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瞳の先にあるもの  作者: 望月 葵
覚醒編
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第五十三話

※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。

 再び放たれた光る矢はアマンダと情報屋の間を抜けて行き、追加された飛び道具は女将軍の頭の横を高速で通り過ぎる。攻撃を受けた少女は体を九十度に回転させて走り出すと、厄介な相手を倒しに掛かった。

 こんな平地で弓兵が戦うなんて。技術も芸もあったもんじゃないけど。

 足元に向かって放った矢は地面に突き刺さるが、今度は読まれていたらしく、彼女の体は宙へと浮いていた。

 しかしエスコは構わずまた矢を放つとレイピアの先に命中。予期しない衝撃を受けたアマンダの手から、得物が落ちてしまう。

 着地と同時に剣を拾おうとするが、直前に情報屋にかっさらわれてしまった。

 動きが止まる娘をよそに、子供は弓兵の近くまで飛んで行く。

 「あー、助かったっ。あんた、噂以上に弓すごいんだな。これであいつの動きを封じられる」

 『まだ予備がある』

 「げ。一本じゃなかったのかよ」

 『戦場では二、三本携帯するのが普通なんだ』

 情報屋は基本、魔法で戦うために、その辺りの事情は疎いようだ。レインバーグ将軍の言う通り、ライティア将軍は再び剣を携えて迫って来ている。

 「あ~、くっそ。よし、エスコは少し休憩したほうがいいだろーから、結果内にもどったら」

 『休憩? そんなことしてる場合じゃ』

 「いんや。たぶんだけど、その状態だと生命力がけずられてくと思うぜ。ラガンダのそばにいたほうがいいかもしんない」

 『かもって何だ。不確かなんだろう』

 「オレも状況があんまし理解できてねーんだよ。説明できないけど、不確かだから慎重にいったほうがいいんじゃねーの」

 『まあ、一理あるな』

 さらに距離を縮められた弓兵だが、情報屋が時間稼ぎしている他の理由を聞くと、提案を受け入れる。

 彼が赤い半球状の中に駆け込んだところを確認し、情報屋はアマンダに向かって飛行呪文を唱える。そしてぶつかる瞬間に、上空へと進路を変えた。

 適当な場所で止まって様子を伺うと、見上げているアマンダの姿が映る。

 よし。あっちは火の結界の熱気で近づけないし、ここからならあてずに魔法も使える。

 小さな風の塊を作っていると、アマンダは妙な構えをし始める。まるで自身を抱きしめるかのように腕を胸の前でクロスさせていたのだ。

 時間にして、数秒程だろうか。

 次の瞬間、アマンダの背中から白く透き通った羽根がはえる。しかし、表情は何事もなかったかのように動かず、剣先を情報屋に向けて跳躍した。羽根がバサバサと動くと、加速される。

 「げっ、反則じゃねーかっ」

 出来かけた魔法を消去し反時計回りの軌道を描きながらかわす子供。振り返ると、再び剣と共に突進して来る姿が目に入る。

 今度はさらに上に移動しながら、

 ンなバカなことあるかよ。魔法師でさえ羽根がはえたコトなんてないのに。

 神託が使えなくなった以上、子供には何が起こるか予測が出来ない。つまり、その点では他の人間と変わらなくなったということだ。

 情報屋は、置かれた環境に近頃ようやく慣れて来たのだが、やはり、まだ幼い所がある様子である。

 全身から水分がなくなるのではと思う位の流れを感じる魔法師は、飛び回りながらも相手の様子を伺う。徐々にだが、スピードが落ち来ているようだった。

 まてよ。あいつ、どうやってあの羽根だしてんだろ。

 今まで背を向けていたライティア将軍に対して向き直ると、より早い速度で飛んで行く情報屋。突き出だされた剣を右側に体を傾けて転換すると、手で羽根の部分を掴もうとした。

 しかし、見た目と同じく、透き通ってしまう。

 子供の左手は、ヒヤリとした感覚だけが残った。

 再び対峙した情報屋は、謎めいた冷たさに疑問が起きる。人から出ていたり掛けて貰うときの魔力は、本来、人肌と同じ温度なのだ。

 エスコの近くにいたときと似たような感じだ、な。

 「くそっ」

 情報屋は急いで地上に戻り、貴族の娘も後を追う。着地すると、懐から筒状のものを取り出し、緑色をした棒状の武器を生成。しばらく子供の様子を見ていた女将軍は、羽根を消し、突きの構えをした。

 もしオレの考えが正しければ、このまま長びかせるのはマズい。早くきてくれよ。

 現実は残酷で無慈悲だ。個々は老若男女問わず、地獄にも天国にも行けると、情報屋は教えてもらった。ただし、人間には社会という、個人の力ではどうしようもない流れが存在するとも。この見えない流れには荒波も穏やかな波もあり、人によって異なるらしい。

 最終的には、波自体を避けるか乗り越えるかは個人の酌量になってくる。空へと舞うか、波に乗って生きるか、あるいは水底に落ちるか、はたまたは。

 それが生きるということだと。

 聞いたのは確か、八つのときだったっけ。ちっともわかんなかったけど。

 非常時に何故教えがよぎったのか頭では理解出来ない情報屋。とはいえ、お互いがゆっくりと時計回りに動きながらも、何かが囁いているようにも感じていた。

 こいつを死なせるワケにはいかない、と。

 アマンダを包んでいる闇色の炎は、衰えることなく燃え盛っていた。

 アマンダは魔法師としての修行をしたワケじゃない。なのに放出はできる。どうなってんだ。いや、それよりもあの炎はいったい。

 様々な思考が交錯する中、一番の問題をつめていこうとする子供。おそらく、ラガンダは炎の正体に気がついた可能性があるが、今は伝えるどころではないのだろうと考える。

 聖水を使うように指示したってことは、邪を遠ざけるため。あの杖みたいなノからでてる闇色の槍を、二人は当たらないようにしてた。

 情報屋は腰にある道具入れに手をやる。持っているビンは、小さいのが二つだ。

 解決策を考えている魔法師に向かって、女将軍が襲い掛かって来た。気づくのが早かったため、問題なく対応出来たが。

 羽根がはえる前に比べると、剣が軽いのである。

 やっぱりそうか。このさい、でどころは後回しだ。

 『情報屋、情報屋っ。聞こえるかい』

 『え。う、うん』

 『繋がって安心したよ。アマンダに聖水をかけないでおくれ。こいつの力が全部そっちにいっちまう』

 『えっ。でもこのままじゃ』

 『心配しなくても大丈夫さ。エレノオーラがいるからね』

 『あ、そういうコトだったのか』

 『後でいくらでも聞くさ。答えられる範囲に限るけどね』

 『わかったよ。気づかないフリしとく』

 『面倒かけるけど、頼んだよ』

 と、フィリアとの交信が切れる。何度か情報屋に送っていたようだが、本人が目の前に集中していたため、魔力の受信が気づけなかったのだ。

 「個人で自由にできないってのは、ホントにメンドいな。流れってヤツか、ねっ」

 相手をはじき返すと、進行方向に走り出した情報屋。女将軍も続く。

 とはいえ、体力はあちらのほうが上らしい。徐々に距離が縮まっていくのが分かった。

 対策を考えていると、地面に何か刺さるような音が子供の耳に届く。光の矢である。同時に熱さを感じない炎が子供を包み込んだ。

 追い追われが続き、戦場でなければ、片方が相当怒っているのか訓練にも見えただろう。タイミングを見計らって放たれる光の矢のお陰で、情報屋の体力も持ちやすくなっていた。

 だが、数十分以上が過ぎた頃、情報屋の体力に限界が訪れ始める。

 そういやあ、いっつもレコに負けてたっけ。

 仕方なく止まり、棒を構える。アマンダも数十メートル前で止まると、いつでも走り出せるよう低体勢を取った。

 お互いが動かなくなってから数分後。双方の武器に、しずくが落ちて来る。しずくの数はすぐに増えていき、瞬く間に大雨となった。

 アマンダの顔は焦りの色に、情報屋は明るい色に染まりながら、見上げた。

 そしてほぼ同時に、杖らしきものから地を這うかのような重々しい声が響き渡る。

 フィリアは妖しく笑うと、剣を躍らせ闇色の炎を切り刻む。

 「へっ。おせーんだよ」

 「すまない。邪魔されてた」

 と、空に向かって話しかけるラガンダ。彼の視線の先には、青を基調とした、ところどころ汚れている服をまとった青年が浮かんでいる。

 青年は情報屋の傍に降り立つと、頭に手を添えた。

 「良く、頑張った」

 「ガキ扱いしないでもらえる」

 と悪態をつくが、口は緩む。

 「ここは、私に任せて。ラガンダの所に」

 頷いた情報屋は、素直に従い結界へと走って行く。すかさず後を追ったライティア将軍だが、巨大な盾を出現させた青年に阻まれてしまう。

 突きを半透明な防具で遮りながら、少女の瞳を見つめた青年は、

 「そうか。君も、良く頑張った」

 と、波打つ防壁と化した盾を挟んで話した。

 一方、結界内に駆け込んだ情報屋は、息を切らしながら水を飲んでいた。

 「よくやった」

 「しょ、正直あなどってたよ。あいつあんなに体力あったなんて」

 『血筋がいいだけの人間なんて就けさせないって。ちゃんと正式な試験を受けてる』

 「そいやあ、そーだった」

 条件付きの特例でもあるが、そこは二人とも口にしなかった。

 「アルタリアのお陰で安全に時間が稼げる。簡単に伝えるぞ」

 と、火の魔法師。処置を受けたとはいえ、まだ疲労は抜け切っていない様子だ。

 指で集まるようにジェスチャーした彼に、主要メンバーが従う。

 フィリアが抑えている杖のようなものは、生きた人間をもゾンビ化させてしまうモノだという。数百年前の戦場に突然地中より現れ、死者はもちろん、大して傷を負っていない魔法師ですら変貌してしまったとのこと。

 また、この雨は浄化魔法で、杖らしきものの力を無効化させるものなので、命ある者に害は及ばない。

 「アレの正体はまだ分かってねぇが、人間には手に余る代物だ。ここはオレたちに任せておけ。必ずお前たちを無事にノアゼニアまで届ける。ギル」

 「へ。あ、はい」

 「お前の背負ってる剣、ちっと貸してくれ」

 「は、はあ」

 ポカンとしながらもベルトを外し、差し出すギルバート。受け取ると、力を込めて抜こうとするが、びくともしない。

 「やっぱりオレじゃダメか。情報屋」

 「な、なに」

 「抜いて地面に突き刺せ。それで結界を安定させるんだ」

 「はあっ」

 「はあじゃねぇって。結界がないと余波受けて死んじまうだろ」

 「い、いや、それはわかるよ。でもオレの力じゃあ安定させられないって」

 「心配すんな、この剣が抑えてくれる。そういう風に創られてる」

 「ど、どういうコト」

 「説明してる時間はねぇ。今ここでアレを消滅させないと大変な事になる。気になるならアルタリアかフィリアに聞くといい」

 眉をひそめる子供。最後はどういう意味なのかと確認したかったが、四大魔法師の視線が許さなかった。

 なにがあっても、この人なら大丈夫だなはず。問題ない、今までもそうだった。

 おずおずと剣を手にし、幼い体には大きすぎる剣の柄を握る情報屋。二、三回深呼吸をし、魔力を左手に送る。

 すると、まるで朝日が昇って来たかのように輝きだし、カシャン、となる。

 両手の中に収まった剣の柄を逆手にし、言われた通りに勢い良く下ろす。突き刺さった瞬間、刃の無い剣は砕け、光の筋となり結界を覆う。

 残された鞘を手にしたラガンダは、何故か優しい笑顔で入れ物を見つめていた。

 しかし、時が止まることは無い。

 四つん這いになっている情報屋に対し、ラガンダは礼を伝える。そして、ゆっくりと立ち上がった。

 「ラガンダ様、無理をされては」

 「この効果もそんな長くはもたねぇみてぇだからな。リューデリア、サイヤ、後は頼んだ」

 前者の制止を聞かず、火の魔法師は両足に力を入れて空へと飛び立つ。暗雲を光の矢のように貫くと、そのまま飲まれてしまった。

 心臓の音が聞こえてきそうな雰囲気の中、時間だけが過ぎていく。

 誰も何も出来ないまま、どれだけの時間が過ぎたかも分からない。

 ただ、風と水の魔法師たちだけが攻撃と防御を繰り返している光景を、一行は、ただただ眺めるしか出来ないでいた。

閲覧して頂き、誠にありがとうございます♪

楽しんで頂けたでしょうか。


続きは後日までお待ちいただくか、note にて先行公開されています。

無料で見れますので、ぜひ遊びに来てくださいね^^

https://note.com/aoimotiduki/n/na5988967fc02

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