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第4話『黒衣の魔女』

 これまでのあらすじ!


 ローレンス家から追放された"魔女"である私フローリア・ローレンスは、辺境の魔導学園に向かう馬車の同行者として、ペチュニア・ヴィオラセラという少女に出会った。

 ペチュはヴィオラセラ家が代々受け継ぐと言われる"聖女の因子"を持っているが、魔法の才能はからっきしらしい。

 彼女はそのせいで『落ちこぼれ令嬢』と呼ばれてしまっているのだ。


 だけど、私はそんなこと気にしないんだから!

 はるか昔にあったという『聖女と魔女の戦い』だって関係ない。

 これからともに同じ学園に通う仲間として、彼女と仲良くしなくっちゃ!

 むしろこれからの学園生活が楽しみだわ!! 私、これからどうなっちゃうの~!?


「おらおらおらぁ! 何ぼさっとしてやがんだぁ!」

「命が惜しけりゃさっさと馬車から降りなぁ!!」

 ……うん、あらすじで誤魔化そうとしても、山賊はいなかったことにならないわよね。知ってた。


「ひぃいいぃいいいぃ、わしは金目の物など持ってませんのじゃ!」

「ふん! じいさんはあてにしちゃいねぇよ。

 だが、そっちの嬢ちゃんふたりはどうかな? どこぞの富豪か貴族の娘のようだが……」

 山道さんどうの途中で出くわした山賊たちは、窓越しに私たちの身なりを見て品定めしているようだ。

 下っ端とみられる山賊のひとりがナイフをちらつかせて、私たちに外に出るように促している。


「どうしようどうしよう、フローちゃん……!」

「ここは奴らに従うしかないわ。馬車を降りましょう」

 私は怯えるペチュを、せめて背に隠せるように、顎で指示して馬車の扉を開けた。

 私が両手を挙げながら馬車を降りると、ペチュもそのあとを両手を挙げながらついてきた。


「おい、荷物を確認しな」

「へい、親分!」

 スキンヘッドの大男が子分とみられる痩せ型の男に、私たちの荷物を探るように指示している。

 あいつが親分か。随分と分かりやすい見た目ね。


「へっへっへ、何か金目の物はないかなっと……。

 ん、なになに? 『ひょっとこ太郎、夜な夜なキャバレーに行く』?

 なんだ、この意味不明な本!?」

「ちょっと、乙女の荷物よ! 丁重に扱ってよね!!」

 山賊のひとりが私たちの荷物を乱暴に、鞄から引っ張り出している。

 着替えとかだって一応入ってるのに。男の人に触られるだけでも不愉快だ。


「ふん、強気な姉ちゃんだな。俺たちゃ山賊だぜ、山賊?」

 親分もまた、ナイフをちらつかせて、私たちを脅しつけてくる。

 あんなでかい図体しておいて、あんな小さな刃物に頼るのね。しょうもない男だわ。


 さて、ここまでの様子を見てもらえば分かるように、私はこの状況をピンチだとは思っていなかった。

 私の"魔法の才能"を発揮すれば、こんな奴ら簡単に蹴散らせる自信があるからだ。


「……ところで御者さん。

 もしかしてあなた、実は凄腕の剣士だったり、強力な魔法使いだったりしません?」

「は、はあ!? 何を言っとる!?

 わしはこの道一筋40年――」

「ですよね。だったら、そのまま手を挙げててください」

 状況を整理しよう。まず御者さんに戦闘能力はない。

 そしてペチュは『落ちこぼれ令嬢』……。そのうえ、この怯えっぷり。

 おそらくふたりの力では、この状況を打開することはできないだろう。

 となると、……私しかいないじゃないの。


「おい、てめえ! なんで手を降ろしてやがる!?」

 親分の巨体も喚く声も、私にとっては恐ろしくない。

 私が唯一恐れているのは、『恐れられること』。

 私の力を見た者は、誰しもが私を恐れるようになった。


 ――あれはそう、私が5歳のときだった。

 父が大事にしていた壺を誤って割ってしまった私は、『お仕置き』として古びた倉庫に閉じ込められた。

 私は必死に謝ったのに、父は決して許してくれなかったのだ。

 暗くて、狭くて、薄汚れた空間に、ただひとり押し込められた私は不安に押し潰されそうだった。

 どうにか外に出ようと、必死にドアノブを回したけれど、扉はびくともしなかった。

 唯一の窓も鉄格子が取り付けられており、外へは出られそうになかった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!

 ここから出して! お願い出して!!」

 倉庫の外に向かって叫び続けても、誰も助けに来てくれなかった。

 父が誰も倉庫に近付くなと命じていたに違いない。


 がたがたっ!!


 やがて声も枯れ、涙も流し尽くそうかというとき、倉庫の奥から小さな物音が聞こえてきた。

 幼い私は恐怖で身体が硬直していたけれど、なんとか顔だけは振り返って、その物音の正体を確かめた。

「な、何……!? なんなの!?」

「ぢゅぅうううぅううぅうう!!」

「ひぃっ!?」


 それは小さな灰色のネズミだった。

 もし噛まれれば病気になってしまうかもしれないけれど、今にして思えばそれほど恐れるものではなかった。

 むしろネズミも、私が大声を出してしまったせいで怯えてしまったのだろう。

 興奮したネズミは私に向かって突っ込んできた。


「こ、来ないで……! こっちに来ないでぇえええぇえええ!!」

 私はネズミに向かって、思いっ切り両手を突き出した。

 ……そして、そのとき不思議なことが起こったのだ。

 なんと私の手のひらから、大きな炎の玉が生み出され、それがネズミに向かって飛んでいったのだった。

「な、何これっ!?」


 その炎はそのまま倉庫を燃やし尽くした。大惨事だ。

 私はと言えば、火事に気付いて駆けつけてくれたドロシーになんとか助けてもらえた。

 倉庫にしまわれていた宝物品もすべて焼けてしまったけれど、さすがに父も呆気に取られて何も言えなかったようだ。

 こっぴどく叱られるに違いないと思っていた私は拍子抜けしてしまった。

 だけど、その代わり、その日から私は周囲から"魔女"として恐れられる存在になったのだった。


「おい、聞こえてんのか、このアマ!

 さっさと両手を挙げろ!」

 うるさいな。『覚悟』を決めてるんだから黙ってろ。

 それはあの子に嫌われる『覚悟』だ。……せっかくいいお友達になれるかもしれないと思ったのにな。


「フ、フローちゃん……?

 ねえねえ、大人しく言うことを聞いたほうが……」

「ごめんね、ペチュ。私はこれから、あなたに怖い思いをさせてしまうわ」

「へ……? どういうことどういうこと!?」

 私は挑発するように親分に近付きながら、大きく息を吸い込む。

「さあ、どこからでもかかってきなさい!

 まとめて相手にしてやるわ!!」

「な、なんだとぉ……? 俺たちと戦おうってのか!?

 野郎ども、こいつに襲いかかれ!!」


 親分の合図とともに、10人ほどの山賊が私を取り囲む。

 そして奴らは一斉に私に近付いてくる!

「馬鹿ね、まとめて来いと言われて、本当にまとめて来るなんて」

 そう言って私は地面に両手をついた。もちろんそれは降参の合図なんかじゃない。

 それは御者さんやペチュに被害がいかないように、引き寄せた敵を一掃する魔法『地と風の輪舞曲ロンド』!!


「はああぁぁあああぁっ!!」

 その刹那、私の周囲の大地だけが大きく揺れる!

 そして同時に風が巻き起こり、私に近付こうとした山賊だけが吹き飛ばされる!!

「ぎゃああああぁぁああっ!?」

「なんだこりゃぁああああぁああぁあああっ!!」

 そして、その周辺には私だけが取り残された。

 やや離れた場所にいた親分は無事だったけど、私の力にすっかり委縮しているようだった。


「え、詠唱もなしに、地の魔法と風の魔法を同時に操ったのか!?

 まさかあの噂は本当だったのか……? このあたりには恐ろしい魔女がいると!

 お前があの『黒衣の魔女』か!?」


 ……黒っぽい服が好きなだけなんだけどな。

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