第91話
「資格って、何だよ……勝手に決めるな! そんなものがあったとして、それを決めるのはマキじゃないだろ!」
胸の奧から激情がふつふつと込み上げる。
資格だの、権利だの、そういった定規を持ってこの場に駆けつけたわけじゃない。それは俺たちへの侮辱だ。看過できない侮りだ。
抑えきれなくなった感情が言葉となって口を突いた。
「ああそうだよ! 俺はミカナと触れ合うまで誰も信じられなかった! 当然だろ⁉ みんな冤罪だって知ってたはずなのに、誰一人声を上げてくれなかった! 告発した手紙には差出人の名前がなかったみたいだし、マキやリュミが告発してくれた保証もない。俺よりいじめっ子連中を選んだんじゃないかって、ずっと不安だったんだ!」
「ごめん、なさい」
弱々しい声が警報に溶ける。
俺は勢いよくかぶりを振った。
「謝ってほしいんじゃない! 当時声を上げていたらマキやリュミが標的されたかもしれない。仕方なかったってことくらい、俺にだって分かってる!」
理不尽だと思った。
世界に味方はいないと思った。
でも、そうじゃなかった。
誰にだって都合がある。助けたくても、そうできない理由があるかもしれない。
逆にタイミングよく邂逅した人が手を差し伸べてくれるかもしれない。
マキがリュミをおもんばかって動けなかったように。
転属してきたミカナが、俺を孤独から救い出してくれたように。
全ては時の運。一時期の不幸でマキたちを決め付けたりはしない。
「だから資格どうこうじゃないんだ。大事なのはマキが助かりたいかどうかなんだよ。本当は助けてほしいんだろ? でなきゃリュミだけでも、なんて言い方はしないはずだ」
「……いい、の?」
細い指がぎゅっと丸みを帯びた。
俺は黙して続きを促す。
「あたしたち、ジンの手を取って、いいの?」
「マキが、そう望むなら」
マキがためらいがちに視線を上げる。
俺は微笑を作って応じる。
事が事だ。すぐに心の整理をつけるのは難しいだろう。
でもプランテーションを出てしまえば時間なんていくらでもある。今は自分が許せなくても、ちょっと休めば違う答えが見えてくるに違いない。
「坂村の仇ッ!」
心臓が跳ねた。
言い争って注意を向けすぎたのか、少女の接近に気付くのが遅れた。
銃がギラッとした光を反射した。小さな銃口が俺に内部の闇をのぞかせる。
仇。
すなわち、俺が撃った誰かの仇討ち。
逃げ延びるためとはいえ俺は人を手にかけた。その復讐心に駆られて銃を手に取る者が現れることは予測していた。
予測できていたから驚きはない。すぐさまグリップを握ってホルスターから得物を引き抜く。
「ジン!」
目を見開く。
マキが俺をかばうように射線上に出た。
脳裏に後悔の記憶がフラッシュバックする。
想起されるのは、ユウヤの頭から血が流れ出る光景。近しい人が骸と化して地面に在る記憶。
同じことが目の前で繰り返されようとしている。
また、知人が死ぬ。
「やめろおおおおおおオオオオオオオオオオオオオッ‼」
口から叫びがほとばしる。
今日中に最終話まで投稿します。
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