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瞳の先にあるもの  作者: 望月 葵
フィランダリア・ヴァルハラ編
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第五十九話

※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。

 コラレダ王妃には、月に一回、設けられている会合がある。外国から来た王妃の精神をケアするためのものである。

 これは約十年前、フィランダリア国王ゼノスがコラレダ帝国王タトゥに出した交換条件のひとつでもあった。当時、タトゥ王はスパイを送り込めると大反対したが、王女であった妹は体が弱いので定期的に診察を受けないといけないと伝え、担当医はアルタリアだと押し切った。四大魔法師であるアルタリアなら、国政に関与出来ないのだから問題ないだろう、と。

 物資提供と中立的な立場も条約に加えたこの約束事は、色々と功を成していた。

 「いらっしゃい、アルタリア」

 「やあ、カロラ。そのままで、大丈夫」

 ベッドから降りようとした王妃を、魔法師は手で合図する。奥に備え付けられているテーブルに手編みのボックスを下ろすと、彼はベッドに向かった。

 片足を地面に付けたカロラ妃のお腹は、少し膨れている。

 「うん。順調だ」

 「そうですか、良かったわ」

 「安定期に入っているし、散歩すると、もっといいね」

 「それなら、部屋と図書室の行き来をしようかしら」

 「そうだね。でも、重い物は、持たないように」

 「ええ」

 ちら、と扉に視線を送る王妃。

 「結界は、張ってある。大丈夫」

 ようやく本当の意味で顔が緩むカロラ。

 「九人目、か。おかしな話だわね」

 と、左手でお腹をさする彼女。その手首には、包帯が巻かれている。

 「あの子達は、元気にしてる?」

 「うん。それぞれ別の場所で、預かってもらっているけど、孤児院で会わせられる様に、調整しているよ」

 「そうなの。仲良くしてるかしら」

 「うん。たまに喧嘩するけど、仲良い。君が来るのを楽しみにしているよ」

 「そうなのね。母親として何もしてあげられてないけど、嬉しいわ」

 と、悲痛な表情になる女性。

 「皆事情を知らないから、気の合う友人、と思っていると思う」

 「ああ、神様。ありがとうございます。うっうっうっ」

 顔を手で覆って泣き始めたカロラを、優しく抱きしめるアルタリア。

 「すまない。辛い、想いをさせて」

 「いいえ、いいえ。これもフィランダリアを守るためですもの。お兄様も断腸の思いだったのだから。わたくしもわたくしなりに戦わねばなりません」

 と、王妃。指の間から覗く青い瞳は、あるはずも無い赤色に染まっている様にも見える。

 「あの男の子など、吐き気がしますわ。でも、子供達に罪はない、もの」

 震える背中をさするアルタリア。本来ならフィリアかエレノオーラが訪問すべきと思ったが、医学の知識や立場などを考慮すると、どうしても彼以外、適任者はいなかった。女性にしか共有出来ない苦しみもあるのにも関わらず。

 「狙い通り、タトゥは跡継ぎがいないと、思い込んでいる。君が戦ってくれたお陰で、勝機が見えて来た」

 「ほんとう?」

 見上げた女性は、幼い頃から変わらない青年の瞳を、穴が開きそうな程見つめる。

 「うん。その代わり、ラガンダが一時離脱してしまったけど」

 「まあ、何て事なの」

 「平気だよ。数年後には、戻れるみたいだから。多分」

 「ならハーウェル様も?」

 「だと思う、けど。マイペースだから、何とも」

 「ふふ、そうね。以前も研究室にこもられておいでだったわ」

 「うん。ラガンダとフィリアがよく様子見にいっては、面倒みてたり」

 「懐かしいわね。お兄様と一緒にお邪魔したとき、ハーウェル様が叱られてた記憶がある」

 「私達には、いつもの事」

 「性格全然違うのに、本当に仲がいいものね」

 と、カロラは、昔フィランダリアで開かれた誕生日会で、祝いに来てくれた四大魔法師たちとエレノオーラのやり取りを思い出す。後者が長女の様に見守り、前者のうち火と風が騒いでは水が呆れながら止めに入る。そして、土は気にせず城の模様を観察したり食事を食べてはぼーっとしていたり。

 この誕生会はプライベートで開いたものだったので、特に親しい人間しかいなかったせいもあるかもしれない。彼らの様子は、ライティア家やレインバーグ家に連なる人間も目にしており、全体がほのぼのとしていた。

 あの平和な日々を取り戻せるなら。民達の生活に活気と豊かさを取り戻せるのなら。

 そう覚悟を決めて兄の提案に乗った当時の王女。十年という歳月が流れても、決意は揺らいでいない。

 「カイヴァント卿が気にかけて下さってるお陰で、何とかやって来れたのだけど」

 「けど?」

 王妃は言葉を呑むと、アルタリアの服を掴み、

 「お願い、あの方を助けて差し上げて。不穏な話を耳にしたの」

 「不穏な、話」

 返事のために口が開き掛けると、ノック音が響く。

 「時間だ。ご退出願おう」

 「分かった」

 アルタリアは、カロラをもう一度抱きしめると、耳元で、

 「情報屋に、伝えて。また来る」

 「ええ。楽しみにしています」

 出口まで歩いて行くアルタリアに、カロラは三歩程離れてついて行く。開かれた扉は無慈悲に部外者を追い出し、いささか乱暴に閉められた。

 妊婦の右手に力がこもり、目には行き場の無い感情が水分となって溢れ出る。

 タトゥ・コラレダ。貴様には相応しい地獄を見せてやります。たとえ、この身に代えても。

 大きく息を吐き出し、深呼吸した元フィランダリア王女。窓辺にあったボックスから茶葉を取り出して煎じ、数分後、リラックスする香りを立たせながらカップに注ぎ、ゆっくりと飲み始める。

 内開きの扉の外にはめられた鉄格子からは、冷え切った風だけが入って来ていた。

 同じ頃、クロウフヴニは傭兵らが使用している兵舎で、傭兵軍団長のゴットフリッド・ウェシュームと暗殺軍団長のイエッタ・バルデンと会議を開いていた。

 「バルデン伯爵には引き続き、アンブロー王暗殺をお願いしますが、より力を入れて頂きたい事が出来まして」

 「何にです、魔法師団長殿」

 「まあまあ、そうかしこまらずに。あの時は陛下の御前でしたから。本来我々は同じ伯爵でしょう」

 蹴落とすべきは一人だけのはず、と、天井を人差し指で指しながら笑う青年。仕方がない、とばかりに笑い返した伯爵は、

 「そうだったな。で、何をすればいい」

 「フィランダリア王に養子がいますでしょう。あの子をどうにか出来ないか、と、ね」

 「どうにかって。息の根を止めればいいのか」

 「今すぐにではありません。コレを使って、です」

 コト、と小さなビンを置いたクロウフヴニ。今の状況で暗殺なんて起きたら、コラレダが疑われるだけですからね、と付け加える。

 「ベタですが、遅効性の毒です。すぐに体調が悪くなるわけじゃありませんから、気づかれにくいでしょう。弱った所で洗脳したく」

 「分かった、奴らに渡しておこう」

 「頼みます。ああそうだ、彼らはどうなっていますか」

 「どうも何も。まだ見つかってねえよ。コラレダにはもういないようでな」

 「そうですか。私の所は完全にダメでしたね。懐柔されてしまいましたよ」

 「それはそれは。マズいんじゃないのか」

 「問題ありませんよ。陛下の信頼を勝ち取っていますからね。ふふ」

 貴方方のも上手く誤魔化していますからご安心を、と闇色のローブをまとう青年。

 「それは助かる。特にイスモ・ヤンネは危険だからな、従軍する気がないなら始末する」

 「おや、そこまでしなくても。私は構いませんが」

 「んまあ、そっちは任せるが。百発百中の腕の良さは聞いてるな」

 「ああ。薬学にも精通して、ワームも軽々と使いこなす。正直アンブローの件も、奴が関わっているとしか思えない。それ位上手くいかないんだ」

 「ほお。そんな優秀な人なら是非戻ってきてもらいたいですね。最後の任務は」

 「アマンダ・ライティアの誘拐を任せたんだが。相棒のヤロ・ハーパコスキと一緒に行方不明になった」

 「側近に殺られたのかもな」

 「そんな簡単に殺られる奴じゃない。ハーパコスキもそうだろう」

 「ああ。まるで野生動物のような奴だった。あと、ギルバート、だったか。あの新参者もいい腕をしていたが」

 「そう言えば、アンブロー側についた傭兵たちもいましたね」

 「あ、ああ。そいつに着いて行った、らしい」

 ふむ、とクロウフヴニ。

 「まあ、私の策で半分減らしましたから、いいのでは。傭兵は騎士みたく忠誠よりも個人の事情で出入りしますからね」

 「にしても、騎士団は何やってんだ? 外国との戦いは俺達にやらせっぱなしじゃないか」

 「各地で起こってる暴動の鎮火に忙しいのですよ。ちゃんと仕事はしていますって」

 「成程な。それなら外に出れなくても不思議じゃねえが」

 「ええ、そうです。陛下はご不満ですよ。ふふ」

 魔法師に合わせて怪しく笑う二人。

 「正論ばかりで正直鬱陶しいのがある。公爵だからってな」

 「我々とは違って何百年も続いている由緒正しき家柄ですから、頭が固いのは仕方がないのでしょう」

 「陛下の役に立ってるのは我々の方さ。ライティアへの攻撃を拒否できるのも時間の問題だろう」

 「その通りです。カイヴァント家が消えれば、この国は我々の思うがままになります」

 「楽しみだな。これで領土も拡大できる」

 「一人占めするなよ、ゴットフリッド」

 「勿論だ。で、だ。その後はどうするつもりだ」

 「そうですねぇ。今はフィランダリアに圧力を掛けています。上手くいけば、アンブローとぶつかって頂いて、漁夫の利を得れるでしょう」

 「そこに俺達が行って平定する、って算段かい」

 「まあ、そんなところです。状況によっては自滅するだけでしょうけど」

 「ラクな仕事じゃないか。これでゼノス王権が倒れれば言うことなしだ」

 「ふふ、そうですね。おっと、そろそろお暇します。やることがありますので」

 「ああ、気をつけてな」

 「ええ。また情報共有致しましょう」

 と、立ち上がるクロウフヴニ。伯爵たちは青年を入口の外まで見送った。

 歩いて門までたどり着くと、館に一瞬だけ振り返り、すぐに敷地外へと足を動かす。

 「ふふふ、愚かだな。欲にまみれた人間は実に動かしやすい」

 数百年前も楽しかったが、今回のほうがもっと楽しい。もっともっと長引かせるにはどうすればいいのだろうか。

 「たまらないなあ。おもちゃがひとつ壊れてしまったけど」

 思わず口に手をあてた男。フードを取り体全身を動かして酸素を取り込んだ。

 状況を見るに、そろそろ潮時だろうけど。本当に面白い筋書きだよ。

 周囲に人がいたら間違いなく変な人間と認定されてもおかしくない位、クロウフヴニの顔は楽しそうに笑っている。

 空には、小鳥がさえずりながら飛び交っていた。

 赤毛をした青年は、館に帰るべく、宙へと舞う。急いではいないが、誰かさんの監視から逃れる為であった。

 信頼してるフリをしての監視、か。ふふ、ホント腐りきってる奴らばっかりだね。面白すぎるよ、この国。

 コラレダ帝国で唯一の良心であるカイヴァント家が消滅すれば、この国は阿鼻叫喚と化す。悪人しか生きられない領土となり、犯罪が跋扈する土地となる。

 「領土の共有? 馬鹿馬鹿しい、誰かに奪われるだけさ。そうなった時の伯爵たち、どういう表情をするのかな」

 考えるだけでワクワクしてしまう青年。火の魔法師と似たような髪色をしている彼だが、力の使いかたがまるで異なっていた。

 「フィランダリアがどうなるかで、楽しめる期間が決まるか。今のところの要注意人物は」

 マントをはためかせながらも思考を止めない魔導士。これが道中なら、前方不注意で何かにぶつかっていたかもしれない。

 「いつも通りにするか。あの子供は特に注意しておかないとね」

 ガクン、と、突然体に痛みが走ったクロウフヴニ。危うく地面に叩きつけられるところであった。

 「ったく。こんなところで終わりたくないんだけど。今楽しんでるところなんだ、少し大人しくしててよ」

 と口にしながら、道具入れから出した竹筒を運ぶ青年。中身を飲むと、ふらふらしていた軌道が、しっかりと直線になった。

 「ふふ、こういう不確定要素も楽しみのひとつだよね。薬も多めに作っておこう」

 さらにスピードを速める魔法師。その表情は、子供心の好奇心という、残酷さに染まっていた。

閲覧して頂き、誠にありがとうございます♪

楽しんで頂けたでしょうか。


続きは後日までお待ちいただくか、note にて先行公開されています。

無料で見れますので、ぜひ遊びに来てくださいね^^

https://note.com/aoimotiduki/n/na5988967fc02

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