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瞳の先にあるもの  作者: 望月 葵
アンブロー王国編
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第十四話

 部屋に案内された傭兵たちは、アードルフを除き、部屋をきょろきょろと見渡す。

 「この部屋、マジで使っていいのかよ」

 「どう見ても上役の貴族サマが使いそうな部屋だけど」

 へえ、と感心したエスコは、

 「大した観察力だ。実際ここはコスティが使っていた場所だよ」

 「コスティ様が」

 三人で使うにはちょっと狭いかもしれないけど、と副官は、複雑な表情をする。

 「ここからならアマンダの部屋にも近いし、結構便利な場所なんだ」

 「飯はどうすりゃいいんだ」

 「近くに使いの者がいるから、彼らに言ってよ」

 物資の補給や気晴らしなど、つい先日まで敵国の傭兵だった者たちは、今までと勝手が違うことに肌で感じる。細かいことは後程確認することとなった。

 「それじゃまた」

 「エスコ様、感謝致します」

 「いやいや。これからも頼むよ~」

 彼は笑顔で、部屋を退出。続いて、アードルフもアマンダの様子を見てくると出ようとするが、イスモが声を掛けた。

 「兄貴、さっきの話、なんだけど」

 珍しくどもる彼は、視線を左右に動かし、右人差し指で自分のこめかみを何度か指した。

 義理兄は頭を左右に振り、

 「まだ戻っていない」

 「そうなんだ」

 「まあ、必要ないからだろう。過去よりこれからのことが大事だ」

 「嬢ちゃんは知ってるのか」

 「ああ。だから話をそらそうとされたのだろう」

 「そうだったか」

 「気づけよ」

 本気で分からなかったらしいヤロに呆れるイスモ。頭をかく彼だが、懐かしいやり取りに、年長者はつい口が緩んでしまう。

 「今のうちに休んでおけ。何があるか分からんからな」

 「了解」

 記憶にあるためなのか、使用人の足は、若干軽いように感じられた。

 アードルフがアマンダのいる部屋につくと、サイヤが扉を開けてくれる。

 「アマンダ様は」

 「爆睡中よ~」

 と言われながら、中に招かれる彼。ベッドが同じように配置された男たちより広い部屋で、ひとつの寝具が盛り上がっている。

 傍には、リューデリアが座っていた。

 主に近づき覗き込むと、ぐっすりと眠っている顔が見えた。

 「一晩休んでおれば大丈夫だろう」

 「そうか」

 息を吐きだした彼は、リューデリアを凝視してしまう。

 「何だ」

 「すまない。いぜ」

 コンコン、という音が会話を遮る。発した者の正体は、ヘイノであった。

 「疲れているところ済まない。アマンダの様子が気になってね」

 「あら~、気づいてたのね~」

 「だから早く終わらせてあげたくてね」

 話しながらアマンダに近づく将軍は、彼女の愛らしい寝顔に口付けしたい衝動に駆られるが、はにかむ笑顔でごまかした。

 大丈夫そうだな、と話したヘイノは、リューデリアに、

 「付かぬ事を伺うが、君とは初めて会ったかな」

 「初対面だが」

 「おかしいな。君ほどの美女を忘れるはずがないんだが」

 「ナンパ~」

 「いや、真面目な話なんだが」

 困った表情になる青年。その言葉ではそう見られても仕方がないのでは、とアードルフは思った。

 「ヘイノ殿ではないが、私もどこかでお会いした様な気がする」

 「そなたとも初対面だぞ」

 ふと、ベッドの隣に置いてある机にあるものを目にするヘイノ。そこには、ライティア兄妹が仲良く写っていた。

 「そうだ、写真だ。君の写真を何度も見たからだ」

 「どうしてそなたが私の写真を、って」

 みるみるうちに髪の色と同じく、顔が真っ赤になるリューデリア。勢いよく立ち上がると、病人がいることを忘れ、

 「お主、まさかコスティにっ」

 「私からじゃなく、彼からだよ。鼻の下を伸ばされて大変だった」

 歳相応の呆れ顔になるヘイノ。年上がするのろけ話に、性格上仕方がないとも思いつつも、苦笑いしか出来なかったそう。

 だが、何故か話を聞いてしまうのは、コスティがあまりに幸せそうに話していたからだという。

 そう、彼の美徳のひとつでもあった。

 「エスコも初めて会った気がしないと言っていたからね。ようやく繋がったよ」

 「あ奴め、何と恥ずかしいことを」

 「ぷっ、確かにかなり無愛想だったな」

 写真は苦手なのだ、と、そっぽを向く。先程の話し合いで将軍と対等に話していた彼女からは想像しかねる態度だ。

 「そうか、君が」

 言葉を慌てて飲み込んだヘイノ。この場でしても良い話でもないと悟り、

 「君さえ良ければ、コスティの事で後で話を聞きたい」

 「わかった。今行こう」

 「そ、そうか」

 顔面から火が出る勢いだからだろうか、ブーツから出る音の幅がとても短い。

 「サイヤ、アードルフ、後を頼む」

 「いってらっしゃ~い」

 会釈をしたヘイノと共に、彼女は姿を消す。

 「あなたはどうするの~」

 「そうだな、情報を集めてくる。アマンダ様を頼めるか」

 「いいわよ~」

 助かる、と、従者。

 廊下に出たアードルフは、自分の考えと忠誠を元に、行動を開始した。

 エコースの砦を取り返してから翌日。次の作戦を考えるべく、先だっての参加者が全員、応接室に召集された。

 また、この間に、リューデリアたちの協力の下、敵側にいる魔法師たちの実体が再確認される。純粋な魔法師は数十人程度で、ほかは人為的なものだというのだ。

 「方法は分からぬが、魔法師の血を体内に取り込んで強い魔力を得た後、固定したらしい」

 「道徳も何もあったモンじゃないね。そうまでして世界が欲しいのか」

 「タトゥのやりそうなことだ」

 魔女の言葉に思わず、副官と総大将は感傷になってしまう。

 「遊撃隊や先発隊も侮れないぜ。今や世界中の傭兵が集まってるからな」

 「その分、個別の首を狙うのは苦手だけどね。力押しって感じかな」

 敵部隊に所属していたヤロとイスモも、少々の違和感を残しているものの、この数日間で溶け込んだらしく情報提供もスムーズに行われる。

 「タトゥは頭が悪いと情報屋が言っていたな。策を練るのは苦手なのだろう」

 「ということは、下の人間が指示をだしてるって事か」

 情報屋やこちら側になった者たちの話から作り出された、敵側の関係図を中心に置くエスコ。王を筆頭に、四人の将がいるようだ。

 参謀役として、最近やってきた魔法師が付いたらしいが、正体は不明で、この人物を合わせて四人らしい。

 「今の戦力ではどこを取っても厳しい。その上で、次の作戦を話す」

 どの将軍を相手にするにも、戦力増強は必須。そのため、地図上では隣にあるカンダル砦の奪還を目指すという。

 エコースを抑えられたことで背後からの攻撃の心配はなく、正面と回り込みが可能になったためだ。

 エコースとカンダルの間には大きな湖があり、そこも生かすことが出来るという。以前、アマンダたちが使った湖である。

 「砦を手に入れられたら、先攻隊を取り込むことが出来るだろう」

 「相手の傭兵たちを味方につける、ということですか」

 「その通りだよ、アマンダ。それを君に任せたい」

 「今回の作戦は一緒に行くよ。体裁上、僕のアシスタントみたいな感じだね」

 実行者はアマンダで、と、付け加えるエスコ。正規軍ではないにしろ、より本格的な戦場に赴くことになるのだ。

 「アードルフの名前を高く上げれば、相手はかなりの確率で怯む。そこを上手く使ってくれ」

 「わかりました」

 体が震えていることを悟られないよう、視線を合わせ、はっきりとした口調で返事をするアマンダ。彼女が自身を支えているのは、この数日間で得かかった信念だけだった。

 「本来なら私も行きたいんだが。首都に戻らなくてはいけないのでね」

 「大体、ここで総司令官が出てくるのもおかしいでしょーが」

 「はいはい。分かってます」

 いじけるように言い放つヘイノだが、威厳はそのままに、各自準備をするよう命令する。

 「兵の配備は僕に任せて。決まったら連絡するから」

 「はい」

 ぽん、と肩に手を置かれるアマンダ。ちゃんと想いを固めるんだよ、と助言される。

 解散となった一行は、つかの間、自由行動となった。

 兄と同い歳の幼なじみの助言に従い、出撃準備はリューデリアとサイヤに任せ、自身は独りになる時間をつくったアマンダ。ふたりとも理解を示してくれ、快諾してくれたのだ。

 貴族が良く使う通路の先に、小さなパーティなら出来そうな広さの庭にやってくる。上流貴族のみが使える庭の使用許可をもらってからというもの、彼女のお気に入りのひとつでもあった。

 備え付けられている紅茶を注ぎ、頼んだミルクを混ぜ、一面に花々が咲き乱れる庭を見るなり、令嬢の心が和む。

 そして、頼りない音を立てながら、紙が開かれる。

 「お兄様がたたかってた理由、か」

 風邪が治ってから、アマンダはヘイノに呼び出され、彼とエスコと共に、兄の目的を聞かされたのだ。

 脳裏に、あの場面が浮かぶ。

 「奴の性格を考えると、家ではこの話をしなかったと思うから、伝えようと思ってさ」

 アマンダは、出された紅茶に手すらつけられない程、緊張する。

 「そう強張らずとも。気楽、って言っても難しいかな」

 「そりゃー、ヘイノとはちゃんと会ってから間もないからねぇ」

 「怖がられていないだけ良かった、と思うべきかい」

 将軍閣下の冗談まじりの笑顔に、アマンダはようやく肩から少しだけ力が抜けた。

 「解れたところで本題に移ろう。コスティは家族を守るため、そして、魔法師達の為に戦っていた」

 エスコが引き継ぎ、こう述べる。

 家族は妹や母君はもちろん、ライティア領の民を守るためで、魔法師たちというのは、彼らの偏見がなくなるようにしたい、って言っていたよ、と。

 「僕らはあまり、魔法師たちの文化に詳しくないから説明しかねる部分もあるけどね」

 確かに、魔法師たちの生活は閉鎖的だ。ライティア家以外、大陸との関与を拒んでおり、同家領の町であるミルディア以外、姿を見せない。

 原因は、力を利用されるのを恐れている、というのがあるが、その力ゆえに迫害された過去も持っている為でもある。

 「君なら知っているかもしれないが、魔導士や魔女は人に非ずという人間もいる。彼女達も知っているだろうが」

 「どんなに違うと言っても、実際見えないからわかんないし」

 コスティはその現実を打破したかったのだ、と彼らは口にする。

 「アマンダ。出来れば君には憎しみではなく、コスティの遺志を受け継いで、私たちと戦って欲しい」

 「たとえ仇を討っても、アイツは、返ってこないんだよ」

 突きつけられた現実と感情の狭間で迷う少女。弱冠十四歳、しかも戦争に身を投じたばかりの者には、そこまで頭が回らないよう。

 男性陣も理解しているらしく、ゆっくり考えるように、と伝える。

 「君の気持ちとコスティの想い、どちらも大事だ。だが、戦いで生き残るには信念が必要不可欠でね」

 「君が戦う理由、決まったら僕らに教えてね」

 「はい、考えてみます」

 記憶が時間を進ませ、少しぬるくなった紅茶を口にするアマンダ。くっきりと目に映る花々は、ゆらゆらと気持ち良さそうに揺れている。

 初めて戦った、あのとき。ただ単に必死で剣を振るっていた。魔法師たちの為ではなく、ただ迫りくる恐怖を払う為だけに。

 そう、目の前のことで精一杯だったのだ。

 「アードルフたちは、何を考えて戦っているのかしら」

 もうひと口、もうひと口と、舌を潤していく。空になった容器は、ようやく仕事を終えて安心したのか、再度はたらくことはなかった。

 突然、ある言葉を思い出す。

 憎しみで振るう剣など教えておりません、愛する者を守るための剣です、と。

 何かが結ばれかかっている気がしてきたアマンダは、立ち上がり、花の前に歩いていく。

 名も知らぬ可憐な植物に触れ、

 「あなたたちも、生きているのよね」

 踏まれても摘まれても、芽を生やし花をつけやがては枯れ、種をつけてまた芽を出す。

 当たり前に思っていた花の連鎖に、強さを見た気がしたアマンダであった。

閲覧して頂き、誠にありがとうございます♪

楽しんで頂けたでしょうか。


続きは後日までお待ちいただくか、note にて先行公開されています。

無料で見れますので、ぜひ遊びに来てくださいね^^

https://note.com/aoimotiduki/n/na5988967fc02

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