第78話 許して
街は閑散としている。
プランテーションと比べて目を惹く街並みだ。天を衝かんと伸びるビルがキノコの群生を想起させる。
惜しむらくは、それらの外装も弾痕でいびつに飾られていることか。
こんな状況じゃなかったら美麗な街並みを観賞できたはずなのに。
「こっちだ」
先導に続いて私も靴裏を浮かせた。
「これからどこへ?」
「仲間との合流場所へ向かう.。増援と合流することになってるんだ」
「それは心強いですね」
劣勢になっての合流。
言ってしまえば後退だ。私たちが進む先には味方しかいない。
それこそ、敵が追い付いてこない限りは。
「全員足を止めてください」
告げて耳を澄ませる。
微かだけどモーター音が迫ってくる。
距離は二百といったところか。
「小木野さん、人類軍の無人兵器は街に配置されていますか?」
「いや、全て前線に出ている。機械軍を足止めしているはずだ」
「ってことは、街中で見た無人兵器は機械軍所属と考えていいんですね?」
「ああ」
アサルトライフルのグリップを握る指に力がこもる。
モーター音は一つじゃない。今ある装備でどこまで粘れるだろう。
プランテーション時代の戦闘経験で稼げる時間を算出する。
意を決して声を張り上げた。
「無人兵器が近付いています! 小木野さん! 怪我人を連れて合流地点に急いでください!」
視界内の面々が息を呑む。
事態は一刻を争う。一から説明している時間はない。
銃を握る人影を視線で薙いだ。
「私がしんがりを務めます! 銃を持ってる方は私に力を貸してください! 全員で生き延びましょう!」
生きるために戦う。半ば自分に言い聞かせるための発破だ。
病院から連れ出した患者の中には足を怪我した人もいる。いくら急いだって移動スピードはたかが知れる。
きっと私は、ここで死ぬ。
口惜しい気持ちはある。
せっかく助かったんだ、動けない人たちを囮にして逃げるのが最善だろう。増援の人に戦況を教えられるし、戦略的な意味でもそっちの方が望ましい。
でも駄目だ。
頭では分かっていても、それじゃジンくんやツムギちゃんの前で心置きなく笑えない。私は二人の前で胸を張れる自分でいたい。
だからジンくん、ツムギちゃん。
ここで命を落とす私を、どうか許して。
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