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第51話 カツアゲとカツ揚げ


「オレ金欠でさぁ、分かるよね?」


 三人の少年が口端を吊り上げる。


 人気のない建物の陰に、計四つの人影があった。規格化された制服を着用しているからには仲間のはずだが、一人を壁際に追い詰める様子に和やかさは皆無。壁に背を付けた少年の目には怯えの色が見て取れる。


 にやついた少年が壁を叩く。眼鏡を掛けた少年の口から悲鳴がもれた。


「金だァ、あるだけよこせ」

「も、もうこれ以上は……」

「あんだろオイ! 出せっつってんだよ!」

「とうっ!」


 場違いな声が上がった。跳躍した人影がぐっと脚を伸ばす。


 先端を隠す靴裏が、強面の頬に突き立った。カツアゲを試みた少年が地面の上を転がる。残された人影がぎょっとした。


「な、何だ⁉」

「正義の味方だ」


 少年がフッと笑う。羽織っていた上着を握ってそこら辺に放り捨てる。

 恐喝犯が顔をくしゃっと歪めて腰を上げる。


「誰だてめえッ⁉」

「正義の味方だ」

「名乗れっつってんだよオイ!」

「だから正義の味方っつってんだろーが!」


 薄暗い空間に大声が響き渡った。恐喝犯が背筋を硬直させる。

 

 明るい色合いの髪がたなびいた。自称正義の味方が強面目掛けて腕を振りかぶる。無事二人目も地面に転がった。


「ふざけんな中二病ッ‼」


 一対三の喧嘩が始まった。無駄の多い三人に対し、明るい髪の少年がテキパキとした動きで多数をさばく。


 肉が肉を打つ肉弾戦。連続する鈍い音が、誰に聞かれることもなく鳴り響く。


 一対三。本来勝ち目の薄い状況だが、不意打ちで二人を半ば無力化した後だ。数的不利が解消された今、乱入者の方が優位にある。


「ぬうぇいッ!」


 腕と腕がすれ違う。


 クロスカウンターがさく裂し、最後の恐喝犯が崩れ落ちた。


「おーい、聞こえっかー?」


 乱入者が座り込む。


 返事はない。明るい髪の少年が腕を伸ばす。


 パパパン! 往復ビンタが体育館裏に乾いた音を打ち鳴らした。


「な、何すんだ、てめえ……ッ」


 かすれ声ながらも反抗の意思が再起した。


 パパパン! と再度の打撃音が鋭い視線を打ち砕く。


「そーじゃねえだろうよ。悪いことをしたらまずごめんなさいだぜ? パパとママに習ったろ?」

「んなやつ、いねえよ」

「マジかー。でも俺、パパってガラじゃねえしなぁ……そうだ!」


 ポン。乱入者が拳を手のひらに打ち付け、陽気に口角を上げる。


「よし。俺がお前の兄貴になってやる。栄えある肉弾同好会の三人目にしてやろう」

「……はァ?」


 切れたくちびるから裏返った声がこぼれた。

 

 戸惑う三人を前にしても乱入者の口は止まらない。


「あのよ、俺格闘技にはまってて独学で勉強してんの。でも独学ってさー色々と限界あんじゃん? 書籍や動画とにらめっこして、鏡の前で肉体美晒すくらいしかできねーわけ。んで対戦相手が欲しくなってメンバー勧誘したらよ、そいつが言うわけさ。敵は機械軍、銃があれば問題なかろうってよ。大有りだっつーのな」


 さも友人と語り合うような愚痴が空気を震わせる。


 聞く三人の表情は間抜けだ。こいつ何言ってんだと言わんばかりに呆けている。


「ん? 何黙ってんだよ? また気付けが必要か」

「き、聞こえてる、ぶつなッ」

「そいつぁよかった。俺は思うんだよなー。銃を使うからこそ、肉体も鍛え上げなきゃいけねーってさ。得物ありきの力を自分の実力と勘違いしてたら、そいつは弾切れした時突っ込むだろ? 挙句フルボッコにされて肉の塊と化すわけだ。銃を握る者にこそ筋肉が要る。俺は高らかに叫びたい」

「叫んでろよ、勝手に一人でよ」

「なのによ? どいつもこいつも体術なんかいらねえっつーわけさ。おかげで同好会作って半年も経つのに、メンバーはたった二人なんだ。そんなの間違ってるって思うだろ? 思うって言え」

「その前に人の話聞けよッ!」


 もはやなりふり構わない。乱入者が好き勝手に言葉を並べ続ける。


 強面の少年が握り拳を地面に叩き付けた。


「結局お前何が言いたいんだよ⁉」

「スパーリングの相手がいねえんだ。同好会あるから入れ」


 な! 明るい髪色の少年がにかっと笑んで、恐喝犯の肩に手を乗せる。


「誰がそんなぶフッ⁉」


 特に意味のないビンタが恐喝犯を襲った。


「返事はイエスだろーここは。どのみちお前らに選択肢はねーんだぜ? 暴力に生きる者は暴力に泣く。常識だろーが」

「暴力は、規則違反、だ」

「安心しろ、俺は正義の味方だ。戦闘行為の全てが許されている」

「んなわけあるぶッ⁉」


 肉体言語による説得が続く。

 根気よく説得を受けた甲斐あって、ここに三人の舎弟が爆誕した。


 明るい髪色の少年が満足げに笑んで腰を上げる。


「よおし! 今日からお前らは、我が肉弾同好会のメンバーだ。性根を叩き直してやるから、楽しみにしてやがれ」


 明るい髪色の少年が背を向けて歩き去る。不良がのっそりと起き上がり、自称正義マンが歩んだ逆方向に消える。


 残された眼鏡の少年が靴裏を上げた時、明るい髪色の少年が戻ってきた。


「あーあのよ、一つ頼みがあるんだ。昼飯のカツ丼代どんだい貸してくんね?」

「……えぇ」


 カツアゲを阻止したヒーローがお金をせびって、この一件は幕を閉じた。



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