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瞳の先にあるもの  作者: 望月 葵
ランバルコーヤ編
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第四十四話

※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。

 様子を伺っていた情報屋は、アンブロー軍内で起きた裏切りを仕入れると、早速エリグリッセへの前に姿を現した。

 「はっはっはっ。さすがは傭兵、勝てる戦に参加するのが筋よ」

 「へぇー。王族のあんたがそういうとはイガイだぜ」

 もはや子供の無礼にも慣れたらしいランバルコーヤ王国第一王子も、相手と同じ表情をする。

 「王族ってさ。ムダにプライド高くてリソーロンいうからさ」

 「そういう事か。分からなくはないぞ。国を治めるのに綺麗事も重要ではある」

 コツ、と、机の上にある駒を動かしながら話すエリグリッセの目は、どこか憂いを帯びている。

 「理想と現実は、いつも真逆なのが世の常。致し方あるまい」

 「あんたにとって今は、アンブローに勝つことが優先ってコトか」

 「無論。まあ、父上ならばアンブロー如き束になっても蹴散らせようがな」

 「万が一、って言葉があんじゃん」

 「父上に限ってなかろう。戦場において父上こそ神」

 コツッ、と、エリグリッセは駒を再び動かした。

 「このまま時間を掛ければ良い。勝手に自滅するだけだからな」

 「そう願うぜ。手負いのネズミっておっかないらしいけど」

 「ふん。瀕死の生き物に何が出来る」

 「たしかに。んま、また動きがあったらお邪魔するさ。じゃあな」

 と口にすると、情報屋は姿を消した。

 一度上空に移動した子供は、ヒエンカプンキを見下ろした。松明が各軍の居場所を照らし、王城へと続く道にはポツポツと列をなして灯っている。

 なお、外にも蛍の光のような明かりがある。

 情報屋は、子供心か口を緩ませながら腕を組んでいた。

 勝利を確信した城主の気持ちが伝染したのか、あるいは増えていくアンブロー人を目にしたためか、エリグリッセ兵間の雰囲気が和らいきていた。人は環境によって左右されやすい生き物で、特にラクという感情には溺れやすいのかもしれない。

 夜空に浮かんだ月の中央に何かの影が浮かんでいるのを、不思議そうに眺めている程である。虫の音が響き渡る環境ならば、さぞ美しく聞こえていたに違いない。

 しかし、のんびりとしていた彼らの耳に刺さったのは悲鳴であった。しかも、数がお序に増えていくではないか。

 似つかわしくない叫びは、宿舎で休んでいたヴァロスたちの耳にも当然入って来る。

 「随分と騒がしいな。見てくるからここに」

 「その必要はねえ」

 「何? どういう」

 ダンッ、と新顔の男の頭がテーブルに抑えつけられた。もがこうにも既に六本の腕ががっちりと固めている。

 「き、貴様、どういう」

 「悪いな。あんたには世話になったし、嫌いじゃねえ。減刑してもらうように頼んでやるよ」

 「この裏切り者がっ」

 「はっはっはっ。これが俺の生き方なんだよ。生き残る為なら何でもしてやるさ」

 縛って見張っておけ、と、ヴァロス。頷いた傭兵たちは柱にくくりつけると、戦闘準備に入った。

 何が起きたか分からずに駆け込んでくるランバルコーヤ兵は、ヴァロスたちの手により次々とに捕縛されていく。怒涛の波が数時間続くが、少しずつ入室する人数も減って来た。ふと見ると、部屋の半分ぎゅうぎゅう詰めになっているではないか。

 しかも、大半は獲物を持っていない。格好からして見張りの交代などで仮眠していた者もいる。

 新顔は歯が欠けそうな程の歯軋りが止められなかった。ヴァロスに対し物申そうとしたとき、入口の布が動いた。

 「いやー、首尾良く行ったねぇ」

 「さすがに鍵空けたヤツが気の毒だったな」

 「油断してガラあきの背中見せるのが悪いって。双眼鏡越しに笑っちゃったよー」

 「だな、ざまあねえ」

 「いよお。ごくろーサン」

 「て、てめえ、ヴァロスじゃねえか。助っ人っててめえのことかよっ」

 「ありがてえだろ。泣いて土下座して感謝しな」

 「冗談じゃねえ、このクソ野郎が」

 「ままま、まあまあ。とりあえず、この部屋は終わったんだよねー」

 「ああ。この通りさ」

 「そう。あ~、ヤロ、殴るのは後で百発でもやっていいからーっ」

 と、耳の高さまで拳を上げて突進しようとしている彼に対し、ギルバートは後ろから羽交い絞めにする。ヤロは外そうにも肩当てが邪魔になって抜け出すことが出来なかったようだ。

 ようやく落ち着くと、ヤロは舌打ちをしとある人物を探す。捕われた兵たちの間をぬいながら歩くと、一番奥に目当ての人物がいた。新顔である。

 彼は胸倉を掴むと、

 「ここにいやがったか。残念だったな、てめえ」

 「な、何の話だ。それに貴様とは初対面だぞ」

 「嘘つくんじゃねえよ。てめえは間者として潜り込んでたろ。一度顔も見てるんだぜ」

 暴れて抑えつけられたよなあ、と続く。表情が固まった新顔は、信じられないといった様子でヤロを見上げる。

 「オレは生まれてこのかた、ランバルコーヤでの生活が一番長えんだよ。意味分かるよな」

 「ば、馬鹿な。だからといってたった一度で顔を覚えられるはずが」

 「あん? んなモン簡単だろ」

 「フツーは一回で覚えられないよー。隊長クラスならなおのことー」

 いつの間に後ろにいたのか、ギルバートが割って入って来る。

 「残念だったねぇ。この人、記憶力が抜群に良いんだ。顔だけじゃなくて地形もすぐ覚えられちゃう」

 ポン、とヤロに肩に手を置きながら、笑顔で話すギルバート。しかし笑っているのは唇だけであった。

 「それじゃあ、他の制圧頼んだよー。喧嘩しないでねー」

 「仕掛けられなかったらな」

 「うっうっ、やっぱりイスモにも来て貰えば良かったよぉーっ」

 「黙って殴られるなんざ出来ねえよっ」

 わざとらしく泣きマネをしながら、周囲に任せたギルバートは、足早に入口へと向かう。

 途中で足を止めると、

 「ええっと。私はギルバート。ヴァロス、だっけー」

 「ああ」

 「そっか。妙な気は起こさないでねー」

 「安心しな。もうあんたらアンブローには逆う気はねえ」

 「なら良いやー。自害させないように猿ぐつわも頼むねー」

 顔の筋肉だけ柔らかくした対応に、ヴァロスはアードルフとは異なった威圧を感じる。

 姿が見えなくなると、思わず大きな息を吐いたヴァロスは、自らの平凡さを見せ付けられた気がした。

 残るは王城に立て篭もるエリグリッセ一派のみとなったアンブロー軍は迅速に行動を開始する。ギルバートは先日と同じ顔ぶれで裏口へと回り込んだのだ。

 入口の様子を見ていると、彼らの背後に気配を感じ取る。

 「待ってたよ、ギルバート」

 「んー、聞いたことある声だねえー」

 口調とは裏腹な反応をした彼は、唐突に現れたローブを羽織った青年に挨拶をした。

 「あいつはエリグリッセの近くから、こっちに流してくれるって。代わりに僕が案内する」

 「そっかー。ということは配置場所を変えてるのかー」

 「うん。守りを固めたらしい」

 「この状況で?」

 「そう、この状況で。ヒエンカプンキには奥の手があるから」

 傭兵の眉が動く。

 「王族しか知らない仕掛けがあってね。それを発動させる気さ」

 「どういう仕掛けかなー」

 「全てを砂に還すんだって。要は生き埋めになるらしいよ」

 と、サーク。詳しい効果は知らないようで、情報屋を通してラガンダに聞いたらしい。端的に言えば、自爆技である。ただし、一部の部屋には効果がないという。

 「ヒエンカプンキ全域に大量の砂が空から降ってくるから、逃げようがないんだとさ」

 「お、おい、ギルバート」

 顔を曇らせながら頭をかく呼ばれた者。貴重な食料を厳重に守っているのは、どうやら敵からだけではなかったらしい。それだけ大規模な仕掛けならば、生き残った後にゆっくりと金属の箱を探せばよいのだから。

 ここでアンブロー軍を全滅させられれば、戦力を大幅に減らすことが出来る。そもそもの目的が兵力削減だったのならば、まんまと乗せられたことになる。

 「町も砂でできてる。時間はかかるが、復興は他国よりも容易いと聞いたぞ」

 「成程ー。戦術としては最高だねぇー」

 「何を呑気な。どうする気だ、これじゃあ突入もできないぞ」

 サークは周囲を伺うと、声のトーンを落としてギルバートに、

 「心配いらないよ。今、その仕掛けを発動させないようにしてるんだ。うまくバレないように工夫して、ね」

 「いつ位に終わりそう」

 「もう少し。合図は僕らにしかわからないからここに来たんだよ」

 と、彼。僕ら、というのは、魔法師のことだろうと、ギルバートは察する。だから仕掛けと言ったのだろう。

 「君たちが突入しながら解除していく感じにしてるんだ」

 「ありゃ。どうすればいいのかなー」

 「踏めばいいんだ。ただし順番がある、でき上がってるのはここだね」

 と、入手した王城内部の地図には、まるで囲まれた数字が記入されている。先日サークらが張った罠は発動しないように改造されたという。

 「本来なら特定の人が踏まないと起動しないようにしたかったんだけど、そこまで組みこめる時間がなかったんだって。だから、エリグリッセ兵に踏ませないようにしないといけない」

 「うーん、ややこしくなってきなぁー」

 「大丈夫じゃないかな。設置場所は三ヶ所で」

 と、該当場所を指すサーク。蜘蛛の巣のごとくに入り組んでいるが、侵入口から近い位置に設定されているようだ。

 「あー、ここらなら確かに平気だねぇー」

 「でしょ。よっぽどヘタな突撃をしない限りいけるんじゃないかな」

 「いけるいける。よし、二手に分かれよう」

 敵を引き付ける班と王座に向かう班に配置すると、地図と情報屋から預かったブローチを前者のリーダーに渡し、最終確認をする。

 その間、サークは右手を右耳に当て、何者かと話をしていた。

 「完成したって」

 「ちょうど良かったねぇ。それじゃあ武運を。また会おうねー」

 「ああ。お前もな」

 頷き合った男たちは、武器を構えて突撃して行く。

 入口を難なく突破した一行は、囮部隊はそのまま直進し、ギルバートとサークを含んだ攻略部隊は三番目の分かれ道を右に曲がった。魔法師を先頭に走る彼らの足は、徐々に加速し一つ目の解除場所を突破。サークは風の魔法を使い、敵が現れる前にギルバートと交代しながらやり過ごしていた。

 二つ目も問題なく突破し、あくびが出るぐらい順調である。

 『サーク、いまどこにいんの』

 「通路。今二つ目を解除したとこ」

 『他の隊と合流したほーがいいかも。エリグリッセが全員を率いてそっちにむかってる』

 「はあっ。大人しく王座の間にいろってば」

 「ど、どうしたのー」

 「エリグリッセが囮部隊のほうに向かったらしい」

 「へ。何故」

 一度止まる一行。サークは予備に持っていた地図を広げた。王城へ続く通路の全体図のおおよそ中央に位置する所には数百人も収容出来る空間があり、正面衝突のみ可能な場所でもある。

 四方を壁で囲まれ、通気口のみが存在するという、不思議な空間だ。

 眉間に力が入ったギルバートの口は、固く結ばれている。

 「自暴自棄で突っ込んだ? いや、違う気がする」

 ギルバートはサークに、エリグリッセがどんな表情をしていたかを聞いて欲しいと頼む。数分後に返って来たのは、目を輝かせながら凛々しいもの、というものだった。

 負けを認めるモノじゃないな。むしろ勝利を確信してるような感じだ。どういう意味なのか。

 「ギルバート。どうするのさ」

 「そう、だね」

 『エリグリッセが到着したよ。勢いづいてアンブローがおされはじめた』

 「了解。時間がないよ、既に交戦して逆転されるかもしれない」

 唯一仕掛けが作動しない場所がここなのか。ならば王子が移動したのは合理的だろう。だが、まだ何かが引っ掛かる。アンブロー軍の戦力を減らすためなら、わざわざ避難所に呼び寄せたりするだろうか。

 「三番目の解除場所はどこ」

 「え。ちょうど中央の部屋と反対方向だけど」

 「先にそっちに行こう。解除してからだ」

 周囲が騒がしくなる。

 「本気でいってるのかい。仲間がピンチなのに」

 「だからこそ完璧に仕掛けを完成させなきゃ。発動させられたらそれこそ終わりだ」

 「わ、わかった。こっちだよ」

 自ら逃れるためだけなら兵を率いる必要はない。逃げる者の目が、輝くとは到底思えない。

 相手は勝利を掴もうとしているのか、それとも。

 もはや賭けるしかなかった。

閲覧して頂き、誠にありがとうございます♪

楽しんで頂けたでしょうか。


続きは後日までお待ちいただくか、note にて先行公開されています。

無料で見れますので、ぜひ遊びに来てくださいね^^

https://note.com/aoimotiduki/n/na5988967fc02

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