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馬車初体験!

今回は3000文字程度です。

「リーナ様、休憩ですよ」

 その言葉に涙が出そうなくらい喜んだのは大袈裟でもなんでもない。

 初めて乗る馬車に期待してワクワクしていたのは最初のうちだけだった。

 山の中を走行しているということもあるのだろうが、ものすごく揺れるしクッションはたくさん置いてあるけれどお尻のダメージがひどい。

 子供のころ軽トラの荷台に乗せられて、舗装されていないあぜ道を移動した時よりもひどい。

 グッタリして口数が減っていくわたしを心配そうに励ましてくれるマルゴさんには申し訳ないけれど、こっちの乗り物ってみんなこうなの?と嘆きたくなった。


 マルゴさんに助けてもらいながら馬車から降りると、その場にへたり込みそうになったしまった。

 慌てたマルゴさんに抱き留められ、支えてもらいながらルイーゼさんが用意してくれた敷物の上に腰を下ろし辺りを見回す。

 1時間ほど山を下り、少し開けた森の中にいるようだ。

 ここは森に入った人たちのための山に登る前の休憩場所で、火を使えるように切り開いている場所だそうだ。元の世界でのキャンプ場のような場所だろうか。

 近くには小川もあり、馬たちが水を飲んでいた。

 大きな木のコップで水を持ってきてくれたマルゴさんが申し訳なさそうに「ガリアドの山から降りたので、あとは森を抜けるだけですから。森を抜けて街道に出れば今みたいには揺れませんよ」と教えてくれた。

「街道に出るまでどれぐらいかかるの?」

「2時間くらいでしょうか」

 ガックリとうなだれたところに羽ばたきの音がしてアル様が舞い降りてきた。

「すっかりヨレヨレだな」

 呆れたように顔を覗き込んでくる。

「思ったよりダメージ受けてます」

 ちびちびとお水を飲みながら答えると、アル様はニヤリと笑った。

「リーナが持ってきた乗り物に乗ればいいんじゃないか」

「え?こんな舗装されてないところで?」

「試してみろ」

「その前に休憩させて」


 他の騎士さんたちも集合したところでブルーノさんたちが様子を見にきてくれた。

「リーナ嬢じ、顔色が悪いですね。馬車酔いされましたか」

 大きな体を縮こめてブルーノさんは膝をつくと顔を覗き込んできた。

 近いって!美丈夫に顔を覗き込まれて心臓が跳ねちゃって思わず身を引いたけれど、頭に葉っぱがついているのを見つけてつい指で摘んでしまった。

 ブルーノさんがビクリと肩を揺らし、のけぞってしまうが姿勢は崩れない。さすが。

「驚かせてごめんなさい、葉っぱが付いていたからつい」

「い、いや顔が近くて少し驚いただけだから」

 困惑したような顔をしているからちょっと申し訳ない気持ちになっていたら、後ろからソラスさんがひょこっと顔を出した。

「リーナ様、お顔の色が悪いようなので癒しをかけさせていただきますね」

 ブルーノさんと場所を替わると顔の前に手をかざし、小さく呪文を唱えた。

 ぽわっと白い光が体を包む。

 あ、なんかちょっとお尻の痛いのとか胃がむかむかするの楽になったかも。

 そう思ってお礼を言おうとしたらソラスさんが首を捻っている。

「失礼しました、もう一度今度はお召し物が埃っぽいようですから浄化をかけさせていただきますね」

 そう言ってもう一度違う呪文を唱えるとまたしても白い光に包まれ、わずかに空気が動いた。

「ふむ、癒しは効果が薄いが浄化は普通に作用する」

「あぁ、それはリーナの体がまだこちらの世界に馴染んでいないからだ」

 考え込んでいたソラスさんにアル様が説明する。

「といいますと?」

「回復系の呪文はリーナには効きが悪い。元の世界の身体構造のままだからな。ただし毒耐性はあるからそこは心配しなくていいが怪我には注意しろ」

 目をパチクリしていたソラスさんだったけど、「人よりも神に近いということか。さすが神子様」と勝手に納得しているわ。人外みたいな言い方やめて。

「リーナ様、馬車酔いされるなら馬の方がマシかもしれません。僕が馬に乗せましょうか」

 ソラスさんの後ろに控えていたカイルさんが提案してくれた。

 すかさずブルーノさんが「ならば私が。愛馬キャレルは体格もよく安定していますし、私も人を乗せるのに慣れています」と名乗りをあげてきた。いやでもなんか、カイルさんのほうがなんとなく親近感のわく近所のお兄ちゃんて感じだしなぁ。ブルーノさんの方が確かに安定感は良さそうだけど、体格のいいイケメンは心臓に悪いしなぁ。いや、どっちも恥ずかしいわ。

「んー。リーナは自分の乗り物の方が楽だと思うぞ」

 ブルーノさんの言葉を遮るようにアル様がいう。

「えぇ?わたしの自転車マウンテンバイクじゃないしパンクしそうな未舗装路だよ」

「だいじょうぶだ。乗ってみればわかる」

「えっと、そのジテンシャとは?」

 疑いの目である様を見ていたら、マルゴさんがためらいがちに聞いてきた。

「リーナ、出してみろ」

 アル様に言われて一瞬どこにしまってあったけ?と思ったんだけれど、馬車の中に置いてきたバッグの中の無限収納にしまったことを思い出して、取りに行きがてら場所を変えることにした。


 馬車から出してもらったバッグを地面に下ろし、そこから自転車を取り出す。

 なんだかちょっと前だったらあり得ない光景よね。

 バッグに手を突っ込んで念じれば目の前に物体が現れるなんて。

 そんなことを考えながら目の前に現れた愛用の自転車のサドルをさする。

 突如現れた自転車に興味津々でみんなが近寄ってくる。

 草も生えているし、大きな石も落ちてるし大丈夫かな、と思いながら自転車に跨るとゆっくりペダルを漕ぎ始めた。

「ん?」

 思っていた衝撃もこなければ進む速度も速い。平らな床の上で電動アシスト自転車に乗っているようかのようにするスルッと動くし速度は出るし、ブレーキをかけても横滑りしない。

 変速したらもっとスピード出たりするのかな。

 ガタガタ衝撃がこないぶん絶対にこっちの方が楽だ。これで行こう!


 一人脳内会議をしていたら、いつの間にか他の騎士様たちや獣人さんたちも集まってきていた。

「ねぇ!これ僕も乗ってみたい」と勢いよく手を上げながら近づいてきたのはヴィクターさん。好奇心で目がキラキラしている。

 乗り方を説明して、ハラハラしながら自転車にまたがるヴィクターさんをみていたのだけど、足が窮屈そうに見える。

 そりゃ27インチでも背が低いわたしに合わせてサドル下げてあるもんね。

 窮屈でバランス悪そうに見えるというのに、一発で乗りこなせるのはすごいなぁ。

 歓声を上げながら走るのをみんなが面白そうにみている。

 馬車の周りをぐるりと回って戻ってくると、なぜか額に手を当て天を仰ぎ見ながら降りてきて、胸の前で手を組んだ。

「リーナ様、これが神の乗り物なのですね!」

「いえ、普通にわたしがいつも乗ってた自転車です」

「いやぁ、神の乗り物は素晴らしい!全く揺れず水面を滑るように走り、わずかな力で馬のように走る!あり得ないぐらい快適ですよ」

 うん、まぁ乗り心地はわたしの知ってる自転車とはちょっと?いや大幅に違うけれどもね。それはまぁ神様による魔改造(神改造?)のおかげだしね。

 感動したヴィクターさんの言葉を聞いて、他の人たちも遠慮がちに乗ってみたいと手を上げる。

恐れ慄いて(なんで?)遠巻きに見ている人たちもいるけどね。

 慌ててサドルを目一杯高めに調整して、いきなりの大試乗会開催になってしまった。


「お前たち、いい加減にしろよ。日暮れまでに城に着けなくなるぞ」

 腕組みをしたテリルさんに怒られるまでみんなで試乗したり構造を確認していたけれど、急がないと暗くなる。この世界には街灯はないし、まだここは森の中だ。

 魔獣や狼なんかの野生生物に襲われてもいけない。

 みんなサッと片付けを始め、あっという間に移動の準備は完了した。

 ちなみに大試乗会をしている間にアル様やブルーノさん、バックスさんたちで話し合いをして、わたしは隊列の真ん中あたりを自転車で進むことになった。

 次の休憩ポイントまで自転車漕ぎ続けられるかな?

 一馬力に自転車は勝てるのかな?

 まぁ、アル様が大丈夫って言ってるから多分大丈夫。

 だって神様のお墨付きだもんね。

 それでは元気に行ってみよう!!


お読みくださってありがとうございます。

不定期となりましたが、書く気になればどれだけでも時間の許す限り書けるので監視&督促してくださる方募集中です。

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