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第5話『何故か懐かれました』

 それはさておき、私に吹き飛ばされた山賊たちは、まだ意識があるようだった。

 身体をふらつかせながらも、どうにか全員立ち上がった。

 まあ私も倒すつもりで魔法を放ったわけではない。

 ただ力を見せつけて、戦う気力を奪いたかっただけだ。

 そして、その思惑は見事に成功しているようだった。


「うぅ……、なんてバケモノだ……」

「とんでもねぇ女だぜ……、迂闊に近付くとやられちまう……」

「畜生、これじゃ手出しできねぇぞ……」

 たとえ身体が動いても、心が折れれば無力化する。

 私の魔法を食らった奴も、そうでない奴も、その威力を警戒して動けなくなっているようだった。

 こうなれば、あとは親玉をどうにかするだけだ。


「さあ、あなたの子分たちは戦意喪失しているみたいよ?

 どうする? たったひとりでも私に立ち向かってみる?」

「ぐぬぬぬぬ……。舐めやがって……。

 この俺様が尻尾を巻いて逃げ出すとでも思ってやがるのか!? かくなる上は……!!

 うおぉおおおおぉおおおおお!!」

 親分はそんな雄叫びとともにこちらに突っ込んできた。


 やれやれ、痛い目に遭わないと分からないのかしら。

 そっちがその気なら、こちらももう遠慮はなしだ。

 私は構え直す。今度は地面ではなく、直接相手を狙うように手のひらを向けて――、


「参りましたぁあああああぁああ!!」

「………………はい?」

 目の前には、土下座をするスキンヘッドの大男。

 一瞬、私は何が起きたのか分からなかった。これってまさか降参?

「お願いします! 何卒! 何卒命だけはお助けを!!」

 ……降参じゃなくて命乞いだった。

 いや、初めから命を取るつもりなんてないんだけど。

 まったくもう、私は確かに悪役令嬢だけど、これじゃどちらが悪党か分からないじゃない!


「俺たちゃ、田舎から出てきてどうにか家族を養う金が欲しかっただけなんです……。

 あなたに慈悲の心があるならば、どうか、どうかこれくらいでお見逃しくだせえ!!」

「如何にも嘘臭い話だけど……、もし本当なら傭兵か用心棒でもやりなさいよ。

 多少は腕に自信があるから、山賊なんかやってるんでしょう?」

「へへー! 仰る通りで!!」

「まあ私としては今すぐ立ち去ってくれれば、これ以上はーー」

 私がその台詞を言い終える前に、奴らの身体はすでに動いていた。


「よし、撤退だ! お前らずらかるぞ!!」

「「「お、おおー!!」」」

 そう言って山賊たちは姿を消していった。まさに脱兎のごとくだ。


 ……逃げたわね。尻尾をとぐろに巻いて。

 まあ、それよりも私としては、それよりもペチュと御者さんのほうが気になった。


「ペチュ、もう大丈夫よ」

 私はペチュのほうを見ないで、そう口にした。

 きっと彼女は今も怯えているはずだ。それは山賊にじゃなくて、私に対して。

 こんな"魔女"なんて恐れて当然だ。私は彼女の発するどんな言葉も甘んじて受け入れよう……。

 時間に直せば数秒のことでも、彼女が口を開くまでの時間は永遠のように感じた……。




「す」

 ……す?

「っごーーーい!! すごいよすごいよ、フローちゃん!

 今のってフローちゃんの魔法だよね!? こんなにすごい魔法、初めて見たよ!!」

「へ? そ、そう?」

 それは予想外の反応だった。

「うんうん、私の魔法なんて全然駄目だもん!

 学園に着いたらさ、稽古をつけて欲しいくらいだよ。

 ……やっぱりやっぱりフローちゃんが"黒衣の魔女"だっていう噂は本当だったんだね。羨ましいよ」

 ……何? そんなに有名なの、その噂?

 ただ黒い服を着て町を歩いてるだけで? 倉庫全焼事件以外は大きな騒動は起こしてないつもりなんだけど。

 ……たまに町のチンピラをとっちめてたのも除いて。

 とにかく何故だか知らないけれど、どうやら私はペチュに懐かれてしまったようで……。


「と、ともかくこれで危機は去ったようですな……。

 いやはや、一時はどうなることかと思いましたが。ありがとうですじゃ、フローリア様」

「ありがとうありがとう、フローちゃん!!」

 ううん、そんな真っ直ぐな瞳でお礼を言われると、ちょっと照れる。

 別にそんなに大変なことをしたわけじゃないし。

 でもまあ、いっか。喜んでくれてるんだったら。




 そんなこんながありつつも、私たちは2日をかけて、カイナスギルの魔導学園に到着した。

 途中の町で宿に泊まったりしながらも、なんとかたどり着くことができたのだ。

 今は目の前に学園の正門が見えている。多少古びてはいるけれど、立派な鉄製の門だ。


 ただ、御者さんは途中で山賊に出くわしたことを電報でどこかに報告したりと、ちょっと大変そうだった。

 本当は奴らの身柄を拘束したほうがよかったのだろうけど、いずれにしても私ひとりで全員を捕らえることは難しかっただろう。

 とにかく私たちがここまで無事に来られたのは御者さんのおかげだし、感謝をしないと。


「長旅お疲れ様です。御者さんのおかげで、無事にここまで着きました。

 本当にありがとうございます」

「何をおっしゃる。あなたがいなければ、わしは山賊に身ぐるみはがされるところでしたぞ」

「あのねあのね、私思うんだ。

 フローちゃんの魔法も、御者さんの手綱さばきも、どっちも必要なものだったんじゃないかなって。

 だからだから、ふたりともありがとうございました!」


 ペチュは私と御者さんに満面の笑みを向けて、そう言ってくれた。

 その笑顔に、御者さんは思わず涙ぐんでしまったようだ。

「おっと、いけませんな。この年になると、涙もろくなってしまって。

 ともかくわしはここでお別れですじゃ。それではおふたりとも、どうかご達者で」

「ええ、御者さんもお気をつけて」

「さようならさようならー!」

 私たちが別れの挨拶に応えると、御者さんは馬車とともに去っていった。


 ここから先は私とペチュのふたりきりだ。

 確か学園には寮があって、私たちはそこで生活することになるのだけど――。


「寮ってどこにあるのかしら?」

「えっとえっと、入学案内のパンフレットは持ってるよ。

 でもでも、この学園って結構広いみたい。ここが正門だから、とりあえずまっすぐ行って……」

 私はペチュの持つパンフレットを覗き込む。

 そこには案内図が載っていたが、抽象的なイラストで位置関係が示されているだけで分かりづらかった。


「こちらの食堂のほうから回り込んだほうが近そうだけど、距離感がよく分からないわね。どうしようかしら」

 私は悩みながら周囲を見回す。

 すると、正門の陰に佇んでいた男の人が近付いてきて、こちらに手を振ってきた。無論、初めて見る人だ。


「やあやあ、ハニーたち。

 その様子だと、どうやら転入生のようだね? 新入生が来る時期ではないしね」

 その男の人も私たちと同い年くらいのように見える。

 髪型は茶髪で、毛先がくるくるとカールしていて、なんだかナルシストのようだった。身振り手振りはやたらと大袈裟だし。

 ただ、悪い人ではなさそうね。……なんで学園で白いタキシードを着て、胸元に赤い薔薇をさしてるのかは分からないけど。

 私は率直に疑問を口にする。


「あなたはここの学園の人?」

「そうさ、怪しい者じゃないよ。僕の名前はジャン・クック。

 どうだい、この僕が学園を案内してあげようか?」

「私の名前はフローリア・ローレンスよ。

 ええ、是非お願いするわ。よろしくね、ジャン」

「あのあの、私はペチュニア・ヴィオラセラです!

 よ、よろしくお願いします!」


 私とペチュが自己紹介すると、ジャンは満足そうに微笑み、意気揚々と歩き出した。

「うむ、いい名前だね、ハニーたち。

 さあ、この僕についてきたまえ!」

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