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第9話『"古の魔女"の復活』

「あのね、ペチュ」

 私の声に反応して、彼女ははっと我に返ったようだ。

「あ、なんでもないよ、なんでもないよ! 気にしないでね、フローちゃん!」

 深刻そうだった表情も元の明るい色を取り戻していた。

「ただ、フローちゃんは知らなかったかもしれないけど、その『竜の刻印』には重要な意味があるの。

 それはかつて聖女様とともに魔女と戦った竜の十二騎士の末裔であることの証で――」

「なるほど、だったら私もあなたが知らないことを教えてあげるわ、ペチュ」

「え、なになに……?」


 目を丸くするペチュの前で、私は背中の模様をぺりぺりとはがしていった。

「うわぁあああぁああ、はがれたぁああああぁあ!?」

 うん、そんなに驚かれると真実を告げるのが恥ずかしくなるわね。

「……これ、ただのシールなのよ。おしゃれかと思ってお店で買った……」

「……………………!!」


 声にならないようだ。その感情が驚きなのか呆れなのかは分からないけど。

 しばらく黙って顔を赤くしたあと、ペチュは私に文句を言った。

「紛らわしいよ、フローちゃん!!」

「ぐうの音も出ない正論ね」

 もう変なシールを自分の身体に貼るのはやめておこう……。変な誤解を生むだけだわ。


 ぐぅううぅううううぅ……。


 と、そのときペチュのお腹の音が鳴った。

「……それよりそれより、お腹が空いたよ」

「そっちはぐうの音が出たみたいね。

 私も昨晩から何も食べてないから、早く何か口にしたいわ。

 それじゃ着替え終わったら、とりあえず食堂に向かいましょうか」

 ずっと上半身下着姿だったせいで、ちょっと身体も冷えてきたわ。

 ……うん、さっさと着替えましょう。黒い服から黒い服に。


 私に倣ってペチュも着替え終わってのち、私たちは食堂に着いた。

 生徒や職員たちだろうか。お昼時にはまだ早いけれど、すでに食堂は賑わっていた。

「パスタにシチューに、フレンチトースト……。

 結構普通にいろんなメニューがあるのね。意外だわ」

「うん? そうかなそうかな、そんなに不思議?」

「カイナスギル市民の主食は森の樹液だと聞いていたから……」

「何その偏見!?」

 旅の芸人がそんなリズムネタを披露していたのだけど……、単なるデマだったのかしら。


「樹液を使った料理が郷土料理として作られているのは事実らしいよ。

 僕の父から聞いた話だけれどね」

「ああ、そうなの、ジャン。……って、いつからいたの!?」

「僕は最初からここでランチを楽しんでいたさ!

 そこに君たちがやってきたんじゃないか!」

 言われて見てみれば、確かにジャンはテーブル席に腰かけて、パスタを食べている途中のようだった。

 私たちと別れたあと、すぐ食堂に来ていたのね……。思っていた以上に早い再会だったわね。


「パスタじゃなくてスパゲッティだよ、ハニー!」

「どう違うのよ……。あと人の心を読まないでもらえる?」


 それから私はアップルパイ、ペチュはフレンチトーストを注文して席まで運ぶ。

 そして、ジャンと一緒のテーブル席を囲んだ。

「さて、ちょうどいい機会だ。僕の素性と、この学園に来た理由を教えてあげよう。

 ああ、ハニーたちは食事をしながらで構わないよ」

 一足先に食事を終えたジャンが大袈裟な身振り手振りとともに、そう言った。

 だけど、私はなんとなく腑に落ちなかった。


「それって話さないといけないことかしら。

 確かにあなたがこの学園に詳しい理由は気になるけれど、無理に事情を話すことはないと思うわ」

「おっと、そう来たかい。うーむ、そう言われてしまうと説明が難しいのだけれどね。

 ただ、これは君たちとは無関係の話ではないんだ。

 何せ僕は、竜の十二騎士の末裔なのだからね!」

「えっ!?」


 竜の十二騎士……、それは先程ペチュから聞いたばかりの言葉だ。

 確かに、竜の十二騎士とその末裔は"聖女"に仕える定めを持っているを持っているとか……。

 なるほど、"魔女"である私と、"聖女の因子"を持つとされるペチュには、確かに関係のある話のようだった。


「……本当に、本当に? 私はジャンくんのこと、今まで知らなかったよ?」

 ペチュはいつになく真面目な顔で、問い詰める様な声色だった。

 私はまだペチュのこともよく知らない。時折こういうことがある子なのかもしれない。

「僕たち一族は長い間身を潜めていたのさ。

 平和な世の中には、"聖女"も十二騎士の末裔も必要ないのだからね。

 無理に名乗りを上げて世を混乱させるべきではない。それが僕ら一族の考えだった。

 事情が変わったのは他でもない。この学園に隠された秘密のせいなのだよ」

「隠された秘密……? ちょっと待って、ジャン。

 そんな話、こんなところでしてもいいの?」

「ああ、すまない。言葉選びを間違えたね。

 隠されているとは言え、少し調べれば誰でも分かることさ。

 この学園が"古の魔女"を復活させるための研究をしているということはね。

 何せ怪しげな研究員が堂々と学園を出入りしているのだから!」


 "古の魔女"……? 次から次へと知らない言葉が出てくる。

 だけど、おそらくその言葉が意味するのは、かつて聖女様と戦ったという魔女のこと……?

 もし仮にそんなものが蘇れば、世界中が混乱に陥るに違いない。

「魔女って、人間にとっては害敵のはずよね?

 だから聖女様に打ち倒されたという話だと理解しているけれど。

 この学園はそんな魔女を復活させようとしているの?」

「確かなのは、そういう研究をしているというところまでさ。

 目的は僕も知らないよ。……と言うより、それを調べるために僕はこの学園にやってきたのさ。

 これが僕の素性と、この学園に来た理由さ」

 なるほど……、大体の事情は分かった。つまりはこういうことだ。


 ジャンは、"聖女"に仕える定めを持つ、竜の十二騎士の末裔。

 そして同時に、"聖女"の敵である"魔女"の復活を、なんとしても止めなくてはいけない存在だ。

 だから、"古の魔女"を復活させる研究をしているというこの学園の調査のために転入してきたのだ……。


「ただね、悪い噂ばかりでもないよ。この学園では、魔導を人々の生活の役に立てる研究もしているらしい。

 たとえば先程のホログラムも、魔導と科学を掛け合わせる研究をして生まれたものさ。

 あれは兵士のトレーニングだとか、怪我や病気で身体を上手く動かせない人のリハビリだとかに使われているのさ」

「ふーん」

 だけど、結局私にはそれほど関係がない話のような気がする。

 だって私は"魔女の因子"を持つとされているけれど、"古の魔女"そのものではない。

 この力を悪用して、不必要に誰かを傷付けるつもりもない。

 それなら私はこのままこの学園でスローライフを――。


「お食事中すみません。あなたがフローリア・ローレンスさんですね?」

 背後から、突然の声。振り返った先には見知らぬ女性がいた。

 ……あれ、でも、この顔、ちょっと前にどこかで見たことがあるような……。

 ともかく私はその女性の問いかけに答えることにした。


「あ、はい。私がフローリアですが――」

「初めまして、私はここの学園長、ローズマリー・ヴィオードと申します。

 少しふたりきりでお話させていただけますか、フローリア・ローレンスさん」


 え。……が、学園長!? 学園長ってこの学園で一番偉い人!?

 そうだ、思い出した! さっき見たマダムの彫像がこんな顔だった!

 ええっと……、また私、何かやっちゃったかしら。もしかして転入テストで壁を壊しちゃったことで怒られる!?


 学園に来て早々トラブル発生!? 私、これからどうなっちゃうの~!?

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