甘いものは正義
前回からずいぶんかかりましたがようやく更新です。
慢性鼻炎とドライアイで目が腫れてしまいましたが、ワタシは元気です。
天幕にはすでに昨日のメンバーとずぶ濡れのトルドさんたちが集まっていた。
少し遅れてヴィクターさんもずぶ濡れでやって来て、ブルーノさんが魔法で乾かしている。そこに後ろからタオルを差し出したり鎧を外したりと甲斐甲斐しくお世話をするテリルさん。
マルゴさんたちの話を思い出してテリルさんてあんなに体も大きくて豪快そうなのに、意外と神経質で几帳面なのかなぁとか勝手に想像しちゃう。
獣人さんたちはなんで丸洗いされてたかって?
獣人さんたちが甘い実のなる木が群生しているのを見つけて大はしゃぎで収穫していたら、いくつか実が爆ぜてみんなグチャグチャドロドロになってしまったらしい。
「甘いものは今となっては貴重だから仕方ない」とみんな苦笑いしている。
完熟すると爆発する、危険だけどとても甘くて美味しい実でその名も「爆裂果」。
晩ご飯の時に出してくれるって。
みんな揃ったところで報告会が始まる。
斥候を務める獣人さんたちの報告によると、バスフェルド領の国境沿いに広がる広範囲の山と森に浄化が施され結界が復活していたという。
わたしも鞄からリンゴ板を取り出し地図を出す。
肩の上のアル様に確認しながら今日魔力を注いだ結界石の場所を確認する。
こちらの世界の地図はとても大雑把でわかりやすいのかわかりにくのかよくわからない。わたしは見慣れた詳細地図をもとに今日行った結界石の場所を示していく。
それをソラスさんが大雑把な地図に印をつけていく。
「その板はなんなのだ?」
腕組みしてじっと様子を見ていたブルーノさんが身を乗り出して来た。
「これはメルナダ様からいただいた、わたしだけがいろんな情報を見られる板です。神殿の巻物みたいなものだって聞きました」
ソラスさんの後ろに立っていたバックスさんがヒョイッと覗き込む。
「うわぁ、見たことない描き方の地図だが、これが神々の目から見た世界か。文字が書いてあるけどこれも見たことない文字だな、これは神々の使う言語か」
ビックリしたのか声が大きい。
他の人たちも興味津々のようだ。他の人に見せても大丈夫なのかな。
「リーナ、見せてやれ。それはどうせお前しか使えない」
悩んでいたらあっさりアル様の許可が出た。ならば、と他の人たちにも見せる。
みんな目がキラキラだけど、ソラスさんとトルドさんは跪いて「これが神の御技か」と拝み始めた。
そんな大袈裟なものか?
でも見たことのない技術や新製品を拝んでいたのは父や兄もそうだったなぁ。そんな感じなのかなぁと思うと、ちょっと微笑ましいとも思える。
少し引いちゃったけど、そのあとはちゃんと今日の報告をして。
ちゃんと浄化と結界ができていたのを確認して喜んでもらえたのが嬉しい。ちょっとはお役に立てたような気がするわ。
そのあとは私にはわからない話や、魔獣の話が出ていた。知らないことだらけだから横からアル様が教えてくれるけど、もっと詳しく知りたいことはせっせとリンゴ板にメモして後から調べよう。
わたしとアル様が現れたことで討伐も浄化もかなり進み、予定よりも早く明日には城に帰還することが決まった。
それにしても、お城。
もしかして白とキンキラキンで彫刻や絵画がいっぱいだったらどうしよう、ぜったいに落ち着かない。
飾り気のない純日本家屋で生まれ育ったわたしには馴染めなさそう。
神殿の方が地味かな?修道院みたいな感じかな?とワクワクと興味で楽しみなような、新たな悩み発生のような。
全く知らない場所というか世界は、予測がつかなくて怖い。
わたしの扱いがどうなるのかもわからないし。
そんな心配が透けて見えたのか、ブルーノさんは苦笑いしている。
「心配しなくてもいい。父上からも歓迎すると伝言が来ているし、準備も整えておくそうだ。いまは物資もなく質素にしているので申し訳ないが」
「神殿の方でも用意をさせておりますから。皆、リーナ様がいらっしゃるのを心待ちにしておりますよ」
ブルーノさんとソラスさんが気を使ってくれるのがちょっと申し訳ない。
でも他に行くあてもなければこちらでの生活能力もないのだし、昨日の今日だし。これから頑張らなきゃいけないんだから悩んでもしょうがないよね。
自分たちの天幕に戻り、マルゴさんとルイーゼさんにこのあたりの浄化も済んだから明日の午後には帰投することになったと告げると、驚いた顔をした後に「やはり神子様と神獣様のお力は偉大ですわ」と大喜びしてくれた。
さっそく使わないものから荷物を片付けることにしたようだ。
といっても、わたしは自分の荷物はリュックひとつにまとめてある。
そのほかは手を出すことも許されず、ただ眺めているだけだったけど。
その夜の食事は、大きなお肉の入ったスープと酸味のある硬めのパン。
大きなお肉は魔獣のお肉らしい。
昨日は倒したあと消えていたのに不思議だと思っていたらアル様が「魔素が蓄積しすぎると体全体が結晶化して浄化の際に砕けて核だけ残るけど、魔素の蓄積が少ないものは倒して浄化すれば元の獣肉に戻る」と教えてくれた。
へぇ、そうなんだ。
それから気になってた「爆裂果」が添えられていた。これを楽しみにしてたのよね。
「恐れ多い」といって一緒に食べようとしない二人を拝み倒して、三人と一匹(?)みんなでご飯を食べることにしてもらった。
やっぱりみんなで食べるにぎやかな食卓がいい。
爆裂果はマンゴーのようにとろり甘くて、それでいて水分が多い不思議な果物だった。
マルゴさんの話だと本来ならば南の方の植物でこの辺りだと高級品、しかもこんな春先に山岳地帯で採れるものではないらしい。
「話には聞いたことがあったけれど、食べるのは初めてです」と二人ともうっとりしていた。アル様も無言でモリモリ食べている。
それにしてもそんな貴重で珍しい物がなんで群生していたんだろう?
一夜明けて朝から荷馬車に解体した天幕や資材を積んだりゴミを集めたりとみんなが大忙しになっているのを横目に、フクロウ姿のアル様の背に乗り込むわたし。
出発までの間に見回りと、昨日トルドさんから報告があった爆裂果の群生地を見に行くとアル様に言われたからだ。
昨日教わった各地の結界石を確認して、爆裂果の群生地を目指す。
そこは山の深く、隣国との国境スレスレの場所にあった。
小さな湖の近くの湧水が噴き出す場所で、山の奥深くだというのに暖かい。
湧き水に手を浸すと熱めのお風呂ぐらいの温度で驚いた。
これ温泉じゃない?露天風呂できる!
一人大喜びしていると、どこからともなくドアチャイムみたいに甲高い金属棒がぶつかり合うようなシャランシャランと高い音が聞こえ、周りに色とりどりのほんのり光る球体が飛び交い始めた。
思わず身構えると、小さく縮んだアル様が満足げに頷いた。
「リーナ、心配しなくても良いよ。こいつらはこの湖のほとりに住まう精霊たちだ。この辺りは古ドワーフ王国に近いこともあって精霊が多い」
精霊!!
初めて目にする存在だ!当たり前だけど。
光る球体がわらわらとアル様に群がっていく様は、水面の輝きとも相まってキラキラと幻想的で見惚れてしまった。
しばらくしてアル様の周りをシャランシャランと軽やかな音を響かせながら漂っていた光る球体たちはパァッと散ると、わたしの周りに竜巻のようにぐるりと巡って弾けるように消えていった。
「あいつらドラゴンのフンの中にあった南方の魔力値が高い果物の種を集めては温かいこの辺りで育てていたんだと。リーナが来たから美味しいものを食べさせたいって、普段は人間に見つからないよう隠蔽していたのを獣人たちに持って行かせたようだ」
「え、獣人さんたちは精霊さんたちと意思の疎通ができるの?」
「あぁ、精霊の加護の強いものには見えたり声が聞こえたりする」
「わたしも話してみたかったなぁ」
「そのうちお前も会話できるようになる」
「本当に?」
「あぁ、まだこの世界にお前の存在がなじめていないからな、次に来る時には見えるようになっているだろう」
「うわぁ、楽しみ。ファンタジーらしくなってきた」
「いや、よくわからんがこれがこの世界の現実だよ」
アル様と話しながら完熟しているフルーツを収穫しては無限収納にしまい込んでいく。いま完熟しているものは全部持っていって良いよ、とのことだ。
南国フルーツにも似た甘い匂いでちょっと変わった形のフルーツが何種類もあり、いっぱいとってもとりきれない。アル様も有り得ないくらい大きなリスの姿になって収穫を手伝ってくれた。
精霊さんたちの分までとり尽くしてしまっては申し訳ない、そう思って手を止めると、アル様が「またもらいにくればいい。そろそろ帰るぞ」とフクロウ姿に戻った。
いっぱい収穫したフルーツ、お城の人たちへの手土産にいいかも。
「喜んでもらえると良いな」と思いながら翌日の筋肉痛を確信し、大急ぎでそろそろ片付いたであろう野営地へと急いだのであった。
大急ぎで戻った野営地はほぼ片付けも終わり、確認作業が終わり次第出発ということになった。
初めて乗る馬車は飾り気のない小型の馬車だった。
森のなかを抜けるため、小回りが効いてなおかつ頑丈であることを前提としているらしい。
一緒に乗り込むのはマルゴさん。御者はなんとルイーゼさん。
二人とも本来は騎士だから馬を操ることは慣れたものだという。素晴らしい!
はじめての馬車に少しだけワクワクしながら出発のときを待つのであった
脳内シアターではお話がどんどん進んでいるのに文章化が進まない。
今月中にもう一度くらい更新できたらなぁ。