは入り口のあたりに置いてあるから安心して」
ヴィクターさんと話している間もブルーノさんとソラスさんたちは、なにやら話し合いを続けている。
後ろの方にいたテリルさんが、いつの間にかカバン2つを片手で軽々と持ち上げて持ってきてくれていたのにはビックリした。
うそ〜、あれ一つでも結構重いのに。なんかごめんなさい。
「この2つでいいか。飯はこっちの天幕に運ぶよう頼んできた」
ボソボソと低い声で話すテリルさんをヴィクターさんが「なんでお前そんな緊張してんのよ」と苦笑いしながらつついている。
テリルさんはちょっと肩をすくめて「怖いといけないだろ」と答えていたが、大丈夫です。
体格いい人は農家のおじさんたちや従兄弟たちで慣れてます。
にっこりバイトで培った営業用スマイルでお礼を言うと、テリルさんは小さく丸まって後退りしてしまった。
なんで〜?
そこへ昼食のスープとパンを持った別の騎士さんたちが現れた。
テーブルの上にそれを置きながらチラチラとこちらの様子を伺っていたのを、ヴィクターさんが追い出すように入り口に押していく。
天幕の入り口の方がなにやら賑やかになってザワザワとした声が少しずつ遠ざかっていったと思ったら、ガンガンガンと大きな金属を叩く音がした。
なにやら叫び声も聞こえる。
音が聞こえたと同時にブルーノさんとテリルさんが飛び出して行き、入れ替わりにソラスさんたちがすぐそばまで来てくれた。
「魔獣が出たのかもしれません。カイル、確認してきてください」
ソラスさんが言うが早いか、カイルさんが素早く飛び出していく。走るの早い、というか足長い。
「神子様、大丈夫ですから心配なさらないで。バックスとわたしがお守りしますので」
「外も戦闘態勢には入っていないようだからすぐ収まるでしょう」
バックスさんの言葉通り、外の騒ぎはすぐに収まってみんな戻ってきたのはいいけれど、一緒に戻ってきたカイルさんの肩には大きくて真っ白なフクロウが乗っかっていた。
カイルさんの頭を押し退けるように肩に掴まっているフクロウ。眉毛みたいなのがあるからミミズクの仲間なのかな、と思わずまじまじと見てしまう。
そのフクロウと目があった瞬間、白銀の光がキラキラと辺りを包んだ。
…既視感あるぞ、これ。
「アルマリーナ、お待たせ。君のサポートをしにきたよ」
え?しゃべった、フクロウが。
賢いとは聞いてるけどフクロウがしゃべるなんて聞いたことない。
思わず目を見開いてガン見しているとフクロウはバサリと羽ばたいて目の前でホバリングしながら囁いた。
「姉上がサポートのための使いを寄越すと言っていただろう?僕、バスラだよ。それから巻物を持ってきた。これからよろしく。あ、フクロウが嫌なら別の姿になるよ。希望があれば言って」
他の人たちには羽ばたきの音で聞こえなかったのかもしれない。
みんなこっちを凝視している。
バスラ様はテーブル近くの木箱の上に降りると、小さく咳払いをした。
「我は大神ハーベイよりアルマリーナの守護を任された。アルマリーナ、我に名を与えよ」
厳かに告げるフクロウに、みんな跪きこうべをたれる。
「え?なんで、名前あるじゃない」
「いいから名前つけて。かっこいいやつ」
厳かさ台無し。
ソラスさんが跪いたまま祈るように手を組み、わたしを見つめる。
「神子様、神獣様のお名前をお聞かせください」
「えーいきなり言われても。あ、神子様って呼ぶのやめてください。リナってっ呼んでくださればいいですから」
「かしこまりました。リーナ様とお呼びしますね。」
ははは、そうなるかやっぱり。
それにしてもうーん、困ったね。変な名前はつけられないよね、シロとか。
不意に、おばちゃんがイタリア料理のお店に連れて行ってくれた時に食べたフロマージュについていた名前を思い出した。
白く表面がキラキラしていて綺麗だったあれの名前は確か。
「アルジェント」
「気に入った。良い名だ」
「アルジェント様。素敵な名前です」
フクロウ姿のバスラ様改めアルジェント様が頷く。
ソラスさんもキラキラとした目でこちらを見てくる。
え?思いつきで言ったの採用されちゃったの。
ちょっと呼びにくくない?
ブルーノさんたちも決まったばかりの名をつぶやいている。
あー思いつきで決定しちゃったけど、ご本人が納得しているなら、まぁいっか。
どうしても気になるから、こっそりアルジェントと改名したバスラ様に尋ねてみる。
「なんで違う名前つけるんですか」
「我らは地上に降りた時点で神を名乗れなくなるからだ。兄上から罰として神獣に降格を言い渡されたからな。神獣として修行を重ねて再び天界に帰れるまでの仮初めの名が必要なのだ」
「なんとなくわかった」
「これからよろしく。とにかく地上を浄化しまくって元に戻さなきゃいけないからな」
「手伝うのはいいけど、浄化の仕方とか聞いてないよ」
「説明しながら特訓してあげるよ。説明書も持ってきたし」
コソコソと話していたら後ろから肩をたたかれ、びっくり。
振り返るとブルーノさんが立っていた。
「話し中に申し訳ないが、とりあえずスープが冷めるから食べないか」
振り向くとすでに用意が整い、食べるばかりになってみんな待っていてくれた。
なんだかホントごめんなさい。
なかなかお話進みませんねぇ