第74話 警報
危機感をあおられて心臓が鼓動を強める。
この施設では初めて聞くけど、似たものをプランテーション内でも聞いたことがある。
警報。緊急事態を表すアラームだ。
高坂さんの前に電子的なパネルが現出した。長方形の中で人の顔が映る。おそらくは高坂さんの上官だ。
口が動いても何も聞こえない。ノイズキャンセリングの応用だろうか。プランテーション内で過ごした頃には見かけなかった技術だ。
ホログラムウィンドウが空気に溶けて高坂さんが向き直る。
「駐屯地が機械軍に襲撃されたみたい。行ってくるわ」
「大丈夫なの?」
意図せず声が震えた。
攻め込まれたからには銃弾が飛び交う事態に発展する。少なくともプランテーションで飼われていた頃にはそういうやり取りを行ってきた。
駐屯地が落ちれば機械軍は街になだれ込む。この病院もただじゃすまない。
整った顔立ちに微笑が浮かんだ。
「大丈夫よ。今までだって機械を返り討ちにしてきた。今回だってその中の一回に過ぎないわ」
「私にもできることはある?」
高坂さんが目をしばたかせた。
「まさか、出るつもり?」
「プランテーションでは次席だったし、いないよりはましだと思うの」
純粋な善意による提案じゃない。
現状私の味方と呼べる人は高坂さんだけだ。彼女の身に何かがあれば私の身も危うくなる。もしもの時には逃げられる環境に身を置きたい。
高坂さんが体の前で腕を組む。
わずかな時間を経て口が開いた。
「駄目よ、許可はできない」
「私がプランテーションで育ったから?」
「そうね。個人的には信用しているけれど周りはそうじゃない。玖城さんが銃を手に取ることで周りが戦いに集中できなくなるの。分かってちょうだい」
工作員疑惑のある少女が銃を手に戦場を駆ける。
そんなの嫌でも気を引かれる。正面から来る敵と違って背後や側面を走るんだ。銃口が自分に向けられるんじゃないかと気が気じゃなくなる。
プランテーションには射撃が下手な子もいた。銃口を向けられるたびにヒヤッとしたのを覚えている。
理解できるから引き下がるしかない。
「分かった。あの部屋に戻ってればいいんだね?」
「ええ。大人しく待っていて」
高坂さんが背を向けて廊下を疾走する。
小さくなる背を見届けて、私も向かうべき場所へと歩を進める。